家族葬時代の「心のケア」 お別れ会、親族や仲間と思い出話を
芸能人や会社役員ら著名人が亡くなった後に、しばしば開かれる「お別れ会」。葬儀は身内だけの密葬で行い、後日、関係者や友人らを招いて行われる「故人を偲(しの)ぶ会」だ。平成6年にホテルオークラ東京(東京都港区)が開いた「故人を送る会」が始まりだといわれているが、家族葬が広がるにつれて、徐々に一般市民の間でも開かれるようになった。22年ごろには全国各地でお別れ会が開かれるまでになっている。
◆バスケ一筋の青春
神奈川県横須賀市出身の男性は、小学生でバスケットボールを始め、子供たちのコーチとして活躍するなど、バスケ一筋の人生だったが、20代で帰らぬ人となった。葬儀は家族のみで執り行われたが、その後、生まれ育った横須賀市で、お世話になった人たちに恩返しをしたいと、両親がお別れ会を開いた。
28年7月、同市内のホテルで行われたお別れ会には、バスケ仲間や学生時代の友人、教え子ら約140人が参加。水色と白の花で涼しげにまとめられた祭壇には、友人らが手作りしたバルーンアートが飾られ、祭壇横の展示コーナーには男性の写真やユニホームなどが多数並べられた。
当日は友人が思い出のエピソードを次々に語るなど楽しく盛り上げられ、会の終盤には全員で円陣を組み、かけ声でクライマックス。ユニホームに寄せ書きをして記念撮影を行った。最初は静かに見守っていた両親も、笑顔で写真に納まっていた。
◆ポイントは愛の深さ
故人が一般市民の場合でお別れ会が開かれるのは、社会的なつながりが強い、比較的若い年齢で亡くなったケースがほとんどだ。お別れ会が広がり始めた当初は、配偶者に先立たれた夫や妻が主催者になることが多かったが、近年では葬儀が家族葬のために参列できなかった会社の同僚や上司、友人、趣味の同好者らが遺族の了承を得て開催するケースが増えている。
葬儀やお別れ会を支援する日比谷花壇によると、開催する人たちに共通するのは「愛の深さ」だという。27年にお別れ会事業部「ストーリー」を立ち上げた鎌倉新書(東京都中央区)も、「何人集まるかよりも、主催者の思いの強さの方が重要」だという。宗教儀礼にのっとった葬儀と異なり、お別れ会は「故人や家族が何を望んでいるか」「故人はどんな人だったか」がベースにあり、遺族や友人ら主催者の希望を優先した形で行われる。
開く時期は四十九日の前後や一周忌ごろが多く、費用は1人8千~1万5千円程度。主催者(喪主)が負担する場合もあれば、会費制で行われる場合もある。
◆最後は晴れやか
死去の後、数日のうちに慌ただしく行われる葬儀とは違い、お別れ会は準備のために、長い場合は数カ月を要する。その過程で、ふさぎ込んでいた遺族が少しずつ気持ちを整理していく。お別れ会そのものはもちろん、開くまでの取り組みも遺族の悲しみをケアするものとなる。そのため会を終えると、遺族も晴れやかな笑顔に変わっている場合が多いようだ。
「お別れ会」がまだ社会に十分浸透していないことから、戸惑う参加者は少なくない。しかし、不安な気持ちで会場入りした人も、故人の家族や懐かしい仲間と再会し、故人の思い出話をすることで、「来てよかった」「これで前に進める」と曇りのない表情で帰ることができるという。
かつて村が総出で葬儀を行っていたころ、遺族や親しい人々の「心のケア」は葬儀の役割のひとつだった。いま、その役割はお別れ会が担いつつあるといえそうだ。(「終活読本ソナエ」 新春号から)
関連記事