認知症保険 「早期発見」をサポート 軽度で支払い、サービス多様に
認知症の重症化予防に役立つ保険が注目されている。初期症状への対応だけでなく、予防のためのサポートが充実しており、シニア層の関心も高い。認知症患者は6年後には700万人に拡大することが見込まれるが、「備え」の選択肢も増えている。(玉崎栄次)
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◆2年ごとに給付金
1人暮らしの岡本房子さん(80)=横浜市=は昨年10月、太陽生命保険が発売した「ひまわり認知症予防保険」に加入した。
「今は認知症の心配はないが、将来はどうなるか不安だ。予防のきっかけになるならと思い契約した」
同保険は認知症(アルコールに起因するものなどは除く)と診断された場合に保険金が支払われる。ユニークなのが、加入1年後から2年ごとに支給される3万円の「予防給付金」だ。
近年、認知症は、その前段階の軽度認知障害(MCI)の時点で適切な治療を受ければ、症状の抑制が期待できるとされる。MCIは血液検査で発症リスクが分かる。予防給付金を検査費用(2万円程度)に充てるなど、「早期発見や予防の取り組みに生かすことができる」(太陽生命広報の岡本将典さん)。
昨年10月の販売以降、4万契約を突破し、ニーズの高さをうかがわせる。
◆MCI診断で前払い
認知症保険の保障内容はこれまで主流だった一時金や年金から、予防や早期発見へとシフトしつつある。
損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険が昨年10月に発売した「リンククロス 笑顔をまもる認知症保険」も予防に重点を置いた商品。MCIと診断された時点で、認知症に進行した際に支払われる保険金の5%が前払いされ、症状改善に役立てることができる。
国の試算では、平成24年に約462万人だった65歳以上の認知症患者は、37年には700万人前後に拡大する見通しだ。認知症保険の“革新”には、こうしたニーズが背景にある。
昨年12月には、大手で初めて第一生命保険が認知症保険に参入した。
目の動きから認知機能を確認できる専用のスマートフォンアプリを使った予防サービスを提供する。家族と離れて暮らす1人暮らしなどの場合に備え、緊急時に警備員が駆けつけるサービスも生保業界で初めて導入した。
日本生命保険は、人工知能(AI)スピーカーを活用し、専門医が監修したクイズなどを出題することで、生活習慣から認知症予防につなげる「ニッセイ脳トレ」を契約者以外にも無料で提供している。
◆家族と情報共有を
ただ、認知症という病気の特性から、症状が進行すると契約者本人が加入していることを忘れてしまう恐れもある。
このため、保険加入の際は家族との情報共有が大切になる。本人に代わり家族が契約内容を照会できたり、代理で保険金請求できたりする制度も整えられている。
ファイナンシャルプランナー(FP)の竹下さくらさんは「相続などを家族で話し合うタイミングで、認知症保険についても確認するといい。子供やその配偶者など、信頼できる家族から広くサポートを得られるよう準備しておけば安心だ」と助言している。
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■介護保険も「予防」に重点
民間の介護保険も「予防」を前面に出した商品が登場している。朝日生命保険が昨年10月に発売した「あんしん介護 要支援保険」は、業界で初めて、公的介護保険で「要支援2」と認定されると保険金を出す。リハビリなど介護予防に充てることができる。
要支援2は、立ち上がりや歩行などが不安定で時々介助が必要な状態。同社の推計では、平成27年に85万人だった要支援2の認定者は、37年に116万人に膨らむ見通しだ。同社は「軽度の介護状態に備え、積極的に重症化予防につなげてもらいたい」としている。
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