カギは「バカロレア」 全国初の公設民営一貫校が狙う人材育成
受験シーズンで注目を集めているのが、全国初の公設民営の中高一貫校として、4月の開校を目前に控える「水都国際中学校・高校」(大阪市住之江区)だ。学校法人大阪YMCA(同市西区)が運営し、外国語教育に重点を置き、国際的な大学入学資格を得られる教育プログラム「国際バカロレア(IB)」を授業に導入予定だ。世界で活躍するグローバル人材の育成を目指す取り組みは国も支援を進めている。(地主明世)
6倍超える倍率
2月2日、水都国際中1期生の合格発表が行われた。定員80人に対して507人が応募、倍率は6.34倍に上った。発表時の会場での混雑が予想されたことから、同校ではホームページ上でも合格者を発表。午前10時に同校で行われた合格発表では、受験者たちが運動場に集まり、自分の番号を見つけると、歓声を上げていた。
大阪市の吉村洋文市長は「物事を考える力を重視する学校。個性ある教育を受けたい子が学び、世界で活躍してくれたら」と期待を込め、「大阪はこれから国際化していく。引っ張っていけるようにがんばってほしい」とエールを送った。
同校で導入予定なのがIBだ。一体どんなプログラムなのだろうか。
自ら考える力を養う
「(米国の)ウォール街のデモが社会にどんな影響を与えたかを調べています」
1月24日、大阪市北区の「大阪YMCAインターナショナルスクール」の教室で行われた授業で、中学2年の女子生徒は笑顔でこう話した。周囲の生徒も本やパソコンに向き合ったり熱心にノートをとったりと、思い思いのスタイルで授業に参加していた。
授業のタイトルは「個人と社会」。IBのプログラムに基づく授業で、イデオロギーなどの概念を理解することを目指す。この日はデモ活動を切り口に問題を分析。教諭は行き詰まったときに助言するなど、あくまでサポート役に徹し、学ぶ主体は生徒自身だ。ウォール街で起こったこれまでのデモの事例のほか、香港の大学生らが民主化を求めて行った大規模な抗議活動など、生徒自身が個々に関心のある題材を決め、原因や結果、社会への影響などを掘り下げた。今後はグループワークで気づきや学びを共有するという。
同校は、IB認定校として国際基準に沿って3~19歳までを対象に教育プログラムを実施。これまでの実績は、大阪市の水都国際中学・高校の授業にも生かされる予定だ。大阪YMCAインターナショナルスクールのマーク・メシッチ副校長は「調査スキルを磨き、自ら疑問を持って追求していくことが授業のコンセプト。座学もあるが、グループワークも多い」と話した。
英語教育にも力
IBは、国際バカロレア機構(本部・スイス)が提供する国際的な教育プログラム。親の転勤などでさまざまな国に転居する子供たちが一貫したプログラムによる教育を受け、国際的な大学に入学できるルートを作ろうと1968年に設けられた。多様な文化の理解や、探求心、知識、思いやりなどに富んだ若者の育成が目標となっている。
年齢に応じたプログラムがあり、16~19歳を対象とした「ディプロマ・プログラム(DP)」は、所定の科目を2年間履修し、試験を受けて認められれば世界各国の大学入学資格が与えられる。科目には数学や理科のほか、ダンスなどの芸術やボランティア活動、論文、「知識」について考える「知の理論」などがある。
導入予定の「水都国際中学・高校」では、英語教育も重視。海外の学生との交流や海外語学研修を受けられ、中学から数学や理科などで英語授業を取り入れる。高校2年からは本格的なIBコースを設ける方針で、それ以外にも、全生徒が課題探求や論理的思考力の習得を目指すIBスタイルの授業を履修することになるという。
市の担当者は「今ある学校は否定しないが、水都国際ではツールとして英語を身につけ、成果を他人に示すためのプレゼンテーション能力を育みたい。日本語でも難しいことだが、その力がゆくゆくは日本のすばらしさを世界に発信することにもつながる」と期待を込めた。
国も人材育成に本腰
文部科学省によると、IBの認定を受けている学校は今年1月現在、世界の150以上の国・地域で約5千校。日本では、小中高校やインターナショナルスクールなどで87校だが、国公立については4校に留まる。
国は平成25年6月に閣議決定された「日本再興戦略」で、グローバル化に対応できる人材育成のためにIB認定校を200校へと拡大させることを目標に掲げた。これまで教員養成のためのワークショップを開催したほか、高校卒業に必要な単位の一部をIB科目の履修で満たすことができる特例措置も導入。国内の大学にIBの活用を呼びかけ、現在、京都大や大阪大、関西学院大、近畿大など50以上の大学がIB資格を生かした入学を認めている。
公立では、すでに開校している北海道の札幌開成中等教育学校や東京都立国際高校のほか、山梨県立甲府西高校、埼玉県の大宮国際中等教育学校、広島県立広島叡智学園中学・高校などがIBの導入を目指す。
日本の学習指導要領に沿いながら、国際的な資格も得られる新たな試み。公立学校への導入は、費用面での保護者の負担を軽減でき、子供たちの進路の選択肢が広がることになる。
文科省の担当者は「バカロレアを一つのモデルケースとして子供たちが主体的に学ぶ好事例を作りたい。公立校への広がりは地域で先進的な学びができるよいきっかけだ」と話した。
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