迷える読書民を救う!? まちの書店の「カウンセリング」受けてみた
面白そうだと思って買った本がハズレだったときは悔しい。かといって、今まで読んだことがない作家やジャンルに踏み出すのは、ちょっとした勇気がいる。そんなジレンマを解消してくれそうな、面白い取り組みを大阪市内の小さな書店で見つけた。書店で行っているのは「読書カウンセリング」。店主がカウンセラーとなり、その人の好みや気持ちなどに応じて、おすすめの本を紹介してくれるのだという。新たな本との出合いを求めて、“患者”になってみた。(渡部圭介)
診断は…
大阪メトロ西梅田駅にほど近い「堂島」と呼ばれるエリア。目的の書店はちょっぴり古ぼけた印象のビルの2階にあった。店名は「本は人生のおやつです!!」。小さな看板が掲げられた一室のドアを開くと、本棚の影から店主の坂上友紀さん(39)が現れ、ニコニコしながら「ようこそ」と出迎えてくれた。
古書や新書でびっしり埋まる10坪ほどの広さの店内。机を挟んで坂上さんと向き合うと、カウンセリングがスタートする。まず最初に、「普段、本は読みますか」と聞かれ、その後は矢継ぎ早にさまざまなことを聞かれる。
-どんなジャンルが好きですか
「ミステリーです。でも、例えば横溝正史はちょっと違う…現実感のあるストーリーが好きです」
-横溝正史よりも、松本清張って感じですね
「そう、そう!」
-好きな作家はいますか
「誉田(ほんだ)哲也さん。警察の描写がリアルで…いや私、警察取材も担当したことがあって、事件が起きたとき、警察はこう動くというのを見聞きしていたものですから」
-武士道シリーズ(剣道部の女子高校生が大人になるまでを描いた青春スポーツ小説)もいいですよね
「読みました。誉田さんの文体は自分に合うようで、すごく読みやすい」
-今、どんな気持ちになりたいですか
「最近、仕事でモヤモヤしているので、すがすがしくなりたいです」
といったやりとりを10分ほど続けた後、坂上さんが“診断”を下す。「風が吹き抜ける感じの本が合うと思います」
あふれる本への愛
棚に並ぶ本の物色を始めた坂上さん。まず薦められたのが高田郁(かおる)の『出世花』。「江戸時代が舞台で、映画『おくりびと』を思い起こすストーリーです。読み終わると、体の中がきれいになったような気分になりますよ」
次に示されたのが探検家、星野道夫の『旅をする木』。「ものの見方がすごいシンプルです。シンプルだからこそ深くて、人間の真理みたいなものが、ポッっと出てくる」
海外の作品も出てきた。デンマークの作家、イサク・ディーネセンの『バベットの晩餐(ばんさん)会』。「映画にもなりました。宝くじを当てた女性が大事な時を過ごすためにお金を使います。小さなできごとを、誠実に書いている感じがすごくいいですよ」
本へのあふれる愛、深い知識を感じさせる解説を聞いていると、どれも読んでみたくなるのだが、「海外作品はちょっと…」。すると「食わず嫌いでしょ」とずばり指摘された。確かにあまり手にしたことがないので、『バベットの晩餐会』を購入した。
読まない人に届けたい
幼少期から本を読み続けてきたという坂上さん。大学卒業後も書店などで勤務したが、「本棚には売れ筋の本だけを並べ、売れない本は返品する。お客さんと話す機会もない」姿勢になじめず、自分好みの書店をつくりたいと一念発起。平成22年に「本は人生のおやつです!!」をオープンした。
店名で「人生のごはん」としなかったのは、人生の主役は「人」であって、本は「脇役」であってほしいという願いが込められているのだとか。理想は「本を読まない人が気軽に訪れることができる店」。読書カウンセリングを始めたのも、どんな本を読んだらいいのか分からない人に、本を届けたいという思いからだった。
若者の読書離れが指摘され、書店をめぐる環境は決して優しくないが、「読まない人に読みたいと思わせれば、まだまだ本は売れる」と前向きだ。「読書は勉強みたいな印象があるけれども、娯楽なんです。読んだら楽しいのに、読まれていない。いい本がいっぱいあるのに、これを生かさない手はないと思うんです」とも語る。
本探しのコツも聞いてみた。「書店の人に、『何かおすすめの本はありますか?』と聞いてみること」だそう。そして、「数打てば当たります。本選びで失敗するのは嫌でしょうが、そのときは失敗したなと思っても、何年かたって読み返したら良く思うこともありますよ」
読んでみたものの、「ハズレだな…」と思って棚の奥にしまっている本を、また開いてみようか。
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■「本は人生のおやつです!!」 大阪市北区堂島2の2の22、堂島永和ビルディング206。開店時間は火~金曜が正午~午後8時、土曜・祝日が午前11~午後6時。日、月曜は定休。電話06・6341・5335。カウンセリングは随時。
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