【受験指導の現場から】スマホ中毒の本当の怖さを知ってますか? 合否の分かれ目にも

 
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 【受験指導の現場から】2月19日、「スマホ校内持ち込み容認へ 大阪府がガイドライン素案」とのニュースをメディア各社が一斉に報じた。これには文部科学省も即座に呼応し(根回し済みなのだろうかと勘繰りたくなる)、翌日には「小中学校へのスマホ持ち込み、見直し検討 文科省」といった続報がされている。直後の別の記事によると、柴山昌彦文科相は、「大阪府の動向を注視しつつ、学校を取り巻く社会環境や児童生徒の状況の変化を踏まえて検討を進めたい」と慎重姿勢を崩していないものの、著名な教育評論家である尾木直樹氏は、「信じられない愚策」とブログで即座に反応し、ネット上では賛否が真っ二つだという。

 小・中学生が校内にスマートフォンを持ち込むことに功罪両面があるのは当然であるが、小欄では今回その是非を論じよう、というのではない。今回のテーマは、「小・中学生が日常的にスマホを使うことが、成績(学力)にどの程度影響しているのか」である。

 せっかく勉強した成果まで…

 小欄でこのテーマを取り上げることにした、その事の発端は4年ほど前に遡る。ある集まりの場で当時の地区責任者から、「4~5年前に比べると子供たちの記憶力が下がってきていると感じているが、皆さんはどうか? 何か思い当たることがあれば報せてほしい」という話が出た。

 4年ほど前というと2015年の前半、ちょうど校舎内でスマホを操作する(もちろん、休憩時間であるが)中学生が目立ち始めた時期と一致する。

 先の話を聞いたとき、筆者にはすぐにピンときた記事があった。2014年8月18日、「週刊文春WEB」に「スマホ1日1時間以上」で子供の成績が下がる! 中学生2万4000人調査が証明」という記事が掲載されていたことを覚えていたからだ。

 この記事は、仙台市が実施した2013年度の標準学力検査「仙台市生活・学習状況調査(調査対象は仙台市立中学校に通う全生徒2万2390名)」の結果を東北大学の川島隆太教授が解析したもので、その概要は今でも仙台市のホームページから辿って見ることができる。

 以下に、筆者なりの解釈も含めた要点を記す。

 平日の勉強時間が同じくらいの生徒ごとにグループ化し、それぞれのグループ内で「1日あたりのスマホ使用時間」と「数学の成績」との関係を見ると-。

・どのグループでも、スマホの使用時間が1時間以内であれば正答率に差異は見られないが、使用時間が1~2時間、2~3時間、3~4時間と1時間増えるごとに正答率が4~5%ずつ低下していく。

・1日に2時間以上勉強していても、スマホを1日に3時間以上使っている生徒は、1日に30分しか勉強しない生徒よりも正答率が低い。

・1時間を超えるスマホ使用1.5時間で、1時間の勉強時間を帳消しにする。

 直ちに「因果関係あり」とすることはできないが、2万4000人規模の調査でここまで(データ的に)きれいな結果を目の当たりにすると、少なくとも、「因果関係があるとは言えない」とはならないだろう。

 なお、この調査は、切り口を少し変えながらも2015年度版以降にも引き継がれており、これら5種類のリーフレットは、受験を予定している子供を持つ親ならば必見に値するだろう。

 詰まるところ、「うちの子はスマホやゲームばっかりやっていて、ほとんど勉強しない」と嘆く親は多いが、事はそれほど単純ではないかもしれない。スマホやゲームに時間を費やしてしまっているだけならまだしも、長時間の使用が学校や塾も含めた勉強の成果を台無しにしているかもしれないとなれば、事は「勉強時間が少なすぎる!」だけでは済まない。

 成績抜群の生徒が中2の終わり頃から…

 実際には、生徒ごとに状況は様々であり、一律に同じ処方箋で対処することは難しいだろう。そこで、ここからは、筆者が出合った状況と対応を披(ひ)瀝(れき)することで、今回の提言に代えたいと思う。

 小学6年生であっても中学3年生であっても、「受験学年になってから学力の伸びが停滞し始めた(偏差値が徐々に下がってきた)」という例は少なくないため、この状況下でスマホやゲームに関連していたケースを取り上げたい。

 〈ケース1〉中1の頃から学校の成績は抜群で、寸暇を惜しまず勉強を続けてきた生徒なのだが、中2の終わり頃から偏差値が少しずつ下がってきているという話を耳にしていた。

 その生徒が中3になったタイミングで、以前とは別の科目を担当することになったのだが、何度目かの授業の開始前、その生徒の様子を見ていてふと気が付いた。「以前なら授業前は必ずと言っていいほど別の科目の宿題をしていたのに、ここのところ、授業前にスマホをいじっていることが多いな」と。そこで別のある日、クラス全員に向かって、「スマホを持っているという人は?」から始め、「1日に30分くらいしか使わない人」「1時間以上使う人」「2時間以上使う人」……と順に手を挙げさせたところ、その生徒を含めて数人が「2時間以上」に手を挙げた。

 中3になってから、最近手に入れたばかりのスマホのヘビーユーザーになるのは……いかにも拙い。かと言って、長々と説明する時と場合でもない。その時は全員に向けて、「スマホは1日1時間以内にして、勉強時間を削らないように。それと、寝床にスマホを持って入って、スマホをしながら寝るのは絶対に止めなさい」と話したことを覚えている。

 ちなみに今も、主に小学生の親御さんからであるが、「理科・社会の暗記が苦手で、なかなか覚えられないみたいで……」という相談はよく受ける。そんな時、最初に切り出すのはこんな話だ。「寝る直前の時間を有効に使いましょう。塾から帰って来て、お風呂に入って、その後しばらく寛いでしまうのはある程度しようがないと思います。その代わり、寝る直前の15分でも20分でも、暗記ものをやりましょう。用語集なんかを寝床に持って入ってやってもよいですし、そのまま寝てしまっても大丈夫です」と。この30分足らずをスマホやゲームに使うのか、暗記に使うのかでは、先々が大きく違ってくるはずだ。

 快活明朗だった生徒が魂の抜け殻?に

 〈ケース2〉大のゲーム好きの小6生で、ゲーム以外にもマンガやアニメのキャラクターに興味があり、たいがい宿題はそっちのけで、テストの時もさっさと解答欄を埋めて裏面にキャラクターの絵を描き始めるような、そんな生徒がいた。

 性格的には快活明朗で、話し好きというよりはかなり弁の立つ、聡明なことは明らかな生徒だ。

 ところが、6月になり7月に入ろうかという頃になって、急に元気がなくなり、ほとんど話もしなくなり、完全にやる気を失ってしまっているような、そんな状態になってしまった。

 夏期講習が始まる少し前、ご両親と面談をする機会があり、家庭内に問題が起こっていないか、敢えて聞いてみた。「1カ月ほど前から、完全にやる気をなくしてしまっているように見えるのですが、ご家庭で何かありましたか?」と。すると、ご母堂曰く、「あまりにもゲームばっかりやっていて全く勉強しないので、全部取り上げて、完全にゲームをできなくしてしまったところ、彼的に気持ちの持って行き場がなくなってしまったみたいで、何もかもにやる気をなくしてしまい……」と。要するに、ふて腐れるのを通り越して、ゲームレスで魂が抜けた状態になっているというのだ。

 で、どうしたか? さすがに「今までのように、ゲームOKにしましょう」とはいかない。そこで、こういう案を出した。「ちょうど夏休みから生活パターンが変わりますので、ご家庭でのルールを新しくしてはどうですか。朝早く起きてゲームをするのはOK、朝食後は夕方まで塾の授業ですから、その後は夕食と入浴が終わるまでのあいだはゲームOK、それ以降は禁止にして宿題をやる時間とし、寝る直前もダメ-というかたちでどうですか?」と。

 じつはこの生徒、通塾の往き帰りに寄り道をする癖があり、時折問題視されることもあったのだが、夏期講習期間中は一目散に家に帰るようになった。

 1日の終わり方がとりわけ大事

 大人の場合、「翌日にストレスを持ち越さないためには、1日を愉しい時間で終えることが大事」というのが筆者の持論なのだが、同様に受験生の場合、「1日を有効な時間で終えることは極めて大事」だと考えている。

 なぜなら、眠る直前の時間に何をインプットしたかが、知識の積み重ねや系統化に大きな意味を持っていると考えているからだ。脳には短期記憶域と長期記憶域が別々に存在するらしいが、この事を筆者なりのたとえ話にしてみたい。

 短期記憶域はパソコンのメモリー、長期記憶域はパソコンのディスク、その2カ所とは異なる各記憶を結びつける脳内ネットワークはパソコンのインデックスに対応する。メモリーには、その日に知覚した情報がランダムに書き込まれている。1日の途中でメモリーがフルになると、重要ではなさそうな情報から順に上書きされて消えていく。そして睡眠中には、メモリーに残っている情報のうち、重要そうなものから順にディスクに保存され、インデックスが更新される。

 歳をとるとよく、「覚えているはずなのに出てこない」ということがあるが、これはディスクから情報が消えてしまったからではなく、インデックスの該当部分が壊れたか消えてしまったからだと考える。現に、同じ世代が同じ事を学ぶ場合、かつてその内容を勉強したことのある人のほうが、初めて勉強する人よりも速く習熟するはずだ。これは単純な知識だけでなく、方程式や図形に関する問題にも当てはまれば、勉強以外の技能的なことにも当てはまる。つまり、学び直しはインデックスの再構成に相当する。

 翻って、眠る直前の時点で脳が(勝手に)重要と判断した情報から順に長期記憶域に定着し、ネットワークを強固にしていくのだとすれば、当然、長時間接していた情報、直前に触れていた情報のほうが、より優先的に記憶され体系化されていくことになる。

 筆者が、受験生にとって眠る直前の過ごし方が極めて重要と考えるのは、以上のような理由からだ。この30分のあいだ、脳を受験に関係のない情報に晒すのか、受験に必要な情報をインプットするのか、ここにも合否の分かれ目がある。

【プロフィール】吉田克己(よしだ・かつみ)

京都大学工学部卒。株式会社リクルートを経て2002年3月に独立。産業能率大学通信講座「『週刊ダイヤモンド』でビジネストレンドを読む」(小論文)講師、近畿大学工学部非常勤講師。日頃は小~高校生の受験指導(理数系科目)に携わっている。「SankeiBiz」「ダイヤモンド・オンライン」で記事の企画編集・執筆に携わるほか、各種活字メディアの編集・制作ディレクターを務める。編・著書に『三国志で学ぶランチェスターの法則』『シェールガス革命とは何か』『元素変換現代版<錬金術>のフロンティア』ほか。

【受験指導の現場から】は、吉田克己さんが教育に関する様々な情報を、日々受験を志す生徒に接している現場実感に照らし、受験生予備軍をもつ家庭を応援する連載コラムです。更新は原則第1水曜日。アーカイブはこちら