記事や漫画を分かりやすく、知的障害を支えるバリアフリーの取り組み
通常の伝え方では理解が難しい知的障害者を対象に、ニュースや行政文書、漫画などを分かりやすく作り替える取り組みが市民団体や行政、学者らの間で広がっている。スロープの設置など身体障害者のバリアフリー化は進んできているが、知的障害者へのバリアフリーの重要性はまだ十分認識されておらず、対策が遅れているのが実情だ。
市民団体ら取り組み
「1月(がつ)7日(なのか)から、『出国税(しゅっこくぜい)』が始(はじ)まりました。出国税(しゅっこくぜい)とは、日本(にっぽん)から外国(がいこく)へ行(い)く人(ひと)が一人(ひとり)1000円(えん)のお金(かね)をはらうものです」
一般社団法人「スローコミュニケーション」(横浜市)がホームページに載せている分かりやすいニュースの一例だ。
「一文は短く」「二重否定や比喩は使わない」といったルールを定め、漢字にルビを振る。読みやすいように改行を多くし、ゆっくりした音声読み上げ機能も付いている。
スローコミュニケーションは、大学教員や新聞記者らが「知的障害者が社会参加や自己決定できるように、必要な情報を届けよう」と3年前に設立された。福祉サービスの平易な契約書などを作る事業にも取り組んでいる。
当事者の立場で活動に加わる小池美希さん(46)は、「普通のニュースや新聞記事は難しくて分からない。周りの人から『こういうニュースがあったね』と言われても、話についていけないので悲しい。分かりやすい情報をもっと増やしてくれたら」と訴える。
スローコミュニケーションの活動に協力したり、知的障害者向けの文書を作ったりしているのが横浜市だ。障害福祉の事業計画をやさしい言葉で説明したパンフレットを発行したほか、理解しやすい行政手続きの申請書を作ることも検討中だ。担当者は「平成28年に障害者差別解消法が施行されたことを踏まえ、今後も取り組みを充実させたい」と話す。
記号表現を控えて
漫画を作り替える試みもある。「『漫画なら分かりやすいだろう』と思われがちだが、それは違う」と言うのは京都精華大マンガ学部の吉村和真教授。登場人物の困惑を表す顔の縦線といった記号や、コマの順番など実は複雑な法則があり、読み手側に理解力があることを前提に描かれているからだ。
吉村教授が他の研究者らとつくるグループは、知的障害者向けにコマの構成を単純にして記号表現を控えるなどした漫画2つを制作した。これらの作品や描き方の手引を収録した「LLマンガへの招待」(樹村房)を昨年出版した。LLは「易しく読める」を意味するスウェーデン語の略語だ。
「外国人でも読みやすい漫画なので、共生社会の実現にも貢献できる」と吉村教授。「ただ、商業ベースでの出版は難しいので、描き手の育成を含め公的な財政支援が必要だ」と話している。
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■ニュース会報を発行
一般社団法人「スローコミュニケーション」は週1回、「わかりやすいニュース」をホームページに載せている。日々のニュースだけでなく、「障害のこと」として、障害者に関係するニュースがまとめられたページもある。このほか、主なニュースをまとめた会報を年4回、季刊で会員向けに発行している。
同法人の室津大吾理事は「知的障害があっても、働いたりして社会生活を送っている人は多い。成人なので、幼稚な内容ではなく、世の中の出来事をきちんと分かりやすい言葉で伝える必要がある」と話している。
会員申し込みや問い合わせはメールinfo@slow-communication.jp
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