【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】「家計簿アプリ」使ってますか?フィンテックのビジネスへの広がり

 
京都信用金庫とマネーフォワードが共同開発した「京信かんたん通帳アプリ」の画面の一例=2月19日、京都市下京区

 家計簿アプリには、どんなアプリがあるのか?

 家計簿アプリには、国内だけでも様々なアプリがあります。マネーフォワード ME、Zaim、LINE家計簿、Moneytree、Dr.Walletなどが、その顔ぶれです。まさに群雄割拠と言っていい状況だと思います。

 でも、この中で迅速な立ち上がりを見せて、運営会社がいち早く上場までして、世の中に浸透したのがマネーフォワードMEでした。2018年秋の時点で利用者が700万人を突破したそうです。ちなみにZaimは800万ダウンロード数、LINE家計簿は開始からたった2ヶ月で200万人のユーザー登録数を発表しています。

 なぜ日本で家計簿アプリが流行るのか?

 日本で、こうした家計簿アプリが人気を博している理由の一つには、日本人の生真面目な倹約気質に関係があるのではないかと僕は考えています。例えば、アメリカ人などのお金管理の感覚は、僕が思い起こせる知人の範囲では、「かなり大雑把」という印象があります。だから、アメリカにも Mintという有名な家計簿アプリがありますが、アメリカンな彼らの感覚には合わないのではないだろうか、と思えるのです。まあ、これは僕の感覚値に過ぎないのかもしれませんが…。

 いずれにしても、家計簿アプリというは、フィンテックの1つの切り口として、日本の土壌に合っているように感じられます。

 ビジネスとしての家計簿アプリの可能性?

 ただし、ビジネス的な観点から、家計簿アプリのビジネスを見ると、1点気になることがあります。

 それは、銀行が保有するユーザー固有のデータベースに直接アクセスできるAPIが開放されてこなかった問題です。APIとは、データベースを公開する側が提供する決められたガイドラインに沿って、外のプログラムから通信することで、必要な情報(データ)を取ったり、ある情報(データ)をアップデート可能にする仕組みです。

 家計簿アプリの場合、必要なデータを運営会社がユーザーになり代わり、口座内データにログインして、取得してくるのが従来のやり方でした。ユーザーはパスワードなどのログイン情報を運営会社に渡さないといけませんから、いくらセキュリティーが良いと謳われていても、不安感を抱くのは仕方ありません。もし無条件で、そうしたデータ庫をオープンに活用できるAPIを銀行が提供してくれたならそれほど素晴らしいことはないのですが、さすがにそう簡単ではないようです。ただ、昨年6月の改正銀行法施行で、銀行に「オープンAPI」を導入する努力義務が課されたので、今後の動きに注目です。

 銀行が「家計簿アプリ」を警戒している?

 ここから先は推理でしかありません。でも、こんなことは推察できます。家計簿アプリというのは、顧客の資産や資金移動に関するすべての情報を集められる大きな可能性を秘めている。

 A銀行とB銀行とがあったとして、A銀行もB銀行も自分たちと主に取引している顧客A´さんのこと、B´さんのことはよく知っているし、データも持っています。でも、A銀行は、B銀行の顧客B´さんのことは全く知らない。B銀行もA´さんの情報は何も持っていない。しかし、A´さんはA銀行に1000万円預けているけど、B銀行には1000円しか預けていない、だとしたら…。A銀行にとっては「お金のある程度ある顧客」に見えても、B銀行からして見たら「お金がない顧客」になってしまう。つまり、1顧客の預金情報は分断されてしまっているわけです。1口座持っているから、すべてを知っているというわけではないのです。

 ところが家計簿アプリというのは、もし銀行側が持っている情報をすべて集められたら、その点ではとても強力な存在になります。しかも銀行だけではなく、証券会社のデータベースなどからもデータを集められたりしたら、すごいことになる。A銀行、B銀行、C証券、D証券などの情報が家計簿アプリに一堂に集められるなんていうことも容易に想像がつくわけです。つまり、顧客情報の全容を掴んでいるのは家計簿アプリということになり、それこそ既存の銀行や証券会社などにとっては脅威にさえなってしまうわけです。

 だからこそ銀行としては、そうやすやすと顧客のお金の情報を渡したくはない、そんなことを考えるのも無理はありません。フィンテックの1アプリ運営会社に経済圏を築かれたくない、とそんな推理は成り立ちます。

 しかも、今のキャッシュレス決済の波は、家計簿アプリのビジネスを後押ししています。

 「2次元バーコード決済」と家計簿アプリの関係

 キャッシュレスで使われるQRコードなどの2次元バーコード方式は、家計簿アプリにとっては、とても重要な役割を担っています。えっ、どうして、2次元バーコード決済が家計簿アプリと関係あるの?と思った読者の方も多いかもしれません。

 一見、無関係そうな2次元バーコード決済なのですが、家計簿アプリでビジネス展開を考えている運営会社サイドにとっては非常に重要になります。なぜなら、2次元バーコード決済はクレジットカード、デビットカードなどと紐づけられていて、「どこで、何に、いくら使ったか?」の使途明細のほとんどが記録されていくからです。2次元バーコードの表側は、ただの白黒の模様ですが、裏側ではアプリケーションが働いています。

 Suicaをはじめとした非接触式IC決済だと、「ユーザーコード」というものが取れないのですが、一方、QRコードのような2次元バーコード決済だと、アプリケーションですからユーザーコードが取れてしまう。つまり、次のビジネスにつながるユーザーのお金に関するデータが2次元バーコード決済で集められてしまうわけです。QRコードの決済にとてつもない投資が行われるのは、こういう利点があるからなんですね。

 どこの企業もユーザーに関するデータが欲しい。そのデータが手に入れば、その人が次にどんな場所でどんな嗜好でどんな消費をするか、が読めますから、次の打ち手を考えてビジネスができるわけです。特定の消費者をターゲットにして、特定のリコメンデーションを広告としてポップアップするようなこともできる。データこそが新時代の石油資源だと言われるのも納得です。

 これをもう既にやっているのは、決済アプリの「WeChat Pay」や「Alipay」、それから「LINE」です。QRでよく使うお店に近づくと、スマホでミニアプリが立ち上がり、「近くにこんなお店があって、今!キャンペーン実施中ですよ!」というリコメンデーションが出てきたりします。LINE Payだと、キリンの自動販売機やお店に近づいたりすると出てきますね。

 生活圏の人々を引き込めるLINEの強さ

 家計簿アプリが生活圏で活用されるアプリということを考えると、後発ながら、その強みを発揮しているのが、LINE家計簿です。ユーザーをどう増やすかという意味では、そもそもLINE PayとLINE家計簿はとても相性がいいはずです。例えば、「LINE Payで生活に関わる全ての買い物をしたら、明細がより正確に簡単に整理されますよ」などと言われれば、楽だし何より便利です。LINEからすると、ユーザーの経済状況の全容がつかめるので、ビジネスが有利に進められます。もちろん、僕の会社FOLIOが提携して基盤提供しているLINEスマート投資のデータなどもヒモづけられます。

 LINEは、昨年11月にみずほフィナンシャルグループと一緒にLINEの銀行「LINE Bank」の設立を発表しています。この発表を見て僕は、この銀行が肝なんじゃないかと考えています。2020年の開業に向けて準備が進んでいるLINE Bankには、企業の給与の振り込み用口座とか、かなりの数のユーザー情報が集まるのではないかと考えています。そのデータが集まった後、LINEならさまざまなサービスを横串で効率良く展開していきやすい。その意味から、LINE経済圏は強力だと思います。こうしたことを考えると、LINE家計簿にはビジネスとしてのポテンシャルの大きさを強く感じます。

 家計簿アプリの運営会社の動きに着目するなら、「次なる一手」を見るとどの方向に向いているかが浮かび上がってくる。それこそ、最初に紹介したマネーフォワードの子会社、マネーフォワードファインが昨年11月末に貸金業者登録を完了したのも、ビジネスの次なる一手であることが予想できます。すると、彼らが発表している通りに、会計・請求書データを活用した融資サービスとして中小企業の資金繰りをサポートするということに併せて、「もしかしたら、彼らはクレジット信用スコアを上げた人への少額短期の融資ビジネスを展開していくのかもしれないゾ」などと妄想を巡らせることができるのです。

 今後、家計簿アプリと銀行関連サービスがどのように近づいていくのかとても楽しみです。どんどん便利な時代になっていくことは間違いないようです。

 以上、今回は、家計簿アプリを題材に、筆を取らせてもらいました。また次回お会いしましょう。次回は「フィンテックと送金」について語りたいと考えています。

【プロフィール】甲斐真一郎(かい・しんいちろう)

「FOLIO」代表取締役CEO

京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。バークレイズ証券を退職後、2015年12月に、手軽に資産運用、株式投資を楽しめるフィンテックサービス「フォリオ」を提供するオンライン証券会社「FOLIO」を設立。フィンテックの旗手として大きな注目を集めている。次世代型投資プラットフォーム・サービス「フォリオ」は、「ユーザー体験」「操作感・表示画面」に着目されており、テーマ投資という形で誰もが簡単に株式投資を楽しむことができるように設計されている。FOLIOはお金と社会にまつわる情報を発信するオウンドメディア「FOUND」も運営している。

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