配信停止、過去作封印、店頭から回収…ピエール瀧被告の出演作、相次ぐ自粛に波紋

 
ピエール瀧被告=3月13日午前、東京都千代田区(佐藤徳昭撮影)

 麻薬取締法違反の疑いでミュージシャン、俳優のピエール瀧被告(51)が逮捕された事件を受け、テレビ局や映画会社は出演作品の配信停止などの対応に追われている。2日に、同被告は同法違反の罪で起訴された。不祥事に対する世論の反発を考慮した対応だが、「行き過ぎた自粛だ」との声も上がっている。(三宅令)

 東映が投じた一石

 「映画会社の責任として完全な形で公開したい」

 瀧被告の出演作が次々と公開自粛となる中、東映の多田憲之社長は3月20日の会見で、瀧被告出演の「麻雀放浪記2020」(白石和弥監督)を予定通り公開することを発表。同席の白石監督も「作品に罪はないのではないか。議論せず蓋をするのはおかしい」と訴え、大きな話題を呼んだ。

 関係者は「社内でも激論が交わされ、発表翌日は会社の電話が賛否両方の意見で鳴りっぱなしだった」と話す。4月2日現在、劇場側に上映とりやめなどの動きは出ていないという。

 今回議論を呼んだのが、自粛が逮捕前の過去作にまで及んだ点だ。

 NHKは3月12日の逮捕の翌日には朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」など瀧被告が過去に出演した6作品について動画配信サービスでの配信停止を決定。木田幸紀放送総局長は定例会見で「公共放送として反社会的な行為を容認できない」としたが、ネット上では「過去作の封印は行き過ぎ」と疑問の声が上がった。

 NHKでは過去作の配信自粛に対する意見は「集計していない」が、「あまちゃん総集編」には放送が見送られた後編の再放送希望の意見などが24日までに676件来たという。

 論議に輪をかけたのがソニー・ミュージックレーベルズの対応だ。「コンプライアンスを重視する立場から決定した」として瀧被告が所属するテクノユニット「電気グルーヴ」のCDなどの出荷停止と作品の店頭からの回収を実施した。

 この動きにクリエーターたちが反発。音楽家の坂本龍一さん(67)は短文投稿サイト「ツイッター」で「ドラッグを使用した人間の作った音楽を聴きたくないという人は、ただ聴かなければいい」と憂慮を表明した。賛同の書き込みが多い一方、「印税でコカイン買って、その金が悪しきところに流れるって考えると、自粛しかない」「薬物犯罪を軽視しないでください」など著名人の犯罪に厳しく臨む必要性を訴える意見も目立った。

 1日の取材に対し、同社は「撤回を求める意見などが寄せられているが件数は言えない。関係部署で共有するが対応は考えていない」とした。

 明確なルール作りを

 自粛が広がる背景について、日大危機管理学部の福田充教授は「社会的責任が問われる傾向が強まり、企業は何らかの対応を取らざるを得ない」と理解を示した上で「過剰な自粛は萎縮につながる。業界全体による不祥事の際の明確なルール作りが必要だ」とした。

 3月26日には、薬物などへの依存症問題に取り組む市民団体が「社会的に抹殺されるという恐怖感があおられ、相談につながる勇気を阻害する」として出演作の公開自粛を中止するようNHKなどに要求。議論はますます広がりそうだ。

 米エンタメ界 自粛なし

 エンターテインメント業界の規模が大きい米国では、薬物事件を起こしたミュージシャンや俳優の作品が公開自粛となることはほとんどないとされる。人気歌手、ブルーノ・マーズは2010年にコカイン所持で逮捕されたが、作品の発売中止などの措置がとられることはなく、今も音楽界の第一線で活躍している。人気俳優のロバート・ダウニー・Jr.も01年にコカイン所持で逮捕された経歴などがあるが、出演していた人気ドラマ「アリー my Love」を降板しても、出演場面カットなどにはならなかった。

 今回の逮捕についても、同国資本の動画配信大手「ネットフリックス」や「アマゾンプライムビデオ」などでは、ピエール瀧被告の出演作品の配信を続けている。