【受験指導の現場から】「理科は後回し」で大丈夫? わが子の分岐点ズバリ教えます!
【受験指導の現場から】 この連載の初回で、「中・高校を通じて数学でつまずくか否かを決める最初の壁は中2半ばの1次関数である」。「子供から『関数が分からない』という言葉が出てきたら黄信号」と述べたが、理科にも同様の分岐点がある。そこで今回は、第1回と同様の主旨で理科について考えてみたい。
化学だけは例外なのだ
中学の理科には(社会にも)、カリキュラム構成として、数学や英語とは大きく異なる点がある。
それは、学習単元を{学年…1、2、3}×{分野…生物、化学、物理、地学}の12マスで捉えたとき、大半の分野は単元間の独立性が高く、同じ分野であっても学年をまたいでの関連性が低いことにある。
最たるは地学で「中1:大地、中2:気象、中3:天体」、次に生物は「中1:植物、中2:動物、人体、中3:生殖・遺伝」、物理は「中1:光、音、力のつりあい、中2:電流(電気回路)とエネルギー、磁界、中3:運動とエネルギー」といった具合で、以上の3分野については、物理で中1と中3に多少のつながりがある程度である。
逆に、化学だけは例外で、「中1:密度、濃度・溶解度、状態変化、気体の性質・発生、水溶液の性質」「中2:原子と分子(元素記号、周期表、化学式が初出するのはここ)、熱分解、電気分解、酸化・還元」「中3:イオン、電気分解・電池、酸とアルカリ、中和」となっており、中1の後半から中3の終わりまでつながっていて、必然的に積み上げ型になっている。
中2の理科では、化学分野を最初に学習するカリキュラムになっていることが多いのであるが、この時点で当然、中1で習う気体の発生についても遡って化学式が書けるようにならなければならない。そして、この単元が疎かになってしまうと、これまた当然であるが、中3の化学には太刀打ちできない。
となると…独立性の高い単元は(数が少なければ)、必要な時間という面でもリカバリーが利きやすいのであるが、中2・中3の化学全部を元素記号からやり直すのは、中3の夏からでは遅すぎる。
英語が苦手でも理科を頑張れ
理科と社会は、数学や英語に対して、日頃の勉強も受験対策も後回しになりがちである。とくに、志望校として、公立か私立かで迷っているうちは力が入りにくい(ちなみに筆者は、首都圏の私立高校も受験科目として理科・社会を課すべきと考えている)。
しかし、である。公立高校の入試は5教科均等配点であり、理科と社会の両方が受験直前まで英・数・国よりも低得点な科目のままになっていると、上位校(東京都なら進学指導重点校と進学重視型単位制高校)には、まず受からない。中3の後半になって「理科・社会が苦手だから(得意科目にできなかったから)私立に絞った(絞らざるを得なかった)」とネガティブな私立第一志望にならないためにも、遅くとも中2の頭からは、数学・英語よりも得点源にしやすい理科・社会にもしっかりと取り組むべきである。
実際、「数学は苦手だけど社会は得意」「英語が苦手だけど理科は得意」という生徒は、その逆よりも中位から少し上くらいの都県立高校には受かりやすいという実感がある。筆者にはそういう感覚があるので、数学か英語のどちらかが苦手な生徒には、しばしば、「数学で5割取れそうにないなら、社会で90点を狙おう」「英語が苦手なぶん、理科を頑張って80点取ろう」といった話をすることがある。
「先生、日本語で書いてください」
ひるがえって、塾講師を副業(当時)として始めて間もない頃、冬期講習会で中2の理科を担当することになったときのことである。
酸化・還元(質量保存則)の問題を解説する段になった。
2Cu + O2 → 2CuO
上記のように板書したところ、ある男子生徒が「先生、日本語で書いてください」と言う。しかも、周りの生徒も「その意見に賛成!」という表情でこちらを見ている。「えっ、学校で一度習っているよね?」と返しつつも、Cuの上に「銅」、CuOの上に「酸化銅」といった具合に、以降、化学式の上に振り仮名?を書いて授業を進めたことがあった。
後から聞いた話では、その冬期講習会から理科・社会を受講しはじめた生徒だというのだが、英・数・国はそれなりにできていて、学校の成績もかなりよいほうだったため、ある意味、がく然とした感があった。
で、どうしたか? 覚えるべき元素記号を空欄にした穴埋め式の周期表フォーマットを作成し、最初は周期表を見ながら書かせたり、その後にテストとして使ったりを何度か繰り返した。
この時は、時期的にぎりぎり間に合った感じであったのだが、その生徒たちが中3になって4月から受講を始めたとしたら、完全に周回遅れになってしまっていただろう。
「原子・分子、元素記号(周期表)、化学(反応)式」がカギ
閑話休題。高校受験に向けての理科であるが、数学の1次関数(中2の半ば)に相当するのは、中2の初めの「原子・分子、元素記号(周期表)、化学(反応)式」に関する知識を以降の学習のベースにできるかどうか、である。
この単元を等閑にしたまま中3を迎えることは、是が非でも避けたい。
とは言え、会得できたかどうかが判断できるのは1学期末の定期テストの結果を見た時点だろう。その結果を見て「こりゃいかん」となったら、できる限り夏期講習の時期に、遅くとも冬期講習のタイミングでキャッチアップを図るべきである。
中3になる直前の春期講習がデッドライン、その直後の4月からの受講では手遅れになる。実際、中2末の3月から新学年のカリキュラムとして中3の化学は始まってしまっている。その上、中3年次は、秋までに新出単元を終わらせるスケジュールで進んでいくため、それまでの間に中1・中2の特定の単元を集中的に復習するのは、他科目(とくに数学)に時間を取られることもあって難しい。
新入社員の教養が落ちている理由も…?
高校受験からは少し離れるが、中・高受験のために理科・社会をきちんと勉強した生徒と、中学受験を経験せず公立中学から3教科受験で私立高校に進んだ生徒では、高校での理科の成績に大きな差が出る。後者の生徒が大学進学時に理科系の学部・学科に進むのは、おそらく相当にハードルが高いだろう。
昨今、「10年以上前と比べると、新入社員の教養が落ちている」「偏差値が同じくらいの大学であれば、首都圏よりも西日本の大学を出ているほうが、実力があるように思える」といった人事・採用担当者の声も漏れ聞こえてくる。
公立中学から3教科受験で大学付属の私立高校を経て文系の学部に進んだというような、中学受験期から大学を卒業するまでに一度も理科・地理・歴史に真剣に取り組んだことがない学生が首都圏中心に増えているからではないか? というのが、筆者の見立てである。
【プロフィール】吉田克己(よしだ・かつみ)
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【受験指導の現場から】は、吉田克己さんが教育に関する様々な情報を、日々受験を志す生徒に接している現場実感に照らし、受験生予備軍をもつ家庭を応援する連載コラムです。更新は原則第1水曜日。アーカイブはこちら。
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