【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】「海外送金」がブレイク間近?〈後編〉 トランスファーワイズの凄さ
前回に引き続き「海外送金」をテーマに話を進めます。
イギリスのトランスファーワイズという会社がこの分野で革新的なビジネスを始め、脚光を浴びていると前回紹介しました。従来の海外送金では考えられないほど大幅に安い手数料で送金ができてしまうサービスが話題を呼んでいます。
ではトランスファーワイズは、どうしてこんなことが実現できてしまったのか? 実は、ここがこの仕組みの面白いところで、このシステム、実際にはお金を送っていないのです。どういうことかと言えば、為替に基づいた貨幣交換を相対するそれぞれの国でしているだけなのです。もう少し噛み砕いて説明すると、こんな感じです。
トランスファーワイズの送金の仕組み
イギリスに出稼ぎに来ているカルロスというブラジル人がいるとします。
このカルロスが、1000ポンド稼いで、持っている。
そしてその1000ポンドを母国ブラジルにいる妻マリアの口座に送ってあげたいと考えている。
昔なら銀行に行って、海外送金をして、多くの手数料を取られるしか、現地にいながらお金を送る方法はなかったわけです。もしくは、母国に帰る知人・友人に頼んで、ポケットにお金を入れてもらって、実際に飛行機で運んだり、手紙にこっそり忍ばせたりなど、一般ルールからは外れた、場合によっては違法な方法で送るしかありませんでした。
しかしトランスファーワイズを使うと、以下の方法でイギリスでお金を稼ぐ夫カルロスから、ブラジルに住む妻マリアの元に届くことになります。
トランスファーワイズは、「カルロスという人物が、ブラジルにいるマリアという人物へお金を送りたい」というリクエストを受けます。すると、トランスファーワイズは、実際に「イギリスからブラジルへお金を送ること」ではなく、1000ポンド相当のブラジル・レアルをカルロスとは反対に「ブラジルからイギリスへ送りたい人を見つけること」、つまり「相対する国でお金を送りたい人を見つけること」をしてくれるのです。仮にこの説明では、ブラジル駐在しているイギリス人・ブラウンが1000ポンド相当に当たる5115レアル(2019年4月1日時点の為替レートで換算)をイギリスにいる母エリザベスにポンドで送りたいとします。
トランスファーワイズは、イギリスにもブラジルにも拠点があります。イギリスにいるカルロスが、1000ポンドをイギリスのトランスファーワイズに渡す。すると、ブラジルでは、カルロスの妻マリアがブラジルのトランスファーワイズから5115レアルを受け取ることができます。これはお金が実際に送られているわけではないのです。マリアが受け取ったのは、先に登場したイギリス人のブラウンがブラジルのトランスファーワイズに渡した5115レアルなのです。そして、イギリスでお金1000ポンドをイギリスのトランスファーワイズから受け取ったのが、ブラウンの母であるエリザベスだというわけです。
つまり、トランスファーワイズがしているのは、国際送金を「国内送金」へと転換することなのです。複数の中継銀行を通っていませんので、従来の海外送金よりも大幅に安い送金手数料を実現できるわけです。アナログな発想ながら、実に画期的な仕組みだと思いませんか? 実際のところは、必ずしも同じ金額の送金リクエストがあるとは限りません。そのため、トランスファーワイズも、送金をマッチさせるために必要なそれぞれの通貨でのお金は用意しているそうです。国と国を超えたそれぞれのニーズの間をとりもつこのシステムが、これまでの既得権益を壊して、移民国家の生活者にとって欠かせない国際送金の覇者となったわけです。
大きなお金が送れないというデメリットも
ただしこのアプリには、もちろん短所と呼べる点も見つけられます。例えば、大きな額のお金は送れない点です。大きな資金を送金できないと、特にBtoBビジネスでは不便です。また、こうしたサービスは、マネーロンダリングの温床になってしまう可能性も孕んでいる点には注意が必要です。日本人にはちょっと想像しづらいかもしれませんが、テロ組織やマフィアなどが行うマネーロンダリングへの監視の目は、国際的には非常に厳しいものになっています。もちろん、トランスファーワイズもテクノロジーの力を使って不審な資金移動には目を光らせています。
フィンテックのポテンシャル
最後に、身近なところで僕の仕事仲間がしてくれたこんな話を共有しましょう。
彼女は、日本からアジア某国にお金を送ろうとしたら、「オンラインでは一切できない」「物理的に銀行に来るように」と言われたので、銀行に出向いて行きました。すると、昔ながらの面倒なA3の書類に時間をかけて記入させられ、支店での決裁に加えて本店での決裁も必要だとのことで長時間待たされる羽目となってしまったそうです。結果、手続きだけで1日かかってしまったと言います。さらに、そこから中継銀行に1週間、次の中継銀行に渡るのに1週間、そこからその国の銀行に送金されるのに1週間という時間がかかり、結果、お金が送れたのが約1カ月後になったという、冗談のような恐ろしい不便さを感じる体験をしたそうです。
その後、トランスファーワイズをはじめて使ったときには、あまりの簡単さに驚いてしまい、国際送金する際は既存の銀行は一切使わなくなったそうです。
国と国をまたぐ。まさに、これが、フィンテックの力なのではないでしょうか?
現在のところ、日本では外国人労働者が増えていると言っても、ロンドンやニューヨークなどの国際都市に比べると、そこまでの数には上りません。もちろん、日本人が「海外に出稼ぎに行く」などという例も、今はまだまだ珍しいことです。しかしこの先、時代が変わり、日本が外国人労働者に支えられる国になったとしら、メリットの大きいトランスファーワイズのような海外送金サービスは必要になってくるのかもしれません。
たとえ、そうでなくとも、トランスファーワイズは、フィンテックのポテンシャルの高さを世界中に知らしめたサービスです。もしも外国に送金する機会などがあれば、このサービスを使ってみてはどうでしょう。きっといろいろな発見があるはずですよ。
【プロフィール】甲斐真一郎(かい・しんいちろう)
京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。バークレイズ証券を退職後、2015年12月に、手軽に資産運用、株式投資を楽しめるフィンテックサービス「フォリオ」を提供するオンライン証券会社「FOLIO」を設立。フィンテックの旗手として大きな注目を集めている。次世代型投資プラットフォーム・サービス「フォリオ」は、「ユーザー体験」「操作感・表示画面」に着目されており、テーマ投資という形で誰もが簡単に株式投資を楽しむことができるように設計されている。FOLIOはお金と社会にまつわる情報を発信するオウンドメディア「FOUND」も運営している。
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【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】は甲斐真一郎さんがフィンテックと業界の最新事情と社会への影響を読み解く連載コラムです。更新は原則第3火曜日。アーカイブはこちら
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