【お金で損する人・得する人】税金のかからないiDeCoの受け取り方 退職金とあわせて考えるのがカギ
iDeCoをどのようにもらうと得するのか―。「退職金をもらうなら一時金と年金のどっち?」では、退職金の受け取り方について、(1)一時金、(2)年金、(分割)(3)一時金と年金の併用―の3パターンを考え、同じ受け取り方であっても、個々の条件によって手取り額が大きく変わることがわかりました。(ファイナンシャルプランナー・平野泰嗣)
しかし最近はこの3パターンに当てはまり切らない場合があります。会社の制度とは別にiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)に加入する人も増えてきたからです。そこで今回は、会社の退職金と併せて、iDeCoをどのように受け取ると税制上、有利になるかを考えていきます。
国民年金や厚生年金などの「公的年金」に対し、企業年金やiDeCoは「私的年金」です。人生100年時代、iDeCoは老後の生活資金を自助努力で準備するための「じぶん年金」ともいえます。さらにiDeCoのような「確定拠出年金」は決まった掛金を定期的に積み立て、受け取る年金額は運用成果で変動する年金制度です。(これに対し「確定給付年金」は文字通り給付される金額が最初から確定しているのが特徴です。)加入者が毎月一定の金額を積み立て(掛金を「拠出する」という)、あらかじめ用意された定期預金・保険・投資信託といった金融商品で自ら運用し、60歳以降に一時金または年金で受け取ります。
さらに、iDeCoは、積み立て時、運用時、受け取り時の3つの税優遇があります。
〈iDeCo 3つの税優遇〉
▼積み立て時:拠出額が全額、所得控除(小規模企業共済等掛金控除)に該当し、所得税・住民税が軽減される
▼運用時:iDeCoの運用で得た利益は非課税。全額、再投資され、運用効率が高い
▼受取り時:年金でも一時金でも控除の対象となる。年金の場合は公的年金等控除が適用、一時金の場合は、退職所得控除が適用
では、このiDeCoの特徴をふまえて、具体的なケースを見ていきましょう。
「30年間勤務し65歳で退職金2000万円」のAさん
Aさんは、35歳の時に現在の会社に転職し65歳に定年退職を予定しています。退職金は、65歳時に一時金でもらった場合は2000万円。そのうち、一部を年金で受け取ることもできます。勤続年数が30年の場合、退職所得控除が1500万円なので、500万円です。
Aさんの場合 退職金は一時金(一括)でもらうと有利
Aさんの会社では、退職金500万円を年金でもらう場合、毎年27.5万円を20年間、合計550万円受け取ることができます。退職金全額を一時金で受け取った場合と、一時金と年金を併用した場合の税金・社会保険料(概算値)の負担を比較してみました。
退職金2000万円を一時金でもらった場合の税金は約40.6万円。年金にして毎年27.5万円を20年間受け取った場合の税金・社会保険料は約129.3万円でした。
手取りベースで考えると、手取り額は、一時金で受け取ると約1959万円、年金で受け取ると約1920万円です。Aさんのケースでは、退職金をすべて一時金で受け取った方が有利という結果になりました。
50歳から60歳までiDeCoに加入するAさん
Aさんのケースで、さらにiDeCoとの関係を見てみましょう。Aさんは、50歳から60歳まで10年間、老後に備えてiDeCoに加入する予定で、60歳時点で200万円の年金資産となる見込みです。Aさんの会社の退職金の条件は、先ほどのケースと同条件とした場合、iDeCoをどのように受け取れば良いか考えてみましょう。
iDeCoの受け取り方法は、取扱い金融機関によりますが、60歳から70歳までの間に一時金または年金、一時金と年金の併用を選択することができます。iDeCoを一時金で受け取る場合は「退職所得」、年金形式で受け取る場合は「公的年金等に係る雑所得」に該当し、それぞれ、「退職所得控除」、「公的年金等控除」の対象になります。退職金の受け取り方と考え方は同じです。
退職所得控除は、勤続年数によって決まりますが、iDeCoの場合、積立期間を勤続年数に読み替えます。注意しなければならないのは、積立を停止するなど実際に積み立てていない期間は、勤続年数に算入されないことです。
60歳から65歳までの間はiDeCoを年金で受け取る
▼65歳未満の公的年金等控除を活用する
厚生年金などの公的年金は、65歳支給開始(生年月日によって特別支給の老齢厚生年金が65歳より前にもらえる場合がある)なので、60歳から65歳までの間、公的年金控除を活用できます。つまりiDeCoを60歳から5年間、年金形式で受け取ります。Aさんの場合、60歳時点の年金資産の見込み金額が200万円なので、40万円の年金を5年間受け取ることになります。65歳未満の場合、70万円以下は、公的年金等に係る雑所得の金額が0円になるので、iDeCoの年金受け取り分については、所得税・住民税が課税されません。
60歳にiDeCoを一時金でもらう
▼退職金の5年ルールを活用する
Aさんの会社の勤続年数は30年、iDeCoの積立期間は10年なので、退職控除を計算する時に勤続年数を40年で計算できるかというとそうではありません。勤続年数に重複期間がある場合、その期間を控除して計算しなければなりません。例えば、65歳定年時に退職金2000万円とiDeCoの年金資産200万円を一時金で受け取る場合、退職一時金の金額は2200万円となり、勤続年数の重複部分は加算されず30年のままなので、退職所得控除は1500万円になります。
つまり、65歳の定年時に退職金とiDeCoを同時に一時金で受け取る場合、700万円が課税対象となってしまうのです。
実は、有利なiDeCoの受け取り方があります。iDeCoを60歳時に一時金で受け取った場合、勤続年数(積立期間)に重複があっても、その期間を控除しなくても良いのです。ちょっと不思議に感じられるかもしれません。後に支払われた退職一時金の退職所得控除の勤続年数を計算する際に、重複期間を控除する条件として、前年以前4年内となっています。つまり、iDeCoを一時金で受け取ってから5年経過して退職一時金を受け取った場合は、iDeCoの積立期間10年間を控除することなく、勤続年数30年として退職所得控除を計算します。60歳時にiDeCoを受け取る場合、退職所得控除は勤続年数10年で計算し400万円となり、年金資産200万円を一時金で受け取っても所得税・住民税はかかりません。
◆◇◆
iDeCoは税制優遇を受けながら老後資産を貯められる制度ですが、受け取り条件が60歳以降であるため、会社員の場合、受け取り方は退職金と併せて考える必要があります。これまで見てきたように、会社の退職金もiDeCoも受け取り方によって、税金・社会保険料の影響で手取り額が大きく変わります。実際に、税制上、どんな受け取り方が有利かは、個々の条件によって変わるので注意が必要です。
また、金銭的な有利不利も気になるでしょうが、もう一つ大切な視点があります。退職金もiDeCoもリタイア後の生活を支える大切な資金です。必要な時にお金が手元にあること、生活のリズムを崩さないように定期的な収入があることなど、リタイア後のライフプランと資金計画(マネープラン)の視点を踏まえて選択することが何よりも大切です。
後になって後悔しないように、じっくり検討するする必要があります。また、ライフプランと資金計画を合わせて検討したい場合は、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家への相談をおすすめします。
【プロフィール】平野泰嗣(ひらの・やすし)
中小企業診断士
1971年生まれ。東京都出身。慶応義塾大学法学部法律学科卒業。中小企業を支援する公的金融機関勤務。人事部時代に働く人のライフプランの重要性を感じ、FP資格を取得。妻・平野直子とともに「FPオフィス Life & Financial Clinic」を経営。「その人らしい幸せな人生」実現のサポートをミッションに活動。お客様と一緒に作成したライフ&マネープランは1000件超。中小企業診断士として、個人事業主、経営者の支援も行う。
【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。毎月第2・第4水曜日掲載。
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