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生命保険は保険料が決まるメカニズムを知れば見直しのコツがわかる

高橋成壽
高橋成壽

 ファイナンシャルプランナーへの相談内容のひとつに保険の見直しがあります。筆者のところにも、ライフイベント(結婚、出産、マイホーム取得)に伴う保険の見直し依頼がたびたび寄せられます。10年前であれば保険は営業されて契約する人が多かったのですが、最近は保険に関する営業を受ける機会が減ったこと、人生設計に合わせて保険を提案してほしいというニーズなどから、従来は受け身であった保険の説明を得る機会が、契約希望者自ら相談に来る傾向があります。

 今回は、子供を持つ30代後半から40代の世帯を想定し、保険料(保険の掛け金)を抑えて生命保険に加入する方法をお伝えします。保険にもいろいろありますが、生命保険の場合は比較的見直しやすいです。

生命保険の保険料が決まる4要素

 まずは生命保険の相談に行く前に抑えておきたい、保険料の決まり方を確認します。「生命保険」という商品は、(1)契約期間中に死亡する確率、(2)契約する期間、(3)契約期間中に死亡した場合の保険金額、(4)保険金の支払い条件―に基づいて保険料が決定されます。

1. 契約期間中に死亡する確率

 生命保険は、加入する人の死亡率で保険料が決まります。死亡率など考えたことのない人が多いと思いますが、保険業界では「標準生命表」というデータが公益社団法人日本アクチュアリー会によって作成され公表されています。

 例えば「標準生命表2018(PDF)」によると、30代男性の1年間の死亡率は0.068%ですから、30歳の男性が保険に加入すると、1年間に1万人のうち7人が亡くなる可能性があることがわかります。40歳の男性の場合、死亡率が0.118%となるため、1年間に1万人中12人が亡くなる可能性があることになります。50歳男性の死亡率は0.285%、60歳男性の死亡率は0.653%、70歳男性の死亡率は1.5%となります。徐々に死亡率が上昇していることがわかりますね。

 契約者が死亡した場合に遺族が受け取ることのできるお金を「保険金」といいます。保険会社にとって大きな支出は保険金の支払いです。30歳の男性に保険金を支払う可能性より、70歳の男性に保険金を支払う可能性が高いので、30歳で保険に加入する場合と、70歳で保険に加入する場合では、保険料に差が出てくるのは当然の結果なのです。

2.保険の契約期間

 次に考えたいのが保険の契約期間です。生命保険の契約期間は「更新型」の場合、10年ごとに契約条件が変更になります。契約条件の要素のひとつに保険料があります。30歳で更新型の保険に加入した人が10年後の40歳で保険の更新を迎えた場合、更新後の年齢で保険料を計算するため、通常は保険料が値上がりする要因になります。

 「更新型」に対して、定期的に更新せずに60歳、65歳、70歳になっても一定期間の保険料が変わらないように保険に加入する方法もあります。30歳で加入して、契約期間が70歳までだとすると、30歳から70歳までの期間の死亡率を勘案して保険料が決定されます。先ほど見たように、年齢による死亡率には開きがあります。特に、60歳で満期を迎える契約と、70歳で満期を迎える契約では、死亡率が異なるため、保険料も異なります。どちらが安いかと言えば、70歳で満期を迎える契約より、60歳で満期を迎える契約のほうが保険料は安くて済みます。

 さらに保険料を下げたい場合、60歳満期ではなく、55歳満期、50歳満期など保険の契約期間を短くすることで、保険料を下げることができます。

3.契約期間中に死亡した場合の保険金額

 保険金の金額を「保険金額」といいます。死亡時に支払われる保険金が1000万円のプランと2000万円のプランでは、死亡率は変わらないですが、保険会社にとっては万が一の際に支払う保険金額が2倍になりますので、契約者が支払う保険料も2倍になります。

4. 保険金の支払い条件

 保険金を支払う条件は保険内容によって異なります。生命保険の多くは死亡した場合に保険金が支払われるようになっているでしょう。死亡以外にも、寝たきり状態や生活習慣病など特定の状態になった場合に保険金が支払われるタイプもあります。支払う条件が増えるほど、保険会社にとって保険金支払いの機会が増えますので、その分保険料は高くなります。

生活水準を維持したまま生命保険の掛け金を下げる方法

 例えば、30代や40代で子供がいる場合、生命保険に加入する人は多いでしょう。30代や40代は子供の学校教育費に加えて部活や習い事、塾や予備校の支払いのほか、住宅ローンの支払い、場合によっては親の介護にお金がかかることもあります。生命保険を安くしたいというニーズがありますが、一方で、大黒柱がいま倒れると家庭が経済的に困窮するため、高額の生命保険に加入したいというニーズもあります。

 保険料を安く、なおかつ万が一の際に家族が現在の生活水準を落とすことなく生活できるような生命保険の加入方法はあるのでしょうか。

 このような意向がある場合、筆者がおすすめするのは、保険期間を短くして、代わりに保険金額を高額にするという方法です。具体的には、60歳、65歳、70歳で契約が続くような生命保険の契約期間を15年、20年など短く設定します。近年は生命保険といえば、契約者の死亡時に年金のように毎月保険金を支払うタイプの「収入保障保険」という商品に加入する人が増えています。収入保障保険は契約期間を短くすると、保険金額が下がるというデメリットが生じます。ですから、保険金額を上げる必要があります。例えば保険金額を月額10万円から月額15万円にするなどの工夫をすることで、保険料を下げつつ、保険金額を確保することができるのです。(※保険料は各社で異なりますので、ご興味のある人は保険会社や保険代理店に試算を依頼すると良いでしょう)

 ただし、保険料を安くするためには割り切りも必要です。それは、保険契約期間を子供が成人するまでに限定することです。一般的には定年までの生活保障として生命保険に加入することが多いのですが、配偶者が働けるのであれば、あるいは、子供が成人すれば生命保険の必要性は薄れます。子供は高校を卒業すれば働くことや奨学金を借りることもできます。2022年に成人年齢が18歳に引き下げられますので、それを見越して、子供の高校卒業まで、あるいは現在の成人年齢である20歳になるまで…など、期限を決めて生命保険に加入すると、安く有利に加入することができるのです。

変化する保険業界 「意向」を伝えるのがポイント

 契約者がタバコを吸わない場合や、BMIや血圧などの健康診断結果が良好な場合は、保険料の割引をしてくれる保険会社もあります。また2018年に保険業界全体で保険料の見直しが行われました。生命保険料は男性が2割程度、女性も1割前後安くなっていますので、しばらく保険を見直していない人は、一度専門家に確認してもらうと良いでしょう。

 いま、保険の販売に携わる会社や担当者は、お客様の意向に沿った保険商品の提供を義務付けられています。そのため、保険について相談をする場合は例えば、はじめから、「保険金額を変えずに保険料を下げたい」などの「意向」を担当者に伝えると、希望通りのプランにたどり着く可能性が高いです。

 自分で保険の加入方法に自信のある人は、オンラインで加入できるネット生保を利用してもいいでしょう。様々な保険会社の商品を提案してほしいという人は、複数の保険会社の保険商品を取り扱っている保険代理店で相談すると良よいでしょう。ただ、その前に、ご自身の人生を長期的に考えておくことをおすすめいたします。

高橋成壽(たかはし・なるひさ) ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役
1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿FPコンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。