【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】既存の世界を一変させた米中のフィンテック サービスの鍵は“PMF”
これまで世界には、今までの常識を全く新しくしてしまうサービスがいくつも登場してきました。業界を一変させること、固定概念を覆すことは、ビジネスの世界で常に起き続けています。もちろんそうした現象は、資産運用系のフィンテックサービスでも起きています。今回は、常識を変えてしまった米中のフィンテックサービスについて書いてみたいと思います。
運用残高が一時27兆円に達した中国のガリバー
「常識や固定概念を覆したサービス」という点から、私が注目した事例が2つあります。
1つ目は中国でアリババが起こした革新です。正確には、アリババの金融子会社であるアントフィナンシャルが起こしたものです。知っている人も少なくないと思いますが、同社はアリペイという電子決済サービスを展開し、大きな成功を収めました。今年の頭には、なんと、ユーザー数が10億人を超えたことを発表しています。しかもこのプラットフォームでは、モバイル決済が3カ月毎に日本円で約260兆円行われており、信じられない額に上ります。
そして、このアリペイに紐づけられる形で展開された金融商品が「余額宝(ユエバオ)」です。この商品は銀行預金等と比べて相対的に高い利回り水準の債券ファンドなのですが、中国人ユーザーたちに預金代替商品として愛用され爆発的に広まったのです。2013年にスタートしたこのサービス、2018年2月には運用残高が一時27兆円に達し、米最大手金融機関JPモルガン・チェースを抜き、世界最大のMMF(マネーマーケットファンドの略で、安全性の高い債券を中心に組まれた投資信託)の座を得ることに成功しています。
米ミレニアル世代で爆発的人気誇る株式売買アプリ
そして、もう1つの事例が、アメリカのロビンフッドというモバイル専業証券会社が提供する革新的サービスです。
このアプリの一番の特徴は、手数料無料で米国株やETF(上場投資信託)のトレーディングができてしまう点にあります。スタンフォード大学でルームメイトだった2人の若者が作ったこのサービスが、ミレニアル世代の心をガッチリ掴み、あっという間に大人気アプリとなってしまったのです。ロビンフッドの創業は2013年。一部報道によると、2018年10月時点で600万口座の利用者を獲得しており、「近いうちに800万口座をも突破するのでは?」と噂されるほど勢いがあります。米国で今最もホットなフィンテックサービスと言えるのではないでしょうか。ちなみに資金調達額も巨額で、2018年5月には約397億円の調達を実現しています。
この2つの事例が示すように、今の時代、うまくハマると世界を一変させてしまう破壊力があるサービスが生まれ得るわけです。
常識を覆すサービスを生み出す秘密とは?
言うまでもないことですが、フィンテックサービスであるというだけでこんなことが起こせるというわけではありません。もちろん、日本でアリペイやユエバオ、そしてロビンフッドがリリースしたプロダクトをそのまま展開したとしてもうまくいくわけでもないでしょう。
では、一体何が、これらの革新を起こさせたのでしょうか?
私はその秘密は、「プロダクト・マーケット・フィット(=PMF)」という言葉に隠されているのではないかと思っています。
「PMF」とは、顧客のニーズを満たすプロダクト(サービス)をリリースし、それが適切な形で人々(マーケット)に受け入れられている状態を指す言葉です。この言葉は、当時、画期的なシステム(UCSA Mosaic等のウェブブラウザ-)を開発した、著名なアメリカのソフトウェア開発者のマーク・アンドリーセンが提唱しているものです。
中国のユエバオ、アメリカのロビンフッドも、自らのサービスをPMFした状態へ持っていけたからこそ、爆発的な広がりを作ることができて、膨大なユーザーを獲得することができたわけです。
つまり、新しいサービスで既存の世界を一変させたければ、“PMF状態”をつくることが必須なのです。では、PMF達成のためにサービスプロバイダーが考えるべきことは、どんなことなのでしょう? PMFのセオリーに当てはめるなら、「自分たちの顧客が誰か?(WHO)」「顧客ニーズは何か?(WHAT)」「それをどんな形でどんな風に届けるか?(HOW)」を考えることが重要です。そして、掛け算になぞらえられるPMFは、ボタンの掛け違いが1つでもあると、機能不全を起こしてしまうこともポイントになります。「WHO-WHAT-HOW」がピタッと一致したときにPMFは達成され、世の中を激変させるような、大きな現象を引き起こすことができるわけです。世の中を変えるサービスがそう多く存在していないのは、当たり前かつ簡単にみえるPMFの達成が、実際はいかに難しいのかを表している証ではないでしょうか。
ユエバオ、ロビンフッドはどう“PMF”を実現したか?
では、話をユエバオとロビンフッドに戻して、私なりの仮説を立ててみたいと思います。
まずユエバオの“WHO”を考えてみると、背後には中国という世界最大の市場があります。そして、次に“WHAT”は、銀行預金よりも相対的に高い利回りが得られる、非常にわかりやすいベネフィットを備えた金融商品だったことがあげられます。
世界最大の人口を誇る中国の人々が、預金代替となりうる金融商品に魅力を感じていたわけですが、ユーザーが単にお金を引き出したり使ったりしたいだけの場合であっても、一般的な金融商品のように資金決済に数営業日がかかってしまうようでは、日常的には使われなかったでしょう。毎月の給料を振り込む先に指定しようというポジションはとれなかったはずです。
では、どうして爆発的な普及が起こったかというと、「これは日常的に使えるぞ」と思わせるユーザー体験である“HOW”が用意されていたからなのではないでしょうか。相対的に高い利回りの預金代替となりうる金融商品でありながら、アリペイと組み合わせることで、いつでもどこでも引き出せて、街の食堂やスーパーなどで手軽に使えるように設計されていたのです。こうして、ユエバオのPMFは達成され、爆発的な広がりを見せたのではないのでしょうか。
では、ロビンフッドはどうでしょうか。ロビンフッドは、株式やETFの取引を手数料無料で行える画期的なサービスですが、「取引手数料無料」を全面に打ち出すことだけでこれほどの爆発的成長を成し遂げたわけではないと思います。
まず“WHO”ですが、一定の金融リテラシーがあり、さらにスマホにも慣れているミレニアル層ではないでしょうか。アメリカではこの層の数が絶対的に大きいです。このベースがあったからこそ、“WHAT”である「株式やETFの取引手数料無料」が刺さるのです。さらに“HOW”として、ミレニアル層にマッチした既存の証券会社にはマネできない洗練されたUI/UX、すなわち優れたユーザー体験があったわけです。このように、PMFのボタンの掛け違いがなかったことによって、驚異的なスピードでのユーザー獲得に成功しているのではないかと思います。
この2つの事例から、PMFの重要性がお分かりいただけたかと思います。
FOLIOが狙うPMFとは?
私がCEOを務めるFOLIOが提供するサービスでも、当然、この“PMF”という状態は、チームが一丸となって目指しているものです。そして、今あるサービスの中でも、特にこの状態に達する大きなポテンシャルを持っているのが、4月26日にリリースされた「ワンコイン投資」というサービスだと考えています。このサービスは、LINE Financial株式会社と協働する形でリリースされたプロダクトなのですが、ユーザーにとってのベネフィットがいくつもあります。
では、一体、「どのようにPMF状態を目指しているのか?」「果たして大きな変革を起こすことはできるのか?」などについては、次回、深く触れてみたいと思います。ぜひ、楽しみにしていてください。
【プロフィール】甲斐真一郎(かい・しんいちろう)
京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。バークレイズ証券を退職後、2015年12月に、手軽に資産運用、株式投資を楽しめるフィンテックサービス「フォリオ」を提供するオンライン証券会社「FOLIO」を設立。フィンテックの旗手として大きな注目を集めている。次世代型投資プラットフォーム・サービス「フォリオ」は、「ユーザー体験」「操作感・表示画面」に着目されており、テーマ投資という形で誰もが簡単に株式投資を楽しむことができるように設計されている。FOLIOはお金と社会にまつわる情報を発信するオウンドメディア「FOUND」も運営している。
【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】は甲斐真一郎さんがフィンテックと業界の最新事情と社会への影響を読み解く連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら
関連記事