戸籍の取り寄せ、変わります 遺産相続をシンプルに 「改正不十分」の声も
現住所から離れたところに本籍地がある自分や両親の戸籍謄本や抄本などを、最寄りの市区町村役場で取り寄せられるようにする戸籍法改正案が今国会で可決、成立する見通しとなった。戸籍提出を求められる局面で、手続きがより簡単になるが、特に、自分だけでなく親族の戸籍をそろえなければならない遺産相続では大いに助かりそうだ。ただ、兄弟姉妹や伯父や叔母などの戸籍については、現行通り煩雑な手続きが必要となるため、「改正が不十分だ」という声もあがっている。(菅原慎太郎)
◇
戸籍は市区町村ごとに管理されるため、現行では、別の自治体の役所で直接取ることはできない。本籍地が現住所から離れている場合などは、戸籍のある自治体に電話や書類などで問い合わせ、請求して、送ってもらう必要があり、数日かかってしまうケースもある。
取り寄せる戸籍が、自分のもの1通ならば、それでもいいかもしれないが、遺産相続となるとそうはいかない。
例えば、父親が亡くなったとすると、親子関係などを証明する必要もあるため、父親と残された母親の故郷の本籍地から、戸籍を取り寄せなければならない。
しかも、戸籍はそれぞれ1通とは限らない。本籍地は結婚や転居に伴う転籍(除籍)などで変わり、複数の市区町村に戸籍が存在することは珍しくないためだ。相続の際には、こうした複数の戸籍をそろえなければならないため、手続きはかなり煩雑になる。
今回の改正は、この手続きをシンプルにし、現在住む自治体で、自分と直系尊属(父母、祖父母など)と直系卑属(子や孫など)の戸籍を請求できるようにするもの。請求を受けた自治体が、全国ほとんどの市区町村の情報を集約する国の新システムに照会する形で、異なる自治体が管理する戸籍を提供する。
ただ、今回の法改正後も最寄りの自治体で簡単に取れる戸籍は、直系尊属と直系卑属に限られ、兄弟姉妹や伯父伯母などは取ることができない。
国会では「直系に限るべきではない」と批判する声も出ているが、プライバシー保護などの立場から直系限定となる見通し。法務省民事局の担当官は「兄弟姉妹で相続について争いがある場合もある。それぞれが自分で戸籍謄本や抄本を取ってもらうという考え方だ」と説明している。
「遺産相続には苦労させられました。戸籍を1つとるのも大変で…」
2年前に父親を亡くした評論家の潮匡人(まさと)さんは遺産相続の煩雑さをこう振り返る。
当時、東京都内に住んでいた潮さん。京都に終(つい)の棲家(すみか)を構えていた父親の潮久郎さんが亡くなると、毎週のように東京と京都を往復しなければならなくなった。久郎さんの本籍地は京都となっていたので、現地の役所で、ほかの手続きと一緒に戸籍謄本を取る手続きを済ませた。認知症の母親の手続きも代行した。
「運転免許証や実印、印鑑証明などを準備して、京都まで行って煩雑な手続きのうえで、ようやく出してもらった。当たり前と言われれば、そうかもしれませんが、結構、大変です」
しかも役所からは「これだけでは親子関係の証明にならない」と言われた。裁判官で、転勤族だった久郎さんが京都を本籍地としたのは、人生の後半。京都で取った戸籍には、潮さんとの親子関係は記されていなかったのだ。
それ以前、久郎さんは、潮家のルーツがある島根県益田市を本籍地としていた。このため、益田市に連絡を取り送ってもらい、ようやく親子関係が確認された。
潮さんは「遺産相続がこんなに大変だとは思わなかった。戸籍の手続きが便利になるのはいいことだと思うが、高齢化社会で遺族も高齢化する。もっと改善していくべきではないか」と話した。
関連記事