【鉄道業界インサイド】オリパラ準備、JR×相鉄の直通運転、東急分社化…19年度の注目点は?
はじめまして。鉄道ジャーナリストの枝久保達也と申します。この連載では鉄道を中心とした公共交通について、これまでの歩みと最新の動向、そして今後のあり方を考えるためのヒントなどをご紹介してまいります。
ゴールデンウィークが明けると、ようやく新年度が本格的に始まる気がするのは筆者だけだろうか。2019年度は東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、鉄道事業者のハード面の準備がヤマ場を迎える他、いくつかの都市鉄道が新規に開業、延伸を予定している。
JR東日本は新国立競技場の最寄り駅となる千駄ヶ谷駅、信濃町駅と、国立代々木競技場の最寄り駅となる原宿駅で、多くの来場者に対応できるようにホームや出入口の増設を含む改良工事を進めており、オリンピック直前の2020年6月頃に完成する見込みだ。また2020年春、京浜東北線・山手線の品川~田町間に暫定開業する「高輪ゲートウェイ駅」の駅前には、競技中継や競技体験、イベントなどを通じてオリンピックの雰囲気を体感できる「東京2020ライブサイト」の設置が決まっている。
ホームドア整備も進んでいる。今年度、JR東日本は山手線の新橋駅、浜松町駅にホームドアを設置し、東京駅と新宿駅を除く全駅の設置が完了する。東急電鉄は今年度中に東横線・田園都市線・大井町線全駅への整備を完了。東京メトロは千代田線、都営地下鉄は都営新宿線への設置工事を完了させる。小田急電鉄、京王電鉄、東武鉄道など各私鉄も乗降者数の多い駅を中心にホームドアを設置する予定だ。
JRと相鉄が直通運転開始
首都圏では、年内に二つの路線に動きがある。
東京メトロ丸ノ内線の中野坂上~方南町間は、車庫のある中野富士見町駅に発着する一部の列車を除いて3両編成の列車がシャトル運行する支線だが、終点方南町駅のホームを延伸して、本線の6両編成の列車を直通運転させる工事が進んでいる。池袋駅~方南町駅間の直通運転は今年の9月30日までに始まる予定だ。
東京メトロの「支線」といえば、千代田線の綾瀬~北綾瀬駅間も3両編成の列車がシャトル運行をしていたが、こちらも今年3月から本線との直通運転を開始した。北綾瀬駅と方南町駅は、通勤時間帯も座って都心まで行ける「始発駅」に昇格し、今後住宅地としてさらに変貌を遂げるだろう。
もうひとつが、11月30日に予定されているJRと相模鉄道の直通運転開始だ。相鉄本線の西谷駅から、付近を走るJR東海道貨物線の横浜羽沢貨物駅(開通と同時に新駅「羽沢横浜国大駅」開業)まで約2.7kmの連絡線を新設し、貨物線を経由して横須賀線に乗り入れ、大崎駅でJR埼京線と相互直通運転を行う。これまで相鉄沿線から山手線西部に通勤するには、横浜駅に出てJR線や東急線に乗り換える必要があったが、乗り換えがなくなり所要時間も約15分短縮されることになる。
詳細な運行ダイヤは発表されていないが、朝ラッシュ時間帯は1時間あたり4本、それ以外は1時間あたり2~3本の予定。朝は大宮、川越方面に直通運転を行い、日中は新宿駅での折り返し運転が基本になりそうだ。
東急が進める大改革
鉄道経営のあり方も変わりつつある。日本を代表する私鉄のひとつである東急が、今年9月、大きな変革に挑む。鉄道事業を分社化して「東急電鉄株式会社」を設立し、現在の「東京急行電鉄株式会社」を「東急株式会社」に改称するというのだ。
鉄道業界では既に、阪急電鉄・阪神電鉄、近畿日本鉄道、京阪電鉄、西武鉄道、相鉄が、グループの株式を所有する純粋持株会社としてのホールディングスを設立しており、鉄道事業の分社化自体は目新しいものではない。東急は従来から事業持株会社として、本体が鉄道や不動産事業を、東急バス、東急百貨店、東急ストア、東急ホテルなどグループ会社が各事業を推進してきたが、鉄道事業も他部門と同様に専業の事業会社に位置付けられることになる。
東急グループの売上は約1.1兆円。セグメント別に見ると、交通事業が約2100億円、不動産事業が約1800億円、生活サービス事業が約7000億円、ホテル・リゾート事業が約1000億円だ。事業の中核であり、会社のルーツである鉄道事業を分社化するといっても、東急グループにおける鉄道事業の位置づけが変わるわけではなく、あくまでも鉄道事業の意志決定のスピード感を上げることが狙いだという。
鉄道業界はポスト2020年に向けて動き始めている。日本の曲がり角は、日本の風景を作り上げてきた鉄道会社の曲がり角でもある。
【プロフィール】枝久保達也(えだくぼ・たつや)
都市交通史研究家
1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。
【鉄道業界インサイド】は鉄道ライターの枝久保達也さんが鉄道業界の歩みや最新ニュース、問題点や将来の展望をビジネス視点から解説するコラムです。更新は原則第4木曜日。アーカイブはこちら
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