子どものお気に入りのアイスが生産中止に!
私は現在オランダで生活しているのだが、先日カフェで娘のお気に入りのミニオンズのアイスを注文したら、店主がちょっと済まなそうに「ないんだ。生産中止になってしまって」と応えた。「アイスには、子どもが好きなキャラクターをつけちゃいけないって決まったんだ。キャラクターのついた甘いお菓子は、近いうちに国中のお店から姿を消すんだよ」。
国民の健康推進プロジェクトと「子どもを有害な広告から守る」ムーブメントのしわざ
オランダではここ数年、国民のQOL向上と医療費の節約のため、政府主導で国民の食生活を向上させるプロジェクトや私設団体の活動が複数同時進行中だ。
結論から言って冒頭の話は、オランダ経済省や子ども評議会、オランダ食品産業連盟、また業界最大手のスーパーマーケットチェーンなどが推進している「砂糖や脂質を多く含む『健康によくない』お菓子やドリンクは、必要以上に子どもを誘惑しないために、パッケージを含む全ての広告活動において子どもに人気のキャラクターを使用してはならない」というムーブメントの結果だったのだ。
「お菓子が大問題となる」文化的背景
はじめに説明しておきたいのは、そこまでお菓子が悪者になる文化的背景だ。
まずは食文化。日本ほど健康的で味にも見た目にもこだわる食文化で、かつお母さんたちが毎食せっせと手間暇かけて料理をする国はめったにない。ましてや食文化の貧しさに定評があるといわれている(?)上に共働き家庭も多く、食事の準備に手をかけないオランダでは、日々の食事は子ども人気においてお菓子にとても太刀打ちできない。
結果として、子どもが食事をろくに食べずにお菓子ばかり食べたがるという事態に陥りがちなのだ。実際オランダでは、18歳以下の子どもの7~8人に一人が「肥満」であると言われている。
つまり日本のように、子どもが食事で心もお腹も満たされた上でお楽しみとしてお菓子を食べる、というのとは全く次元の違う話であることを初めに断っておきたい。そもそも皆さんご存知の通り、欧米のお菓子は往々にして鼻血が出るほど甘く、バターたっぷりである。
もう一つは子どもの人権意識が高いこと。今回の件ではオランダ糖尿病財団が「16歳までの子どもは衝動のコントロールが未発達であり、企業が子どもに対して不健康な食品に対する欲求を扇動するような広告を行うことは、国連子どもの権利条約で保障されている『健康的な成育環境』に反します」と声明を出している。単純に言えば、「そもそも我慢できない生き物である子どもの欲求を煽って体に悪いものを欲しがるように仕向けるのは、大人による虐待である」という考え方なのだ。
そして最後に母親を含む一般人、この場合は消費者の力が、大企業に対して強いこと。オランダの広告規制協会は一般に、13歳未満の子どもを対象とした食品の広告を禁じている(16歳までに引き上げようという動きもある)。子どもがその食品を食べるかどうかは、作っている企業ではなく消費者である親が決めるべきと考えるからだ。
今回のムーブメントも、サステイナビリティーや教育への意識の低い企業を嫌う傾向を高めるとともに、日々買い物の最中の子どもの「買って買って」に手を焼いている消費者たちのニーズを、業界最大手のスーパーマーケットチェーンであるアルバート・ハインが汲み取ったことで加速した。同社は2016年にオランダ子ども評議会との協働により、「添加された糖分5g以上、または脂肪分1,5%以上」の自社ブランドの菓子のパッケージからキャラクターを一切排除することを決定したのだ。
典型的日本人ママの筆者としては「『買って買って』と駄々をこねる子どもに我慢を教えるのは親の仕事」と当然のように思っていたが、オランダの母親たちは「子どもが欲しがらないようにお菓子のパッケージをつまらなくしろ」と企業に迫るのだ。強い。
ちなみにオランダ中央食品評議会の調査によると、子どもを持つ親の半数が子ども向けの菓子類による問題を経験しており、4分の3が学校やSNS、スポーツイベントなど親の管理が届かない場面では菓子や甘い飲み物の広告を表示すべきでないと考えている。
スーパーの棚に見る進捗状況は
現在のところ、オランダ食品産業連盟による「2018年5月から最大2年間の移行期間を経て、店頭に並ぶ菓子やソフトドリンクのパッケージから人気キャラクターを完全に排除する」という決定がじわじわと影響を広げている。
スーパーのお菓子の棚を見回すと、おなじみのミッキーもキティも見つからない。生き残っているという風情のスマーフやトロールのお菓子も一つふたつないではないが、圧倒的に数が少ない。女子に絶大な人気を誇るFROZENでも、パッケージに印刷されている菓子は大型店舗でやっと2点のみ。非常に素朴な味(つまり子ども用に糖分を少なくしてある)のアイスバーと、クッキーだ。国民的キャラクターのミッフィなど日本におけるピカチュウ並みに各菓子が揃っているだろうと思いきや、やはりこれもベビー用ビスケット一つだけ。
飲み物コーナーで有名なキャラクターがパッケージに載っているのは、低年齢層に人気のアニメキャラクター「ウズル・アンド・ピップ」が印刷されたミネラルウォーターと、フレーバーウォーター、野菜ジュースのみ。他は全てフルーツのイラストか、せいぜいがんばってフルーツに目と手足をつけた微妙な生物が描かれている程度。
その他におやつ用のチーズや、ヨーグルト、ドライフルーツなどに人気キャラクターが点在しているが、これは当然甘い菓子の代わりに「比較的望ましい」お菓子の代用品をプロモートするため。
要するに、「子ども用の菓子」というものが極端に少ない。ベビー用品店にも菓子やドリンクはほぼない。オランダ人的には、「駄菓子屋」なんて存在自体がもってのほかだろう。
例外として大きな顔をしてお菓子の上に鎮座している「有名キャラクター」は、独ハリボー社のゴールデンベア(もしくはグミベア)や、米マース社の「M&M’s」が擬人化された例のキャラクター(スポークスキャンディーズ)など、商品オリジナルのキャラクターたち。まあこれは、特にそのキャラクターが印刷されていることが子どもの購買欲をそそるという種類のものでもないのでセーフなのだろう。HARIBOの熊が好きで好きで、という子どもなど見たこともない。
その他、子どもの食健全化プログラム
オランダでは他にも、2010年に決定されたEUの「学校フルーツプロジェクト」を受ける形で、政府が全国数千の小学校に週3回無料でフルーツを配布している。大手スーパーにも必ず子どもが自由に食べてもいいフルーツが置いてあり、要するに国を挙げてお菓子の代わりにフルーツを食べることを推進している。
もちろん子どもの健康を思えばお菓子よりフルーツを食べさせたいのは私だって同じだが、一方で自分の大好きなキャラクターのついたおいしいお菓子を手にした時の子どもの笑顔はプライスレスだ。帰国するたびに戦隊やポケモンやマリオ、キティちゃんやプリキュアなどのお菓子を爆買いしてしまう海外在住者は、私だけではあるまい。
ちなみに当然の流れとしてそれをお土産としてあげると、オランダの子どもは間違いなく「こんなの見たことない!」と狂喜乱舞する。今年も日本から帰ったらかわいくておいしいお菓子を配りながら、「日本にはこういうのいっぱいあるよ~」と地味すぎる祖国のPR活動をする予定だ。(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R))
《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。