画期的インフル薬「ゾフルーザ」の誤算 変異ウイルスで意見分かれる
インフルエンザを1回の服用で治療でき、高い抗ウイルス力を持つ画期的な新薬として、昨年3月の発売から脚光を浴びていた塩野義製薬のゾフルーザをめぐり議論が起きている。変異したウイルスが高率で出現することの解釈をめぐって、意見が分かれているのだ。変異することで薬が効きにくくなる耐性ウイルスが出現し、蔓延を恐れる感染症の専門家からは慎重な処方を求める声があがる一方、塩野義は変異しても薬は効いている可能性があるとする。耐性への不安を払拭するためにも、今後も正確な分析結果の情報開示が求められる。ただ、分析にはデータ量も時間も必要で、一気にインフル治療薬勢力図の塗り替えを狙ってきた同社の目算はくるったようだ。(安田奈緒美)
高い割合で出現
「ゾフルーザを外来で第一選択薬として使用してよいかどうか議論していく」
日本感染症学会でインフルエンザ対策の委員を務める愛知医科大の三鴨広繁教授はこう話す。変異ウイルスが他のインフル治療薬よりも高い割合で出現すると指摘される中、「重症患者など限られた処方に制限すべきだ」と考える。ゾフルーザの投与によって生じた変異ウイルスが薬に対して耐性のあるものなら、高率で発生すれば、その治療がより困難になるリスクがあるからだ。
同学会は平成23年にまとめたインフル治療薬の使用指針を今年秋までに改訂し、ゾフルーザの使用基準に関する提言もまとめる方針。委員の中には「使用制限は性急」と考える医師もいるが、三鴨教授は「全国の医療機関や医師に対して、慎重な使用を訴えるべきだ」と話す。
4日から6日にかけ、名古屋国際会議場(名古屋市)で同学会の総会が行われ、ゾフルーザをテーマにした緊急セミナーも開かれた。登壇した「けいゆう病院」(横浜市)の菅谷憲夫医師も「重症患者や他の薬剤に耐性のあるウイルスの流行時には有効だが、軽症の外来患者に単独で使うべきではない」とした。
発売前に塩野義が行った小児を対象にした治験(臨床試験)結果を問題視するからだ。国内の12歳未満の小児77人のゾフルーザ投与前後の塩基配列解析を行ったところ、投与後に18人から変異ウイルスが出現、確率は23.4%だった。インフル治療薬を投与された患者には一定割合で変異ウイルスが現れるとされるが、「タミフルなど他の薬と比べても非常に高い数値」(菅谷医師)という。
セミナーでは、国立感染症研究所が公表した、ゾフルーザ未投与にもかかわらず変異ウイルスが見つかった3事例について取り上げられた。「兄弟間で人から人への感染が疑われる」という報告もあった。
「驚くべき内容だ」。三鴨教授はこうもらし、「ゾフルーザは確かに抗ウイルス力に優れているが、想定以上に使われすぎた」と指摘した。これには前例がある。米国で1967年に発売されたインフル治療薬「アマンタジン」の耐性株が、2005年以降に世界中で流行。現在は一般的に抗インフル薬として推奨されていない。耐性株の拡大は使用量との関連を指摘する声もあり、三鴨教授は「ゾフルーザの変異株が高い確率で出た以上、使用制限について考えるのは当然」と強調する。
「塩野義の使命」
ゾフルーザは昨秋から3月までタミフルの約1.2倍となる約528万人分を医療機関に販売。使用が制限されれば、シェア拡大を狙う塩野義にとっては、大きな誤算となる。
同社は変異ウイルスが出現しても薬による治療効果は得られている可能性があるとみている。治験を担当した塩野義の医薬開発本部プロジェクトマネジメント部、上原健城部門長は「青少年や成人では、変異ウイルスが出現しても罹病(りびょう)期間は未投与の患者に比べると短い傾向にあった。熱やせきなど7つの症状を数値化して平均をとると、変異ウイルスの有無で有効性に差はなく、症状の悪化との因果関係を認めることは現時点ではできない」とする。
発売当初から薬の添付文書に、変異ウイルスの発現した患者では投与3日後にウイルスが再び増えていることをグラフで明示してきた。治験を監督する医薬品医療機器総合機構(PMDA)と協議してのことだ。
昨年10月に製造販売が承認された米国でも、承認機関の米食品医薬品局(FDA)がコメントの中で、FDA独自の調査に基づき、耐性出現率について他のインフル治療薬と比べて「割合は変わらない」とした。ただ、人から人への感染などに関するデータは「継続的に監視されるべきだ」とする見解を示している。
感染症に対して耐性が出現しない治療薬を生み出すのは、極めて困難なのが現実。ゾフルーザが直面する問題は、感染症治療薬ならではのリスクだ。
現在、同社が重視しているのは「治験の詳細な解析に加え、販売後に実際に処方された患者への調査を積み重ね、随時開示していく」(沢田拓子副社長)ことだ。手代木功社長は「感染症領域への挑戦は塩野義の使命でもある」と話す。
ゾフルーザの信用を高め、来シーズン以降も販売量を確保するためには、新しい情報の公開を積極的に行い、患者や医学界に届けること以外に道はない。
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ゾフルーザの変異ウイルスの出現率をめぐっては、研究機関によって解析方法や母数の取り方が異なり、その数字に大きな違いが出ている。
国立感染症研究所は3月、ゾフルーザを投与したA香港型インフルエンザの患者30人のうち22人にあたる「73.3%」から変異ウイルスが出現したと報告。大きく報じられ、翌日の東京株式市場では、塩野義株が下落した。同研究所によると、全国の提携研究機関から無作為に集めた検体を集まり次第解析しているという。提携研究機関は薬の効きにくい患者からウイルスを採取している可能性もある。同研究所は「解析数が増えれば、確率が減る可能性はある」。
塩野義が調査を依頼した新潟大学大学院医歯学総合研究科の斎藤玲子教授は、20歳未満の患者(インフルエンザA香港型)33人を調べたところ、投与後に3人から変異ウイルスが出現し、確率は9.1%だったと発表。ただ、母数を塩野義の治験と同様に投与前後の両方でウイルスの遺伝子解析が可能だった9人に絞ると、33.3%の高率だった。斎藤教授は「投与後にウイルスが検出されない人も母数に含んだ数字が臨床現場の実態に近いのでは」と話す。
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