高論卓説

100歳時代の生き方の極意 頭と身体を忙しく、目的は健康維持

 もう100歳になっても市町村長からお祝いの紅白まんじゅうはもらえない時代がやってきそうだ。まもなく国内の100歳以上の人口は10万人を超える。もし100歳まで生きると、60歳で仕事を辞めてから死ぬまでに40年もある。実に会社で過ごした期間と会社を辞めてから死ぬまでの年月が同じだ。最初の40年は結婚だ、子供だ、マイホームだと忙しく過ごした。だが、その40年をもう一度やるのだ。どうする、何をして40年を過ごせばいいのか。これが人生100歳時代の最大の問題である。

 政府が言うように定年制度を70歳にして、日本人は全員70歳まで働けばいいのか。一案ではあるが、いつまで働いてどう生きるのかは個人の問題であり、役人にグズグズ言われたくない。50歳で働くことを辞めようと、70、80歳まで働こうと全く個人の自由だ。いや、90、100歳までだって元気で楽しく働くことができる。

 「元気で楽しく」は高齢者が働く上での大切なキーワードだ。群馬県北部の片品村で刺し子の名人といわれた星野かずいさんは、残念ながら昨年106歳で亡くなったが、亡くなる前日までメガネもかけず一日中刺し子仕事をしていたそうだ。介護施設の世話にもならず、死ぬまで元気で好きな仕事に没頭したかずいさんこそ100歳時代の理想的な人生を送ったといえる。

 「元気で楽しく愉快に過ごす」とは毎日うまいものを食って、ドンペリを飲みながら女をはべらせて大型クルーザーで世界を回ろうよ、ということではない。ドンペリを飲んで女性をはべらせる人生も悪くはないが、QOL(Quality of Life)つまり、質の高い人生を楽しむことが重要だ。質の高い人生とはどんな仕事にせよ楽しく働き続け、賃金を稼ぎ、税金を払い、国と社会に少しでも貢献することに尽きる。

 なぜか、答えは楽しいから。生きるためでも、食うためでもなく、楽しく生きがいがあるから働く。それ以上の理由は必要ない。高齢になっても仕事を見つけることは困難ではない。ただし、学歴や前職の地位は忘れること。ゆっくりと自分のペースで働き、結果的に自分のためにも社会のためにもなる仕事を見つけることが大事だ。

 キーワードは欲張らない、こだわらない、競わない、比べない、見栄を張らないだ。目的は健康を維持するため頭と身体を忙しくしておくことなのだから。そのためには当然定年を迎える前に人生後半戦の戦略とゲームプランを考え始めるべきである。

 誤解を恐れずに言えば、長寿は決して良いことばかりではない。長生きとはある程度の健康を維持し、尊厳を持って生きて初めて長寿といえるのであり、ただ呼吸をしているだけの寝たきりの人生では長寿とはいえず、家族、社会、国に迷惑をかけているだけである。何よりも本人が一番辛い。

 60歳で定年を迎えたらすぐに再就職して働き始めても良い。が、1年でも2年でも休んで後半戦に備え充電してもいい。旅でも、趣味でも、ボランティアでも、現役時代にできなかったことを思う存分やってみる。誰のものでもない自分の人生なのだから。やりたかったことが仕事になるかもしれない。会社には頼らないしがみつかない、自分の人生だから最後まで自分の思うように自由に生きる。人生を2度も3度も楽しむ。これが100歳時代の生き方の極意だ。

 

【プロフィル】平松庚三

 ひらまつ・こうぞう 実業家。アメリカン大学卒。ソニーを経て、アメリカン・エキスプレス副社長、AOLジャパン社長、弥生社長、ライブドア社長などを歴任。2008年から小僧com社長。他にも各種企業の社外取締役など。北海道出身。