【せせらぎのそばで~鴨川ひと模様(下)】「本音を話せる特別な場所」

 
夕暮れどき、河川敷に座ってくつろぐ人たち

 京都市中心部を流れる鴨川。夕刻を迎えてもさまざまな人の姿が見えてくる。

 ■17:00 三条大橋-四条大橋間

 「靴磨きをさせていただけませんか」。乗馬インストラクターのハヤトさん(27)が道行く人に声をかける。靴磨きは見知らぬ人に話しかける度胸やコミュニケーション能力、自分でお金を稼ぐ感覚を身につけるためだとか。将来はまだ決めていないが、「靴磨きに手応えを感じている」と自信をのぞかせた。

 河川敷に並んだ納涼床(のうりょうゆか)の提灯(ちょうちん)に明かりがともり始めた。鴨川沿いにある花街・先斗町などの飲食店が5~9月末、川に面した場所に高床の座敷をつくる納涼床は、夏の古都の風物詩。その歴史は豊臣秀吉のころまでさかのぼる。

 ■18:00 四条大橋

 鴨川に夕日が差し込む。家路を急ぐ人や同僚と一杯を楽しむための人々が行き交う四条大橋。一方で、河川敷には穏やかな時間が流れる。腰を下ろしてくつろぐ観光客らの姿も。

 そのなかで黙々と画用紙に筆を走らせるのは、香港からの観光客、ジャニス・ロウさん(40)。趣味の水彩画を描くために鴨川を訪れた。慣れた手つきで下書きし、パレットに並べた絵の具で作品に彩りを加える。「日が暮れる前に描ききりたかった」と1時間ほどで完成させた一枚。夕日に照らされた四条大橋一帯が、繊細なタッチで色鮮やかに描かれていた。

 ■18:30 四条大橋付近

 薄暮が迫る。四条大橋の下に1台のロードバイクが止まった。降り立ったジョン・マクデモントさん(37)は、身長190センチ近くあるアイルランド人。額を流れる汗をぬぐい、息をゆっくりと吸い込みながら、荒れた呼吸を整えた。

 3週間前に成田空港に到着し、福岡を目指して縦断する途中。大きな荷物に加え、鍵の掛かった貴重品入れの中には、“元気の源”のバナナとピーナツバターがぎっしり詰まっていた。「富士五湖を巡り、琵琶湖も1周してきた。これから大阪でフェリーに乗って四国に行き、福岡を目指す」。バナナをほおばり、颯爽(さっそう)と鴨川を後にした。

 ■21:00 四条大橋付近の西岸

 納涼床の提灯の明かりが映え、河川敷はカップルや缶ビールを手に会話する外国人観光客で一層にぎやかに。一方、明かりの少ない対岸には淡い光のホタルが飛び交う。さらに、暗闇のなかにたたずむ人影も。

 「考え事をしていた」と話すスーツ姿の男性(32)は、大阪府内の酒類製造会社に勤務しているが、この日は仕事で京都を訪れていた。頭を整理するために学生時代に通った鴨川に足を運んだという。「大人になって改めて京都に来ると、いろいろな新発見があり、新鮮な気持ちになれるような気がします」。1時間近く物思いにふけたあと、そっと立ち去った。光明が見えたのかもしれない。

 ■0:00 四条大橋北側の東岸

 夜が更ける。納涼床の明かりも消え、鴨川一帯は暗闇に包まれたが、静かに流れる川の音に交えて、会話を弾ませる声が聞こえる。

 並んで座っていたももさんとゆかさんは、ともに京都市内の大学の看護学科に通う20歳の学生。店で飲食した後、コンビニで酒を買い込み、同9時ごろから河川敷で開く2次会で「恋愛話や将来についての話」を交わすのがお決まりのルートだという。

 夜の鴨川の魅力について、ももさんは「自分の本音を包み隠さず伝えられること」と語る。「少し特別な環境だからこそ、普段は口にだせない素直な思いが届くのだと思う」と続けたゆかさん。2人はゆっくりと腰を上げ、駅に向かった。

 こうして鴨川の一日が終わり、また新しい一日が始まる。

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 小川恵理子、桑村大、南里咲、永田直也が担当しました。

【用語解説】鴨川

 京都市北部に位置する桟敷ケ岳(さじきがだけ)付近を源とし、桂川の合流点に至るまで京都市内を南下する約23キロの河川。814(弘仁5)年、歴史書「日本紀略」に登場するのが最も古い記録とされている。平安京の時代には都の東の境界だった。現代では河川敷に遊歩道なども整備されているほか、夏には多くの川床(ゆか)が並び、風物詩としてよく知られている。