【今どきワークスタイル】(8)発達障害 「音」や「光」控え働きやすく
発達障害の人が働きやすいように、感覚を刺激するような「音」や「光」を控える工夫をこらしたオフィスが見られるようになってきた。苦痛と感じる原因をなるべく取り除くようにすることで、働き手はより能力を発揮しやすくなるという。(津川綾子)
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「ホチキスを留める音や、引き出しを閉める音などが苦手」。二宮祐美子さんは聴覚が過敏で、仕事中に時々、イヤホンで周囲の音が耳に入るのを防ぐ。発達障害の一つ、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されている。
二宮さんが働くのは横浜・みなとみらい地区にあるグリービジネスオペレーションズ(GBO)。オフィスの窓全面にブラインドが下ろされ、サングラスや防音のイヤーマフを着けてパソコンに向かう社員もいる。
感覚過敏に配慮
GBOは、ソーシャルゲーム大手「グリー」(東京都港区)が障害者雇用促進のために設けた特例子会社。社員52人中、46人が障害者手帳を持ち、33人が発達障害。今月のオフィス移転にあたって、発達障害当事者の声も取り入れた。
「光は苦手」との意見で窓はブラインドで覆い、職務スペースをなるべく窓から離した。聴覚過敏に配慮してコピー機や自販機は職務スペース外に置き、人の気配が苦手な人は部屋の隅の席に。サングラスやイヤーマフも用意、ベッドで休める休憩室や、自席で落ち着かない時に使える仕切り付きのスペースもある。
「ひとくちに発達障害といっても特性や症状はさまざま。いろいろな仕組みや設備を用意して、その人に合わせて配慮していく」と竹内稔貴(としたか)・経営企画副室長は話す。
自信がつき活躍
同社が4社目という二宮さんは、前の職場でイヤホン利用を許可された一方で、電話に出るように指示されるなど、障害が理解されず退職した。就職・退職の合間には、ひきこもりがちになった時期もあった。
しかし今、二宮さんの机には、3カ月、1年…の皆勤を表彰したカードが飾られ、ゲームのアイテム名の考案や配色作業などをするチームのリーダーも任されている。「今は環境の配慮に加え、無理なこと、つらいことを上司に伝える空気も仕組みも、具体的な助言もあり働きやすい」という。
会社外でもOK
発達障害による感覚過敏への認識や配慮について、「落ち着いて仕事ができる環境作りに不可欠」と話すのは、高知大学医学部特任教授の高橋秀俊さん(児童青年期精神医学)。発達障害、特にASDの人の7~9割が感覚の問題を抱えているとの研究もある。事務機器や会話など、さまざまな音が混ざり合う通常のオフィス環境は、聴覚過敏の人にとって必要な情報の選別がしづらく、混乱して仕事に支障を来す場合もあるという。
最近では発達障害を抱える人が静かな場所で仕事できるようにと、サテライトオフィスの開設も進む。
障害者の雇用支援を行うスタートライン(東京都三鷹市)が運営する「インクルMARUNOUCHI(まるのうち)」(同千代田区)。バリアフリーの静かなオフィスが10区画あり、専門性の高いスタッフも常駐。インクルを利用する「三菱地所プロパティマネジメント」(同)の契約社員でASDの男性(30)は「仕事に集中しやすい」と話す。
同社の担当者は「本社や大勢の中は苦手で出社できない人もいる。異なる仕事環境を設けておくことで、能力を発揮してもらいやすくなる」と利点を語った。
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