エベレスト「死のゾーン」が大渋滞 許可証乱発で不慣れな初心者殺到
中国・ネパール国境にそびえるエベレスト。多くの登山者が登頂を夢見る世界最高峰だが、その観光地化が問題となっている。登山客の増加に伴って山頂付近で“渋滞”が発生。登山許可証の乱発で、「ほとんど初心者に近い人が集まる」と批判が集まる。標高8000メートルを超える世界で一体何が起きているのか。(シンガポール 森浩)
山頂付近で行列…死者11人
5月末、ネパール人登山家がエベレストで撮影した写真がインターネット上で拡散した。尾根で登山者が長蛇の列をなし、動きづらそうにしている様子だ。その混雑ぶりについて、米国人登山者は「2つ分の卓球台ほどの広さしかない平らな部分は、15~20人の登山客でいっぱいだった」と、米紙ニューヨーク・タイムズに話した。
標高8000メートルを超えた地点は「死のゾーン」と呼ばれ空気が極端に薄く、酸素濃度は地上の3分の1程度だ。ほとんどの人は酸素補給が必要となる。エベレストでは「第4キャンプ」(約7900メートル地点)から山頂までは深夜に出発し、その日のうちに下山するのが一般的だが、持ち運べる酸素の量には限界がある。渋滞で計画に遅れが出れば、命に危険が及ぶ。
今シーズン、エベレストで死亡した登山者は11人で、ネパール地震の影響で大規模な雪崩が発生した2015年をのぞけば、ここ数年で最悪の数字だ。山頂付近で数時間身動きが取れなくなるケースもあり、高高度での渋滞に警鐘を鳴らしていた英国の登山家も命を落とした。
地元ジャーナリストは「今シーズンは特に天候が悪く、山頂にアタックできたのが事実上数日間しかなかったことも渋滞に影響した」と話している。
手数料にガイド代…エベレスト登山は「産業のひとつ」
ただ、根本的な原因は登山客過多ともいえる現状にあるだろう。
エベレストには中国側とネパール側の大きく分けて2つのルートがあるが、サポート体制の充実などから後者を採用するケースが多い。そのためにはネパール政府の許可証が必要だが、今年の春季登山シーズンには過去最多となる381人に発給された。登山者にはそれぞれシェルパ(ガイド役)が付くことが多く、今年は少なくとも500人がエベレストに登ったと見積もられている。
政府は許可証発給に際し、手数料として1人当たり1万1000ドル(約120万円)を徴収しており、貧困国ネパールにとっては貴重な外貨獲得手段だ。地元ジャーナリストは「エベレスト登山を専門に取り扱う旅行会社が数多くあり、登山客1人で5万ドル以上の金が動く。エベレスト登山は国の産業の一つだ」と断言する。
こうした状況が、経験不足の登山客を招き入れていると批判される。ニューヨーク・タイムズは「一部の登山者はアイゼンや氷上で足場を固めるスパイクの使い方を分かっていない」と指摘。登山家のアラン・アーネット氏は「エベレストと、(標高世界第5位の)マカルーの違いさえも知らない。危険を判断できるだけの経験もない」と一部の登山者を批判しており、安易なエベレスト挑戦への懸念が拡大している。
酸素ボンベや排泄物…キャンプ使用中止措置も
登山客の増加にともなって大量発生するゴミの問題も浮上する。ネパールの登山家らは4月と5月にエベレストの清掃作業を行い、酸素ボンベや壊れた登山用具、人間の排泄物など約11トンのゴミを回収した。
また、清掃作業に際しては4人の遺体も同時に発見され、搬送された。いずれも身元は分かっていない。エベレストでは1920年代以降、300人以上が命を落としているが、何体の遺体が残されているか正確な数は不明だ。
ゴミ問題は中国側でも起きており、2018年春の清掃作業では8トン分のゴミが回収された。地元政府はゴミ急増に対応するため、今年に入って登山の拠点となるベースキャンプ(5200メートル地点)について観光客の使用を認めない措置を取った。
著名な英国人登山家のニック・ホリス氏は初心者登山の増加などで「エベレストの風景は変わった」と指摘。世界最高峰が身近になった今こそ、山に対する恐れと敬意が求められそうだ。
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