【100歳時代プロジェクト】日本独自の「IR」共創に注力

 
世界各地でIR事業を展開するシーザーズ・エンターテインメントのスティーブン・タイト氏=大阪市(南雲都撮影)

 観光立国を目指す政府が推進する「カジノを含む統合型リゾート(IR)」は「世界の人々をひきつけ、大人も子供も楽しめる新たな観光資源を創造する」を原則に掲げる。少子高齢化が進む日本では高齢者の雇用確保や社会参加が必須で、IRはそうした側面からも地域社会に貢献することが期待される。しかし、国内ではIRへの理解は進んでいるとは言いがたい。米ラスベガスのIR大手「シーザーズ・エンターテインメント」の国際開発部門責任者、スティーブン・タイト氏に日本のIRの可能性について聞いた。(道丸摩耶)

                   ◇

 ◆3世代で楽しめる

 タイト氏はウォルト・ディズニーに長年勤め、パリや香港のディズニーランドの開発を手がけた経験を持つ。その後、シーザーズ・エンターテインメントに転じたが、ディズニーランドのようなテーマパークとIR施設の間に共通項を多く見いだしたという。

 「ディズニーの場合、テーマパークを中心にホテルや店舗、レストランがある。IRも同じで、核となる多様なエンターテインメント施設が集客を担い、ホテル、レストラン、ショッピングモール、会議施設などを集約することで幅広い世代を楽しませるビジネスモデルはよく似ている」

 世界のIRといえば、ラスベガスやマカオ、シンガポールなどが浮かぶ。そうした先行事例から巨大なカジノをイメージするが、タイト氏は「日本ではカジノの営業区域はIRの建物床面積の3%が上限で、マカオのような巨大なカジノはできない」と説明する。

 「私たちのIR開発が目指すのは、3世代で楽しめるER(エンターテインメント・リゾート)だ」とタイト氏。「東京ディズニーランドは世界でもっともうまくいったテーマパークだが、開設当初はテーマパークの概念が浸透しておらず、エンターテインメントによりこれほど多くの観光客やさまざまな価値がもたらされると想像できた人は少なかったはず。IRの開発でも地域に貢献する同様のサクセスストーリーを作りたい」と期待を込める。

 ◆地域特性を生かす

 カジノができると治安が悪くなるといった懸念もあるが、実はカジノができた世界の都市では犯罪は減少している。ギャンブル依存症対策も国任せではない。シーザーズは米国、英国、カナダ政府に認められた多くの対策プログラムを業界に先駆け導入し、今ではこれが業界水準となった。

 タイト氏は「日本の文化やおもてなしの力は世界のどこにもない唯一無二のもの。日本の感性を取り入れ地元と話し合いを重ねながら、日本独自のIRとしてどのような体験を提供していくべきかを継続して考えていく」として、地域特性に応じたIRの開発に意欲を示す。北海道であれば自然や地元の特産品に焦点をあて、横浜であればいち早く開国した港町の歴史を生かす、といった具合だ。

 「施設はただの箱物でなく、ストーリーがあってこそ輝きを放つ。そのストーリーは文化や歴史など地域が持つストーリーと施設の融合により多面的な魅力を持ち、訪れる人々のストーリーと重なることで完結する」とタイト氏。最初に訪れたときに「忘れられない体験」となるか、そして何度訪れても「新たな体験」と感じられるかどうかに成功がかかっているという。

 世界8カ国で55カ所のIRを運営する経験から、タイト氏は「日本には日本にふさわしい、日本らしいIRの形があるはずだ」と日本ならではのIRの可能性を強調した。

                   ◇

【プロフィル】スティーブン・タイト

 Steven Tight シーザーズ・エンターテインメント国際開発部門責任者。ウォルト・ディズニーに17年間勤め、パリや香港のディズニーランドの開発を手がける。2011年にシーザーズに入社し、日本におけるIR実現に向け定期的に来日している。スタンフォード大建築学科卒。ハーバード大ビジネススクールでMBA取得。