フィンテック群雄割拠~潮流を読む

フィンテックで地銀は生まれ変われるか?(前編) ビッグデータを活用

甲斐真一郎

 今回のエントリーでは、生活圏の人にとって、今ひとつイメージの沸きづらいお話ながら、これからの時代に知っておいた方がいいことについて、フィンテックという切り口から触れてみようと思います。

 そう、それが、今回のテーマでもある「フィンテックと地方銀行」です。実は、地方銀行は、これまでの日本の経済を語る上で欠かすことが出来ない存在でした。地方銀行は、地元企業や地元住民の地域経済の活動を支える重要な金融インフラの役割を担ってきました。ところが現在、あちらこちらのメディアで「地方銀行の経営が厳しい」ということが報じられています。

 一体、今、日本の地銀に何が起きているのでしょう? フィンテックという新しい発想は、この状況にどう向きあい、どう打開しうるものなのか? 

 この状況を対岸の火事としてではなく、日本全体の重要課題として考えてみたいと思います。

 地銀の経営が「厳しい」と言われている理由

 昨今、地方銀行がネガティブに語られるのは、地域経済そのものが、少子化・高齢化・人口減少によって鈍くなっており、市場規模自体も小さくなっていることが1つの要因に考えられています。また、日本銀行が導入したマイナス金利政策によって預貸金の利ざや(貸出利回りと預金原価(預金利回り+預金経費率)との差)が小さくなってしまったことも1つの要因と言えるでしょう。また、これまでの金融システム、金融ビジネスそのものを変えてしまうフィンテックなどの新しい動きが台頭したことにも関係があると考えられます。日本銀行も、4月中旬に出したリポート(金融システムレポート)では、今から10年後の2028年には、地銀の約6割が最終赤字になるという試算を弾き出しているのです。本当に驚きですね。

 そもそも地銀とは?

こんな風に地銀を巡る暗い状況を、見聞きした人は少なくないはずです。でも、地方銀行が、一体どんな役割を担い、どんな風にビジネスを成り立たせてきていたのか。この点については、多くの人がぼんやりと疑問に思っているのかもしれません。

 地銀、つまり地方銀行は、私たちが生活で利用する普通銀行の1カテゴリーです。都市銀行は、東京や大阪などの大都市に本店がある一方、地方銀行は、各都道府県に本店があり、各地方を中心に展開している銀行のことを指します。実は、都市銀行は、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行の4行だけです。全国地方銀行協会によれば、現在の地銀の数は64行に上るそうです。ちなみにこの64行は「第一地方銀行」と呼ばれることがあります。それは「第二地方銀行」というカテゴリーもあるからです。第二地銀は足元で全39行ですので、第一地銀と第二地銀を合わせると、日本には103行もの地銀があるということになります。1つの都道府県に2行以上ある計算になりますね。(2018年11月時点)

 地銀が地域金融の担い手であるということは、つまり各地域に巡らせた拠点を通じて、個人や企業の資金ニーズに合わせた金融サービスを提供しているということになります。でも、この説明だけだと、どんな風に稼いでいるビジネスモデルなのか、イメージできませんよね。

 地銀のビジネスのキモは、「貸出業務」にあります。言い換えれば、預金を集めて、それらのお金に金利をつけて地域の企業に融資をしたり、地元に住む個人に対して住宅ローンなどの形で貸し出しをして、戻ってきたお金に貸し出したときより低い金利をつけて預金者に返すビジネスなのです。つまり、「貸出金利」と「預金金利」の利ざやで利益をあげていると言えます。これは一般的な銀行のビジネスモデルですね。都市銀行と異なる点は、地域の人や企業を主対象にしてビジネスを展開をしているところです。

 「地銀×フィンテック」が課題を解決する?

 さて、ここまでは地銀の今の状況と前提となる基礎のお話をしてきました。では、これからの地銀には、メディアが騒いでいるように本当に未来がないのでしょうか? 商機、勝ち筋はないというのでしょうか? 僕自身は、「地銀には、まだ可能性が十分残されている」「地銀には、地銀ならではの勝ちパターンがある」。そう考えています。

 地銀には、地域に根ざした金融機関ならではの強固なネットワークや「信用」があります。信用を第一とする銀行業において、地域に多く住む高齢者からの信頼を集めているポイントは、一朝一夕で他業種企業やスタートアップが簡単に覆せるようなものではないでしょう。またデジタライゼーション、つまりフィンテックの波にうまく乗ることによって乗り越えられる課題も少なくないはずなのです。では、今すでにある地銀のフィンテックを活用する動きには、どのようなものがあるのか?

 ここで、実際にいくつかの事例を挙げてみることにします。

 複数行が連携、地域にあるビッグデータの活用

 地銀数行が連携をとり、銀行のデジタル化の研究・開発を行う。そんなコンセプトのもとに2018年6月設立されたのが、「フィンクロス・デジタル」です。共同出資行として名を連ねる7行は、池田泉州銀行、群馬銀行、山陰合同銀行、四国銀行、千葉興業銀行、筑波銀行、福井銀行、と全てが地銀です。

 同社はデジタライゼーションの波を意識して、フィンテック技術の開発を進めています。狙いは、7行が集うことで1行では難しかったデジタル化を目指し、同時に複数行のデータを集約すること(匿名前提)で高度なデータ分析、利活用が可能になるというものです。7行合計で1000万口座以上の普通預金口座のデータや80万の融資先の地域に根ざしたビッグデータを解析できる強みは、非常に大きなものになるはずです。

 これがうまくいけば、彼らが掲げるように、銀行業がAIにより高度化され、多くの業務が自動化されて、店舗のデジタル化によるペーパーレス化やキャッシュレス化が進むことが期待されます。さらに、インターネットバンキング機能が強化され、高度なUI/UXが実装されることで地域に根ざした利便性の高い銀行サービスが近い将来本当に実現するかもしれません。

 この研究・開発の試みの結果、すでに参加行6行でAIを活用した銀行内デジタル文書検索システムが導入・実働されており、実効性の高いプロジェクトで地銀の未来を占う上では重要な試みなのではないかと思います。

 このフィンクロス・デジタルと同様の動きも見られます。フィンテックの調査や研究、フィンテック活用の金融サービスの開発を行う「T&Iイノベーションセンター」の設立(2016年7月)、「ForeVision」の設立(2019年2月)も、複数の地方銀行が参加しており、フィンテックの潮流に合わせて行こうとする流れだと思います。

 次回の後編では、僕が個人的に注目している地銀とアプリの組み合わせなどについてご紹介したいと思いますので、楽しみにしていてください。

甲斐真一郎(かい・しんいちろう) 「FOLIO」代表取締役CEO
京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。バークレイズ証券を退職後、2015年12月に、手軽に資産運用、株式投資を楽しめるフィンテックサービス「フォリオ」を提供するオンライン証券会社「FOLIO」を設立。フィンテックの旗手として大きな注目を集めている。次世代型投資プラットフォーム・サービス「フォリオ」は、「ユーザー体験」「操作感・表示画面」に着目されており、テーマ投資という形で誰もが簡単に株式投資を楽しむことができるように設計されている。FOLIOはお金と社会にまつわる情報を発信するオウンドメディア「FOUND」も運営している。

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