なんとなく体がだるかったり、食欲不振になったり…。これといった病気ではないのに体の不調が続いている人は「夏バテ」かもしれない。中でも「夏バテをしやすくなった」と感じる人は、その背景に「毛細血管の劣化」や「脳腸バテ」がある可能性がある。夏は、暑さに加えて、長期休暇などで生活リズムを崩しがちな季節でもある。自覚症状から自身の夏バテの原因を探ろう。
夏バテと毛細血管の“意外な”関係
「あなたの夏バテの原因、そのひとつは毛細血管の劣化かもしれない」。女性だけの30分健康体操教室「カーブス」を運営するカーブスジャパンがこのほど示した調査結果は、毛細血管の劣化度と夏バテの相関関係を浮き彫りにしている。
調査は、「よく口が乾く」「眠りが浅い」など、当てはまる自覚症状のチェック項目数によって「毛細血管の劣化度」を測るもので、20代~60代の男女1042名を対象に行われた。
毛細血管の劣化度チェック
- □白髪が急に増えた
- □シミ・シワ・たるみが気になる
- □目が乾きやすい
- □よく口が乾く
- □頭痛や肩こりを感じる
- □眠りが浅い
- □イライラしやすい
- □胃もたれ、胃痛をよく感じる
- □疲れやすい、風邪を引きやすい
- □手足の冷えやむくみを感じる
チェックが、
0~1個…毛細血管の劣化度「低」
2個~4個…毛細血管の劣化度「中」
5個以上…毛細血管の劣化度「高」
調査で判明したのは、男性の52.2%、女性の72.2%が毛細血管の劣化度「中・高レベル」で、男女とも半数以上が複数の症状を感じているということ。
また、夏バテと毛細血管劣化度の関係を調べたところ、毛細血管の劣化症状が多い人ほど、夏バテの症状を強く感じているという傾向が明らかになった。
紫外線や気温でダメージを受ける毛細血管
毛細血管はすべての血管の99%を占める。毛細血管は年齢ともに劣化・減少し、20代に比べ60代では約4割も減少する。毛細血管が劣化すると、肌や髪の老化、免疫力の低下など、全身の不調として表れてくるという。
医学博士で米ハーバード大学医学部客員教授を務める根来秀行氏は、「夏は紫外線や気温の高さにより毛細血管がダメージを受けやすい」と指摘する。毛細血管が劣化していると、栄養や酸素、ホルモンや免疫物質が全身に行きわたりにくくなるため、だるさや冷え、食欲不振など、夏バテの症状が深刻化しやすいという。
日中はしっかり運動して交感神経を活発にし、それによって夜は副交感神経を働きやすくすることで、自律神経のバランスが整う。それは毛細血管の劣化を防ぐことにつながり、夏バテ解消にも役立つというわけだ。
血管が消える!? 現代人に多い「ゴースト血管」
最近は運動不足や食生活の偏り、ストレスなどにより、若くても毛細血管が劣化している人が増えてきている。生活習慣の乱れや加齢により血流が低下すると、毛細血管の内側にある「内皮細胞」と外側を囲む「周皮細胞」の結びつきが弱くなり、血液や栄養素が血管の外に漏れてしまい、管はあるのに血液が流れない状態になる。
この状態は「ゴースト血管」と呼ばれ、それが進むと毛細血管は消えてしまう。
夏バテに打ち勝つ 「血管力」UP法
毛細血管は加齢とともに減るが、トレーニングによって減少を防ぎ、何歳からでも増やすことができる。毛細血管を増やすためにカーブスが提唱しているのが次の3つのステップを毎日繰り返すことだ。
(1)筋トレ+有酸素運動で血流を上げる
血流を上げる最も有効な方法は筋トレと有酸素運動を交互に行うこと。筋肉を鍛え、有酸素運動を行うことで血流が良くなり毛細血管が健全に保たれ、増加する。暑さで体を動かす気になれない時は、電車の中でつま先立ちをするなど、生活の中でできる軽い運動から始めてみよう。
(2)腹式呼吸で血管を緩める
毛細血管を緩めるには腹式呼吸が効果的だ。血管の収縮・拡張は自律神経によって調節されており、緊張時に働く交感神経が優位になると縮み、リラックス時に働く副交感神経が優位になると緩むようになっている。基本的に意識してコントロールすることはできないが、自律神経を自分で整えられる唯一の方法が「呼吸」だ。腹式呼吸でゆっくり息を吐くことで副交感神経が優位になり、毛細血管が緩む。
(3)睡眠で血管の緩みをキープする
睡眠の質を上げることで、毛細血管を緩める時間をキープすることができる。睡眠中は自動的に腹式呼吸になり、副交感神経が優位になる。成人の場合、7時間程度の睡眠時間が必要だ。なお、日中に運動をして交感神経を優位にすることで、夜に副交感神経のスイッチが入りやすくなり、睡眠の効果をアップさせることができる。
ストレスでも引き起こされる「脳腸バテ」
若い頃に比べて「夏がつらくなった」と感じる30~40代のビジネスパーソンの中には、脳と腸の不調がその原因である可能性もある。資生堂が運営する、脳と腸のしくみをさまざまな角度から解明するサイト「脳腸相関LABO.」が2018年12月、30~49歳の働く女性(167名)を対象に行った調査では、その約半数が「10代、20代の頃に比べ、夏バテしやすくなったと感じる」と回答している。
消化器専門医の大竹真一郎氏は、30代以上の女性が起こしやすい夏バテの背景に、(1)暑さなどによる睡眠不足で自律神経の乱れ(2)「腸バテ」があると指摘する。
自律神経の乱れ
先に触れたように、人間には、意識しなくても内臓の動きをコントロールする自律神経があり、交感神経と副交感神経が常にバランスをとっている。胃腸は、副交感神経が優位になったときに働くため、リラックスしているときに消化が活発になり、逆に、ストレスを感じると交感神経が優位になり消化の働きが悪くなる。つまり自律神経がストレスの影響を受けると、胃腸の働きが鈍くなる。脳の不調が胃腸の不調につながるのはこのためだ。
30代以上のビジネスパーソンは仕事で責任のあるポジションを与えられ、10代や20代に比べ、ストレスにさらされる場面が多くなる。消化器科医の大竹真一郎氏は、「女性は特に、プライベートでも結婚や出産などの環境の変化でストレスが増える」と話している。
「脳腸バテ」
大竹医師はまた、30代以上の女性が起こしやすい夏バテのひとつに「脳腸バテ」があると指摘している。
人間にはそもそも体幹温度を37度に保とうとする働きがあるが、30代を過ぎると室内外の温度に対応する体温調整機能が落ちてくる。女性の場合は特に、男性に比べて筋肉量が少なく熱産生(体が熱を生み出すこと)が上手にできないことから、冷房で体を冷やし過ぎることがある。冷房に加えて、熱中症予防として冷たい水分を摂取すれば体全体が冷えることにもなる。
体が冷えて下痢などを繰り返すうちに、寝不足による疲労も重なり体力がなくなる。結果的に、朝起きられない、集中力が上がらないという「脳腸バテスパイラル」に陥る恐れがあるというのだ。
夏の脳腸バテ 3つの予防法
体を冷やしがちな夏でも体温調整機能を正常に保つためには次の3つを心がけよう。
(1)睡眠をとる
暑さなどで寝つきが悪いときは、眠れないことをストレスに感じず、横になって目をつぶり体を休める
(2)汗をかきやすい体をつくる
夏でも湯船につかるなど、軽く汗をかく習慣をつけて体温調整をしやすい体質をつくる
(3)食物繊維を積極的に摂る
食物繊維を無理なく摂れるきのこや海藻を食事に加える
あなたの夏バテ、タイプは?
「夏バテ」とひと言でいってもその原因は人それぞれだ。訴える症状も、性別や体質によって異なる。この夏を健康に乗り切るためにも、そして効率良く働くためにも、自身の夏バテの“タイプ”を見極めて最適な対処法を見つけよう。