横浜でスリル満点のオールナイトツアー 記者が体験取材
夏の風物詩といえば色々あるが、「肝試し」が欠かせないのは昔も今も変わらない。記者は横浜市のタクシー会社「三和交通」が企画する「心霊スポット巡礼ツアー」が話題となっていることを知り、深夜から翌朝までのオールナイトツアーを体験取材することにした。想像もつかない“怪奇現象”にも直面した8時間に及ぶツアーの中身とは…。(太田泰、写真も)
ある蒸し暑い日の夜。待ち合わせ場所の新横浜駅に行くと、暗がりに溶け込むようにして、1台のタクシーが路肩にひっそりと止まっていた。「お待ちしておりました」と、ガイドドライバーの今井隆也さん(56)が、にこやかにドアを開けてくれた。
にやっと笑い
後部座席に乗り込むと、目の前に差し出されたのは1枚の紙。「誓約書」とあり、その下には「何が起こるか予測がつきませんので、参加後に心身等に異常をきたしたとしても主催者側に責任を問いません」という、何とも“不穏”な言葉が並んでいる。渡されたペンで刻むようにして紙に署名し終えると、今井さんはにやっと笑い、タクシーを発進させた。
同社によると、今年は「横浜」「多摩」「東京」「ふじみ野」の4エリアの全9コースで、ツアーを予定している。今回、記者が体験したのは、横浜エリアのオールナイトツアー「霊和元年ENDLESSWALTZコース」だ。
同社によると、昨夏に東京エリアで行われたオールナイトツアーが予想を上回る人気となったため、他のエリアでの開催も決めたという。昨年は東京エリアのみだったが、今年は全てのエリアでオールナイトツアーが用意されている。
横浜エリアの場合は、横浜市と周辺自治体にある、10カ所以上の心霊スポットをタクシーで回るもので、所要時間は約8時間。出発は新横浜駅だが、行き先は当日まで、全てシークレットになっているのが特徴だ。そのため、詳しい場所までは明かせないが、特に印象的だったスポットを紹介したい。
真っ暗な空間が
同市内のとあるスポットは、今井さんの同僚ドライバーが不可思議な体験をしたという場所だ。そこは、道幅が広い幹線道路を少し外れた、住宅街の一角にある細い道路。近くに街灯は1本もなく、タクシーの窓から見ると、外には墨で塗りつぶしたような暗闇が広がっている。
「20年ほど前、同僚がこの場所を車で走っていると、道の真ん中に数十人の白い人影がいたそうです。『暴走族か』と思って、車をゆっくりと近づけると、その集団は消えてしまったということでした」(今井さん)。タクシーを降り、用意された懐中電灯で周囲を照らすが、数メートル先の様子も分からず、すぐ近くが住宅街とは思えない。
そのとき、一瞬、人の気配のようなものを感じ、あわてて振り返った。だが、そこには真っ暗な空間があるばかり。風がない夜だったにもかかわらず、そばにある林の木立が揺れているように見えた。
タクシーは高速道路に入り、郊外の心霊スポットを目指す。小1時間ほど高速を走り、インターチェンジを抜けて、さらに数十分。タクシーが停車した場所は、ある寂しいトンネルの入り口だった。今井さんが「ここでは、小学生くらいの子供の幽霊がよく目撃されるそうです」と教えてくれた。
ストロボに異変?
タクシーを降りて、1人で反対側の出口まで歩くことにした。トンネルの天井からは時折、水滴が垂れ、地面や壁の所々に、黒い染みをつくっている。照明の薄暗さと相まって、それらが不気味な陰影として浮かび上がってくる。
恐る恐るトンネルの中程まできたときだったろうか。これまで異常がなかったカメラのストロボが、突然、反応しなくなってしまった。画面にはエラーの表示が出て、シャッターが押せない。ストロボの乾電池は、数日前に新しいものに入れ替えたばかりだったのだが…。じっとりとした嫌な汗を背中に感じた。
ようやくトンネルの出口にたどり着き、今井さんに事情を話す。とりあえず、近くのコンビニエンスストアに向かってもらうことにしたのだが、不思議なことに、トンネルを離れるとストロボは普通に動く。エラーの表示も、もう出ていない。「こういう場所では、よくあることなんですよ」。今井さんが、そうポツリと言った。最後の心霊スポットを回り終えたときには、東の空が徐々に白んでくるころだった。
すでに締め切り
ツアーでは、心霊スポットに向かう道中も楽しめた。郊外のスポット周辺では、都会では珍しい狸や鹿などの野生動物を見ることもでき、車内では土地の由緒や観光名所も丁寧に解説してくれる。時間を感じさせない、濃密な夜を過ごすことができるのも魅力だ。
三和交通によると、「心霊スポット巡礼ツアー」は女性からの人気が高く、最近は女性同士の参加者も多い。今年、7月1~15日の予約期間で受け付けた応募総数は計1444件。抽選倍率は約33倍で、全てのエリアで長時間のコースに人気が集中したという。
今年の分はすでに予約の受け付けを終了したが、同社は来年も同ツアーの実施を検討している。「毎年参加されている方でも、もっと怖がってもらえるようなスポットを入れていきたいと考えている。タクシー業界は『堅い』というイメージがあるが、これからも、そのイメージを変えられるような企画を実施したい」(同社の広報担当者)。今後の展開からも、目が離せない。
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