【試乗スケッチ】まだこの顔に違和感ある? 万人受けは狙わない三菱自「ekクロス」

 
とにかく個性的な「ekクロス」
「ekクロス」のインテリア
非常に個性的なマスクを持つ三菱自動車「ekクロス」
「ekクロス」のインテリア
ゆったりと広いスペースが広がる後席
レーシングドライバー兼自動車評論家の木下隆之さん
個性的なデザインの三菱自動車「ekクロス」
釣り目のライトがヘッドランプかと思いきや…実は縦に据えた下段のライトがそれなのだ
エッジの効いたデザイン。ピラーは黒塗りされており、ルーフが宙に浮いているようだ
三菱自動車のエンブレム

 個性的なデザインの宿命

 公式的にはマイナーチェンジだとはいえ、フルモデルチェンジと見紛うばかりの大改良が加えられた三菱デリカD5は、いい意味でもそうでない意味でも、議論白熱。話題が沸騰した。

 フットワークは大幅に洗練した。内装の質感も圧倒的に進化した。クルマとしての成長には異論はない。だが、フロンマトスクに関して賛否両論渦巻いた。正面から見ると「X」文字でイメージできる。切れ味鋭いカミソリのようでもあり、おどろおどろしい妖怪のようでもある。当初は、否定的な意見が少なくなかったように思うのだ。

 だがそれって、新しいデザインにチャレンジするとそうなる。見慣れるまでには違和感が強いから、ついつい「昔の方がよかったのになぁ~」となる。だがそれも、最初の数カ月だけだ。街中で何度か見かけるようになると、目が馴染んでくる。舌の根も乾かぬうちに「このくらい刺激的なほうがいいよね」となる。いけしゃあしゃあと、手のひら返しされるのが個性的なデザインの宿命でもある。

 レクサスのスピンドルグリルしかり、クラウンの王冠グリルしかり。流石にプリウス顔はいつになっても馴染めず、ついにはトヨタ側が待てなくなって改良したけれど、一般的に個性の強いデザインは初めは否定的な意見に晒されるものだ。

 つまりデザインは時間の経過を予測する作業でもある。しかも感覚的な部分だから、なかなか難しい。「答えのない答え探しは骨が折れる」と、トヨタのとあるデザイン担当役員がそう言って笑っていたっけ。

 三菱が力を入れている「ek X」(イーケークロス)をながめていて改めてそう思った。デリカD5に初対面した時のように、たじろぐ事はなかった。むしろ、惹き寄せられる。

 万人受けは狙わない

 「多くのお客様が、このデザインが好きだとおっしゃって購入いただいているようです」

 三菱の担当者もそう言って誇らしそうだった。

 ベースは日産との共同開発である。「日産デイズ」とは二卵性双生児の関係になる。パワートレーンやプラットフォームや、数々の安全装備にも違いはない。つまり、デイズか「ek X」で購入に頭を悩ませたときの判断材料はデザインだけなのである。とすると、この刺激的なデザインは◎だ。月に2万台も3万台も売ろうというのなら、万人受けするデザインもありだったかも知れないが、今の三菱が狙うのはそこではない。三菱信仰者の琴線に響く、きんぴかの仏像のような象徴である必要がある。だから正解なのである。

 そう思って、改めて眺めると、正面から見た「X」文字は、まさに「ek X」の「X」である。デリカD5でセンセーショナルデビューした「ダイナミックシールド」顏はむしろ「ek X」のために筆を振るったかのようだ。

 キュートな野獣?

 デザインコンセプトは「THE CUTE BEAST」だという。「キュート」は可愛いを意味する。「ビースト」は確か、獣だとか四つ脚の動物だったはず。不安になって辞書を紐解くと、俗語では「馬力のあるクルマ」とある。「ひどい人」だとか「イヤな人」という和訳にまじって、「めっちゃいい」とか「めっちゃかっこいい」とある。それが一般的なのかわからないけれど、なかなか攻めたキャッチーであろう。

 そもそも「X」文字の跳ね上がったウイングに埋め込まれたライトはヘッドライトではなくLEDポジションランプだという不思議。切れ上った目のイメージからてっきりヘッドライトかと決めつけたら裏切られた。へッドライトは下段に縦に並んでいるそれである。低い位置に埋め込む事によって、対向車や往来する人々の眩惑を避ける意味がある。とはいうものの、デザイン的なインパクト狙いが本心のような気がする。

 「ek X」は、アグレッシブな印象を強める為に、細部にもこだわりの処理が伺える。ホイールアーチには黒いシールが貼られ、サイドスポイラーも黒である。これによってホイールアーチが大きく、大径タイヤのような視覚的錯覚が得られる。車高も高く感じる。よりクロスカントリー風なイメージが強調されるのだ。そういえば車名は「ek X」だった。

 そう、改めて写真を眺めて欲しい。今でもこの顔に、違和感がありますか?

【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター

東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】こちらからどうぞ。