【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】フィンテックで地銀は生まれ変われるか?(後編) 地銀発アプリの魅力
前編では、地銀のビジネスモデルを概観するとともに、フィンテックをうまく取り入れた事例として、複数行が連携したビッグデータの活用について取り上げました。後編では、引き続き地銀がフィンテックを活用している事例をご紹介しましょう。
地銀発のフィンテックアプリ「Wallet+」
僕が個人的に面白いと思い注目しているのが、iBankマーケティングという福岡のフィンテックベンチャーが提供し、福岡銀行、親和銀行(長崎)、熊本銀行、広島銀行、沖縄銀行が対応している「Wallet+(ウォレットプラス)」というアプリです。このアプリがユニークなのは、地銀発のフィンテックアプリだという点にあります。
このアプリは、ふくおかフィナンシャルグループの子会社iBankマーケティングが企画開発し、デジタルの時代をいち早く乗り越えるためにリリースされたアプリでした。その取り組みの始まりとなる着想は2013年だと言いますから、その先見の明にはなかなか鋭いものが感じられます。
このスマートフォンアプリでできることは、個人のライフイベントに必要なお金にまつわるサービスのあれこれです。「入金」と「支払いの一元的管理」などのオーソドックスな機能に加えて、将来の夢(旅行に行く、住宅を買うなど)ごとに預金口座の開設ができたり、ローンを借りたりできる機能も備えています。また、フィンテックサービスでよく見られるロボアドバイザーを活用した資産運用ができる仕組みもあります。つまり、預金から資産運用、そしてローンまで、複数のサービスがワンストップで提供されています。
2016年夏にサービスをリリースして以来、九州地方を中心にユーザー数を増やし続けており、ダウンロード数は60万(2018年12月21日時点)、貯蓄預金残高は100億円越え(2018年末時点)、預貯金口座開設数も15万口座(2019年1月31日時点)と、公式に発表されている数字も順調に伸びているようです。
では、このアプリを通じて描かれているビッグピクチャーはどのようなものなのでしょうか? 僕なりに考えてみようと思います。 同アプリを企画開発し、iBankマーケティング代表取締役でありながら、ふくおかフィナンシャルグループ営業戦略部iBank事業室の室長も務める永吉健一氏のインタビューや同グループの出したプレスリリースを読んでみると、その本当の狙いは、「アプリ運用で取得したビッグデータの活用」にあること、そして、「地域に根ざした企業のビジネスや地域の情報の配信を媒介する“ローカルプラットフォーマー”」を目指していることが浮かび上がってきます。
銀行のシェア拡大、ユーザー自体を増やしていくこと、オンライン流入経路を確保することはもちろん、地元の中小企業、有力企業が提供するサービスにユーザーを送客したり、収集したデータを元にデジタルマーケティングへの活用をすることが期待されると思います。
このアプリでは、「お金の動きのデータ」を収集すると共に「ライフイベント」などに合わせた機能を盛り込んだことで「非金融要素のデータ」も収集できます。こうすることで、収集したデータが、地域の企業と個人を繋げて、地域の経済を活性化する好循環を生むキッカケとなりそうです。
このアプリでは全国展開を構想していて、すでに前述の5行に加えて、南都銀行(奈良)、山梨中央銀行、十六銀行(岐阜)などの各地の地銀が導入することを表明しています。
この地銀によるフィンテックサービスの事例は、九州という土地から日本全国にビジネスチャンスを拡大している好例ではないでしょうか。
地銀はフィンテックで息を吹き返す?
人口減少、高齢化などにより収益力の落ち込みが囁かれ続けている地銀ですが、地域経済の活性化や地方創生のためには、地銀の再生は不可欠な課題です。地元企業を支えて、地域経済を活性化する大事な役割を担っている地方銀行という存在は、僕たちが考える以上に重要な存在なのかもしれません。
「地銀再編」「収益の先細り」など、マイナスのニュースが多い中で、本当の意味の地域創生を考えることは、きっと簡単なことではないでしょう。しかし、新しいヒト、モノ、カネの流れを生み出す場を、テクノロジーの力を用いてスマホの中に創れてしまう時代でもあります。
地銀は地域に深く根ざしていて、各地の企業と個人への地方密着型のサービスを提供してきた長い歴史があります。預金、資産運用、地場企業への融資、保険、住宅ローンなどの金融サービスはもちろんのこと、地域活動、地場復興、街おこし、街づくりという地域活動にも大きな影響を与えてきているはずです。そんな地銀が、最先端のフィンテックと交わることできっと新しい何かが生まれると僕は確信しています。
地域の企業との強い繋がり、地元の人々からの厚い信頼を長い年月をかけて積み重ねてきた地銀が、ローカルに特化したデータなどを活かすことで、様々な未来図が描ける余白は、多く残されているのではないか。僕には、そんな風に思えるのです。
【プロフィール】甲斐真一郎(かい・しんいちろう)
京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。バークレイズ証券を退職後、2015年12月に、手軽に資産運用、株式投資を楽しめるフィンテックサービス「フォリオ」を提供するオンライン証券会社「FOLIO」を設立。フィンテックの旗手として大きな注目を集めている。次世代型投資プラットフォーム・サービス「フォリオ」は、「ユーザー体験」「操作感・表示画面」に着目されており、テーマ投資という形で誰もが簡単に株式投資を楽しむことができるように設計されている。FOLIOはお金と社会にまつわる情報を発信するオウンドメディア「FOUND」も運営している。
【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】は甲斐真一郎さんがフィンテックと業界の最新事情と社会への影響を読み解く連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら
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