“本物”はどっち? 新潟県でランチパック「イタリアン」なぜか2種類販売中
山崎製パンが、新潟県民のソウルフード「イタリアン」風味のランチパックを2種類発売し、熱い戦いを繰り広げている。イタリアンはヤキソバの上にミートソースを乗せた独特の料理だが、販売する「みかづき」(新潟市)と「フレンド」(長岡市)の両社が1種類ずつ監修した。店頭では並べて陳列されており、「新潟vs長岡」の構図が浮彫りに。今回、新潟派と長岡派にそれぞれ2種類を食べ比べてもらった。その結果は-。(池田証志)
“本物”はどっちだ
「こっちが“本物”で、こっちが“偽物”ですね」。2種類のランチパックを前に、いきなり物騒な発言をしたのは、新潟生まれ新潟育ちの松尾飛鳥さん(25)。みかづきのイタリアンを食べ続けて20年余り。もちろん、「本物はみかづきだ」と固く思い込んでいる。
対するは、長岡派の遠藤敬済さん(29)。新潟市の隣町に住むが、「父親が長岡の実家に帰る度にフレンドのイタリアンを何人前も買ってきてくれた。僕の中でイタリアンといえば、フレンドです」と言い切る。新潟県で1、2位の大都市間のプライドを掛けた戦いとあって、どちらも譲れない情勢だ。
イタリアン誕生秘話
そもそも、なぜかなり特異な料理を2つの会社が別々の地域でつくり始めたのか。両社に取材したところ、意外な事実が分かった。
みかづきは明治42年、和風甘味喫茶として創業。フレンドは昭和33年、和菓子屋として設立された。その後、みかづきの先代社長とフレンドの創業社長が東京の飲食業セミナーで出合い意気投合。当時流行っていたヤキソバに感銘を受け、アイデアを出し合った。
「おめさん(あなた)は長岡でやればいい。おれは新潟でやるから」
どちらからともなくそんな話になり、昭和40年前後に相次いでメニューに入れたのが始まりだ。
モチモチ麺にミートソース。独特の食感と洋風の味付けが受け、両社はそれぞれの地域に根付いていった。いまでは、みかづきが23店舗、フレンドは9店舗を擁するファストフードチェーンに発展した。
「どちらが本家かなんて言わない。ともに歩む仲間、同志なんです」。ともに監修に携わったみかづきの小林厚志営業部長がこう言えば、フレンドの豊田雅彦社長は「意識していないわけではないけど、『お互い頑張ろう』という関係です」と返す。ネット上の論争をよそに、なんとも新潟県民らしい、おおらかな態度だ。
売れ行きも地元愛
2種類のランチパック発売を仕掛けたのは、新潟県のスーパーマーケットチェーン「原信」(長岡市)だ。「ゴールデンウイークで新潟県に戻ってくる方に食べていただきたい」と山崎製パンに持ちかけ、地域振興のために「ご当地ランチパック」を手掛けてきた同社が快諾した。
気になる売れ行きだが、原信によると、新潟市で「みかづき2対フレンド1」、長岡市で「フレンド2対みかづき1」。いずれも互いの郷土愛の強さを示す結果となった。
また、山崎製パンによると、6月1日から7月29日までに、2種類合わせて計約7万8000個を出荷。新潟市内を中心としたエリアへの出荷は、みかづき監修が56%、フレンド監修が44%。逆に、長岡市を中心としたエリアへはみかづき監修が45%、フレンド監修が55%と数字が逆転した。
同社広報・IR室は「それぞれの地域でなじみのある味が好まれる傾向にある」と分析する。
実食の結果は
さて、新潟派対長岡派の対決の行方はというと-。
まず、新潟派の松尾さんがみかづき監修に手を伸ばした。「ソースの色が明るくておいしそうに見える。本物より若干甘くて麺が細いけど、食べ慣れた味がする」と“完コピ”ぶりに感心した様子。続いてフレンド監修をほおばると、「ミートソース感がすごく分かる」と評価した。
長岡派の遠藤さんは両方を食べ比べ、「どちらもおいしいけど、フレンドの方が無難というか、可もなく不可もなくというか。みかづきは酸味があり、個性的ですね」と神妙な様子。しばらくして、「長岡はフレンド、新潟はみかづき、それぞれのおいしさがある。でも、ランチパックで『県代表はどちらか』と聞かれれば、みかづきでしょうか」と悔しそうに語った。
軍配は山パンに?
山崎製パンは昨年11月から今年3月まで、試作を重ね、店本来の味に近づける努力をしてきた。みかづき監修はトマトの酸味とタマネギの甘みが、フレンド監修はたっぷり入ったひき肉が特徴だ。
監修に携わったフレンドの豊田社長は「短期間で次々と試作品をつくり、ランチパックとして完成させていく食品製造力をすごいと思いました」と感銘を受けた様子。
みかづきの小林部長は「パンなのに、麺を入れるところがすごい。麺が口溶けするようにつくっている。やはりプロ。分かっていらっしゃる」と脱帽。その上で「新潟県のソウルフードはみかづきのイタリアンだけではない。新潟市ではみかづきの、長岡ではフレンドのイタリアン。立場や思いは一緒。ともに歩んでいきたい」と決意を語った。