寄稿

もはや気候変動、地球温暖化ではなく「気候危機」「地球過熱化」

 連日の熱中症報道、日本も“言説”を変えて対策の優先度アップを

 □WWFジャパン専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西雅子

 BBCが方針転換 気候変動は人間活動が原因

 気候変動が人間活動によるものかどうかについて、2000年代は多くの懐疑派が存在し、当時のメディアは国内外を問わず、「人間活動説」と「自然要因説」の両論を併記していました。メディアのバランスを重視するという特性ゆえの対応でした。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の評価報告書にも変遷がみられ、1992年に公表した最初の評価報告書では「識別可能な人為的影響が地球全体の気候に現れていることが示唆される」という程度の表現だったのに対し、2013~14年に公表された第5次評価報告書では「人間による影響が最も有力な要因であった可能性が極めて高い」となりました。

 気候変動に関する科学の進展に伴い、メディアの両論併記の姿勢が、気候変動への危機感を薄めているという指摘が強まりました。

 そうした中、BBC(英国放送協会)は2018年9月、「気候変動をいかに報道するべきか」について、同局としての編集ガイダンスをすべての記者に伝えました。それは次のようなものです※1。

 (1)人間活動による気候変動は存在する。BBCはIPCCによる最高峰の科学の知見を受け入れる。

 (2)気候変動が起きていることを受け入れたため、BBCの報道に懐疑派を入れてバランスをとる必要はない。これは「false balance(誤ったバランス)」である。

 ガイダンス策定を受けて、同局の記者は全員、1時間の気候変動報道のトレーニングコースを受講するよう指示が出たといいます。

 世界から信頼されている公共放送の1つであるBBCの方針転換は、気候変動に対する世界の認識の変化を端的に表したものと言えるでしょう。

 ガーディアン紙 気候変動の用語集を一新

 世界のメディアでは、地球温暖化に関する言葉づかいを変えようとする動きが浮上しています。英ガーディアン紙は今年5月、気候変動を報じる際に使う用語を一新すると発表しました※2。同紙のキャサリン・ヴァイナー編集長は「科学的に正確で、読者にこの重要な論点について明確に伝えるため用語集を一新する。例えば『気候変動』という言葉は、科学者たちが人類の大惨事と言っているにもかかわらず、受け身で穏やかに聞こえてしまう」と説明しています。

 一新された用語には、それぞれ理由が記されています。これまでのclimate change(気候変動)は、climate emergency(気候緊急事態)やclimate crisis(気候危機)という表現に変わります。理由は「気候変動ではもはや事態の深刻さを正確に反映していないと考えられるため」です。

 また、climate sceptics(地球温暖化懐疑派)は、climate science denier(気候科学否定派)に変えます。「オックスフォード辞典によると、懐疑派とは『真実の探求者、決定的な結論に達していない追求者』を意味する。しかし、気候変動の懐疑派の多くは、圧倒的な気候科学の知見があるにもかかわらず、気候変動が人間活動によるものであることを否定しており、気候科学否定派という表現がより正確」としています。これはBBCの方針転換とも呼応した動きです。

 言葉で社会の見方が変わる

 同紙の用語集はアルファベット順に辞書のようになっており、年に数回改訂されています。それぞれの言葉に書かれている改訂理由は、時代の変化を反映しており、とても興味深い内容です。ほかには例えば、biodiversity(生物多様性)がwildlife(野生生物)に改訂されました。理由は「生物多様性よりも野生生物と言ったほうがこの概念の中に“生き物”が含まれていることが明確になる」からだそうです。

 「気候変動」を「気候危機」と言い換えることは、問題を言い表す言説を変えることになります。言説とは「言葉によって表現されたもの」です。気候変動という事象をどのような言葉で表現するかによって、社会の中でその問題をどのような枠づけ(=見方)にするか決めることになります。

 例えば、日本で大きな問題になっている「少子化問題」を見ますと、多くの欧米先進国では、少子化対策という政策概念がなく、「家族政策」「児童政策」として実施されています※3。「少子化」と枠づけすると、日本ではどうしても女性に焦点があたる政策対応になってしまいます。このように、どのような言説を用いるかによって、社会の見方や国の政策の方向性が決まるような力を持つことになります。

 世界では多くの科学者やリーダーたちが気候変動の言説を変えてきています。国連のグテーレス事務総長は2018年9月に「気候危機」という言葉を使い、世界に対策を加速するよう訴えています。英国気象庁で気候研究の第一人者であるリチャード・ベッツ氏は「地球のエネルギーバランスが変化しているのだから、global warming(地球温暖化)ではなく、global heating(地球過熱化)のほうがより正確だ」と述べています。日本でも東大名誉教授の山本良一氏が「気候非常事態宣言」を訴えています。

 世界では、科学の進展に合わせ、現実に即した言説に変えていく動きが起きています。日本も「地球過熱化」のように言説を変えることにより、対策の優先度を上げていけるでしょうか?

 気象庁は2007年、最高気温が35℃を超える日を「猛暑日」と名付けました。従来は25℃を超える日を「夏日」、30℃を超える日を「真夏日」と呼んでいましたが、35℃を超える日が増えたため新たに「猛暑日」を設けました。近い将来、40℃を超える日が珍しくなくなったら、新たに「炎暑日」といった呼び方ができるかもしれません。

 35℃を超える猛暑日にこの原稿を書いている私にとっても、「地球過熱化」という言葉のほうが実感として近く感じられます。熱中症で亡くなる方が連日報道され、夏休みの小学校のプールも熱中症リスクのため休止になる時代です。このように「地球が過熱化している」という圧倒的な現実の前で、私たちは“地球過熱化”対策をもっと優先度を上げて実施するべきではないかと切実に思います。

 ※1 Carbon Brief

  Exclusive:BBC issues internal guidance on how to report climate change https://www.carbonbrief.org/exclusive-bbc-issues-internal-guidance-on-how-to-report-climate-change

 ※2 The Guardian

  Why the Guardian is changing the language it uses about the environment https://www.theguardian.com/environment/2019/may/17/why-the-guardian-is-changing-the-language-it-uses-about-the-environment

 ※3 増田雅暢(2008)『これでいいのか少子化対策:政策過程から見る今後の課題』ミネルヴァ書房

【プロフィル】小西雅子

 昭和女子大学特命教授。法政大博士(公共政策学)、ハーバード大修士。民放を経て、2005年から温暖化とエネルギー政策提言に従事。