雨後のタケノコのように増殖し続けるタピオカ店。どの街に進出しても行列ができることが多い。特に10~20代の女性からの支持は絶大で、「タピ活」や「タピる」という言葉も生まれている。主食がタピオカと豪語する者まで現れるほどだ。
ブームが頂点に達したかに見えるタピオカチェーンの中でも、人気ナンバー1のブランドと目されているのが、2006年に台湾第2の都市・高雄で創業した「ゴンチャ(貢茶)」だ。
ゴンチャは15年9月に日本進出を果たし、東京の原宿に1号店を出店している。周知の通り、原宿からはクレープやパンケーキといったさまざまなスイーツの流行が生まれている。アイスモンスターという台湾流の新食感かき氷デザートの人気店もある。3度目のタピオカブームをつくったと言われている、タピオカミルクティー発祥の店「春水堂」も、原宿に店舗を構えている。
実はタピオカ専門店を名乗っていない
ゴンチャは、国内に41店を展開(19年7月末時点)。タピオカ及び台湾茶の国内最大手チェーンとして急成長中である。1都3県、大阪府、愛知県、福岡県、広島県、沖縄県に店舗を有している。2020年に100店舗を目標にしている。
世界には約1400店を展開しており、世界最大規模の台湾ティーカフェ・チェーンとなっている。なお、ゴンチャは「台湾ティーカフェ」と称しており、ビジョンとして“Daily Tea Place”を掲げている。タピオカ専門店とは名乗っていない。春水堂など他の多くのタピオカ店も台湾茶スタンド、台湾カフェなどと称しているのが大半。タピオカは、中に入れるオプションの1つだ。
スターバックスコーヒーが平成の時代にコーヒーを核としたカフェ文化をつくったように、ゴンチャが令和の時代にお茶を核とした新たなカフェ文化を生み出し得るのかを探ってみた。
組み合わせは2000通り以上
ゴンチャは漢字で貢茶と書く。中国では古来、希少だった最高品質のお茶を皇帝に献上するしきたりがあった。貢ぐ茶、すなわち「貢茶」である。後世になって、お茶は大衆に愛されるようになり、世界中に広がっていった。
ゴンチャというブランド名には、中国の皇帝が愛したような上質なお茶を、カジュアルなスタイルで、日常的に顧客に味わってもらいたいという思いが込められている。
日本法人のゴンチャ ジャパン広報は、「台湾から仕入れた上質な茶葉を使用し、抽出時の湯温や抽出時間を茶葉ごとに変えて、それぞれの風味を最大限に引き出せるように、こだわりを持って提供している」と人気の秘けつについて説明する。
メインターゲットは20代後半の女性で、明るく落ち着いた雰囲気の店舗デザインを採用。顧客の自宅から勤務先・学校への動線に沿って出店している。大都市圏を中心に進出しているのが特徴だ。
顧客は来店すると、豊富なメニューから好きなドリンクを選ぶ。次に、甘さ、氷の量、3つまで選べるトッピングを決める。これらを自在に組み合わせれば、自分好みのドリンクを提供してもらえる。カスタマイズの組み合わせは2000通り以上にもなる。
ゴンチャでは、カスタマイズされた台湾茶をスペシャリストであるティー・コンシェルジュが提供する。あたかも、スペシャリティコーヒーの店で、バリスタがコーヒーをいれるのになぞらえているようだ。
ベースとなるオリジナルのお茶は、ブラックティー(紅茶/全発酵茶)、ジャスミン・グリーンティー(緑茶/不発酵茶)、ウーロンティー(青茶/半発酵茶)、阿里山ウーロンティー(同)の4種類。それぞれアイスかホットを選択できる。サイズはS、M、Lと3種類あり、Lはアイスのみが提供される。
想定利用シーンは、ブラックティーが「からだポカポカ」、ジャスミン・グリーンティーが「朝の目覚めに」、ウーロンティーが「こってりな食事に」、阿里山ウーロンティーが「リフレッシュに」。日本ではあまり見なかった、緑茶とウーロン茶と紅茶を総合的に扱う専門店というのが、大きな特徴だ。
ベースのドリンクには、泡立ちが特徴のミルクフォーム、ミルクティー、さらには果汁が入ったティーエード、ジュース、スムージーなどがある。
男性客が約3割を占める
顧客層は10~30代の女性が多いが、男性も年々増えて3割ほどを占めるまでになった。客単価は550~600円。
1番人気のメニューはブラックミルクティー。これは味わいの深い紅茶で、パール(タピオカを指す)のトッピングが最も好まれる。パールはもっちりとした食感で優しい甘さが特徴。台湾直伝のレシピで約1時間かけて丁寧に調理する。
「パール入りブラックミルクティーが広く受け入れられているのは、初めての方でも挑戦しやすく、お茶そのものの風味や味わいを楽しんでいただきやすいからではないか」とゴンチャ ジャパン広報は説明する。
季節ごとの期間限定商品も人気がある。現在は、マンゴーミルクティーと、ウーロン茶の一種である鉄観音茶をスムージーに仕上げたドリンクを、9月上旬まで販売中だ。
タピオカだけを注目しても意味がない
ゴンチャ ジャパンは、2015年3月に設立された。シブヤ経済新聞15年9月28日付「神宮前に台湾茶専門店『ゴンチャ』日本1号店」によると、韓国「ゴンチャコリア」の100%資本で、経営支援のリヴァンプに経営を委託している。ゴンチャコリアは16年に、台湾のグローバル本社を買収しているが、ゴンチャコリア株の65%は日本の投資ファンド「ユニゾン・キャピタル」が保有している(NNA ASIA、16年4月19日付「『貢茶』韓国法人、グローバル本社の買収へ」)。
ゴンチャ ジャパンの葛目良輔社長は、TSUTAYA、スターバックスコーヒージャパン、日本マクドナルドなどを経てリヴァンプに入社し、経営を任されるに至った。
ゴンチャコリアはわずか3年で300店を展開するほどの大成功を収めた。日本にも、「コーヒーは好まないがカフェは好き」あるいは「お茶を飲んでくつろぎたい」人は多いと考えて、事業展開を行っているという。
ゴンチャをはじめとする台湾茶の店を分析する際、タピオカだけにフォーカスするのはもったいない。日々の生活のリズムにお茶を取り入れ、家や職場や学校と違うサードプレースの提案をしていることが見えてくる。その意味で、スターバックスがコーヒーを通して訴えてきたことを、お茶で行っていると言えよう。
タピオカはキャッサバという芋の一種が原料で、でんぷんの塊なので小腹を満たせるのがポイント。今はタピオカの製法も進化して、食感が良くなっているだけでなく黒糖などで味が付いている。昔のように、味がほとんどない“残念な商品”からは格段に進化している。
プラスチック製カップの放置が一時社会問題となった。しかし、原宿を歩いてみるとゴミはほとんど見かけず、ずいぶんと改善されている印象だ。ゴンチャでも、レシートやカップに貼り付けするラベルに環境美化の文言を記載したり、一部店舗で周辺エリアの清掃をしたりといった活動を行っている。プラスチック以外の材料を使う案も検討中だ。
乱立するタピオカ店
タピオカ店の店舗数トップ10は次のようになっている模様だ(19年8月5日時点、筆者調べ)。
1位「ゴンチャ」(41店)、2位「パールレディ」と「ブルプル」(ともに30店)、4位「ジ・アレイ」(25店)、5位「パールレディ 茶バー」(19店)、6位「チャタイム」(17店)、7位「台湾甜商店」(15店)、8位「春水堂」(14店)、9位「CoCo都可」(ココトカ、12店)、10位「茶加匠」(11店)。ちなみに、11位は「カフェナンバー」(10店)で、この辺りは競っている。
特に17年以降、台湾から続々とブランドが上陸している。列挙すると、春水堂、ゴンチャ、ジ・アレイ(17年8月、表参道に日本1号店オープン)、チャタイム(全世界約600店。17年11月、銀座に日本1号店オープン)、ココトカ(全世界に3000店。17年2月、渋谷センター街に日本1号店オープン)。
19年にオープンしたのは、「幸福堂」(全世界に60店以上。4月25日、原宿にオープン)、「チャノン」(4月27日、原宿にオープン)、「吉龍糖」(ジロンタン、4月29日、恵比寿にオープン)、「珍煮丹」(ジェンジュダン、6月14日、渋谷・MAGNET by SHIBUYA109にオープン)、「山林艸木」(サンリンソウキ、7月31日、大阪・阪神梅田本店にオープン)などで、枚挙にいとまがない。なお、春水堂は系列のテークアウト専門「TPティー」が4店ある。
この他、米国・ロサンゼルス発祥の店もある。「アースカフェ」(13年、代官山に日本1号店をオープン。日本に6店)や、「アルフレッド・ティールーム」(17年、青山に日本1号店オープン。日本に4店)が該当する。
日本発のパールレディは03年創業。タピオカが廃れていた時代を生き抜いたタピオカとクレープの店。系列のタピオカ専門店、茶バーを合わせれば最大手となる。
ブルプルは12年、東京・亀有で創業。ブルドッグのキャラクターが特徴で、他店より100円ほど安い。系列に「灯」が2店、「台湾甜品研究所」が1店がある。台湾甜商店は、台湾出身のオーナーが17年9月に大阪・梅田で創業した店で、生タピオカを売りにしている。
茶加匠は18年2月に東京・大久保で創業し、都内に拡大中。カフェナンバーは18年2月に大阪・堀江で創業、化粧品のような容器がインスタ映えすると人気だ。
外食チェーンやコンビニでも
喫茶、ハンバーガー、ファミレス、回転寿司、焼肉などのチェーン店でもタピオカを出す店が増えている。
タピオカを扱った実績のあるチェーンは、販売終了したところを含めて、タリーズコーヒー、ドトールコーヒー、ミスタードーナツ、プロント、モスバーガー、ロッテリア、ファーストキッチン・ウェンディーズ、フレッシュネスバーガー、クアアイナ、デニーズ、ジョナサン、バーミヤン、ココス、スシロー、はま寿司、かっぱ寿司、牛角などとなっている。
コンビニでも、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニ・ストップ、ニューデイズといった大手チェーンで、タピオカ入りドリンクの販売実績がある。
このうち特に本気度を感じるのは、スシローである。スイーツに力を入れ、有名店とコラボしてパンケーキやアップルパイをヒットさせたスシローでは、初の海外コラボとして台湾の「シェアティー」と提携。7月19日から期間限定で「光るゴールデンタピオカミルクティー」を発売した。シェアティーは1992年に創業、世界18カ国に500店以上を展開し、年間1億杯が飲まれている。
このタピオカドリンクは、下からライトを当てると黄金色にタピオカが光るのが特徴。スマホのライトを使うことが推奨され、インスタ映えが強く意識されている。
原宿をはじめ全国に8店(期間限定を含む)を展開し、最長7時間待ちの人気店であるロールアイス専門店「ロールアイスクリームファクトリー」では、ネット動画“歌ってみた”で人気の歌手「96猫(クロネコ)」さんと提携。タピオカをトッピングしたロールアイス2種(ストロベリー、チョコレート)を、8月1日から販売している。デコレートされたアイスにタピオカを乗せることを提案しており、飲料に入れるのとはまた違ったインスタ映えを考案した。
こうしてみると、最近では「光るタイプ」や「乗せるタイプ」が新しく登場している。タピオカも飽和状態に入りつつあり、単純に飲料に入れるだけでは、顧客が満足感を得られなくなってきているのかもしれない。
タピオカバブルの大崩壊を乗り越えられるか
8月13日から9月16日まで、山手線の原宿駅前にある商業施設「jing」内には「東京タピオカランド」なる“タピオカの夢の国”をテーマにした期間限定のテーマパークがオープンしている。頂点に達したタピオカブームがどうなっていくのか。ゴンチャはお茶界のスターバックスとなれるのか。
格安の業務スーパーに行けば、1杯30円相当の即席タピオカが販売されている。タピオカの原価は安い。なのにタピオカスタンドは、単価500円を取れるおいしい商売。小さなスペースで開業できて資金もかからず、誰でもできそうな趣だ。そのため、粗製乱造が起こっている感がある。
ゴンチャが今後予想されるタピオカバブルの大崩壊を乗り越えて、国民的ブランドとして定着していけるのか。個人的には店内でもう少しゆっくり座れればと思うのだが、間もなく正念場を迎えるであろう同社の動向を見守りたい。(長浜淳之介)
(ITmedia)