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地縁を結び直し、老いを支え合う 東京の都営住宅が取り組み開始

 高齢化が進んでも、希望が持てる街に-。高齢化率が50%を超える都営住宅、戸山ハイツアパート(東京都新宿区)。昨年から、住民によるコミュニティー活性化の取り組みが始まった。介護予防の運動をしたり、おしゃべりをしたり…。“ご近所づきあい”の復活で、老いを支え合う新たな地縁が生まれている。(油原聡子)

カフェあうねっとでは、ネットを使った運動が毎回行われている=東京都新宿区
カフェあうねっとでは、ネットを使った運動が毎回行われている=東京都新宿区
この日は、パラリンピックの正式種目である「ボッチャ」にみんなで挑戦した=7月下旬、東京都新宿区
ネットを踏まないように移動する運動は、ゴールでのスタッフとのハイタッチも盛り上がる=東京都新宿区

 「友達が増えた」

 50センチ角のマス状のネットが床に広げられた。童謡「どんぐりころころ」に合わせて、高齢者らがマスを踏まないように移動していく。

 「上手だね」「がんばって」と声援が飛ぶ。ゴールすると、スタッフとハイタッチ。とびきりの笑みがこぼれた。

 7月下旬の土曜日。戸山ハイツ4号棟の一角で「カフェあうねっと」が開かれていた。毎週土曜日の午前中、住民が運動やおしゃべりをして過ごす。参加費は100円。主な対象は、介護保険で要支援1や2の認定を受けた人。参加者の平均年齢は80歳を超える。

 住民組織「戸山未来・あうねっと」が、新宿区の事業を受託して実施する。地域全体で高齢者を支え、要介護になるのを防ぐのが目的だ。運営には東京家政大の学生も協力する。毎週参加する女性(77)は「同じ棟に住んでいても顔を合わせることは少ない。ここに来るようになって友達も増えました」と話す。

 資源を生かして

 スタートの背景には「都会の限界集落」とも称される戸山ハイツの高齢化がある。1960年代後半から建設されたアパート群は、都立戸山公園に隣接する広々とした敷地に立つ。

 当初はファミリー層が多かったが、時代とともに高齢化が進展。新宿区の住民基本台帳によると、今年8月1日時点で、地元の戸山2丁目の高齢化率は56.3%。日本全体(28.1%)の2倍にもなった。

 東京家政大などが平成27年に行った調査では、「老人ばかり」「頼れる人がそばにいない」など、孤独や不安を訴える声が目立った。一方、「ずっと住み続けたい」と地域を愛する声も多く、29年に戸山未来・あうねっとが設立された。

 中心メンバーの1人、八幡多代子さん(65)は40年近く前、結婚を機に住み始めた。単身高齢者の増加が気がかりで、「ゆるくできるボランティア」と思って活動する。参加者もスタッフも「ご近所さん」だから、スーパーや道であいさつする人も増えた。

 「ささいな変化だけれど、街の雰囲気が明るくなったみたい」

 支え手側にも

 顔見知りが増えれば、「さりげない見守り」にもなる。矢沢正春代表(64)は「参加者も、日常生活では支え手に回れる」と指摘する。毎週会うことで、お互いの体調を気遣うように。しばらく姿が見えなければ自然と連絡を取る。「スマートフォンの使い方を教え合ったりもする。メール送信ができると、熱中症や災害のときもSOSを出せる」という。

 家電の使い方を相談されて、代わりに家族を引っ張り出すケースも。老いても誰かの役には立てるし、それは生きる充実感にもつながる。行政や制度で対応できないちょっとしたニーズを拾えるのは住民自身だ。

 矢沢代表は「戸山ハイツは助け合いの精神も色濃く残っている。住民の気持ちをうまくつなげたら、夢も希望も案外ある町を作れるんじゃないかな」と語る。自分たちが老いても、住みたい街にするのが目標だ。

 おしゃべり、あいさつ、情報交換…。そんなささいなことが暮らしを豊かにし、地域に活力をもたらしていく。