団地を見守る給水塔 観賞術を「党首」が語る

 
大阪府公社喜連団地の給水塔(地図の〔1〕)前に立つ小山祐之さん。「全国の給水塔を記録したい」と話す=大阪市平野区(南雲都撮影)

 団地の「給水塔」に魅了された男性がいる。大阪市在住の小山祐之さん(37)。塔の形は画一的ではなく、いずれも不思議な存在感を醸しているところがたまらないという。全国の給水塔を探し歩くこと11年。自らを「日本給水党」の党首と名乗り、調査した成果は図鑑にまとめた。比類なき給水塔マニアだ。

 8月下旬、大阪市平野区の大阪府営喜連(きれ)団地で小山さんと待ち合わせた。やや赤みのある塔がそびえ立ち、四角い住居棟が周りを囲んでいる。

 この日はあいにく小雨が降っていたが「曇天でも“映える”場所がいいかなと思って」と小山さん。色もさることながら、珍しいのはロータリーの中心にあるというその配置だという。

 とはいえ、頻繁に行き来する地元住民らは、だれも見向きもしない。「給水塔は生活に溶け込んでしまう存在なんです」と説明してくれた。

不思議な存在

 小山さんと給水塔の“出会い”は偶然だった。

 平成20(2008)年4月、京阪電車で大阪府寝屋川市内を通っていたとき、奇妙な建造物が目にとまった。「どこかで見たことがあるな」。記憶をたどったら、小学生の頃に大阪市鶴見区の自宅から見えた団地の給水塔と同じ形をしていた。

 実際に行ってみると、かつての大阪府警寝屋川待機宿舎の給水塔だった。多くの人が住んでいた集合住宅に残る、立ち入り禁止の塔。人影のない異質な存在が、かえって「生き物のように感じられた」という。

 小学生のときに見ていた給水塔が、すでに取り壊されてしまったことも知った。記録に残せなかったという後悔が、活動を始める原動力になった。

青空に映える

 大学で政治学を専攻していたこともあり、しゃれで名付けた愛好家団体「日本給水党」を結党し、党首に就任。休日になると給水塔の観賞旅行に出かけては、写真を撮り、ブログに掲載するようになった。

 こだわりは天気のいい瞬間に撮影することだ。天気予報や交通機関の時刻表とにらめっこしながら、最適な時間帯を選んで現地に赴く。それでも行って初めて塔自体がなくなっていることが判明することも。有名な建築物とは異なり、役目を終えると人知れず取り壊されるのも給水塔の宿命という。

 「次は『会えない』かもしれない。だからこそ、しっかりと記録しておこうという気持ちになります」

 これまで訪れた給水塔は北海道から沖縄までの約700基。昨年10月には、記録をまとめた「団地の給水塔大図鑑」(シカク出版)を出版した。

 「できるだけ多く回ろうとスケジュールをみっちり入れてしまうので、余裕がない旅ばかりしています」。それでも、今後も全国を回る予定だ。

全国に800基、新設なく

 給水塔は文字通り、水を供給する塔のことをいう。上部のタンクに水道水をためておき、重力を利用して水圧を生み出すことで、広い範囲の高い階まで水を送る。屋上に造られる貯水槽を、大きくして独立させた装置ともいえる。

 小山さんによると、団地の給水塔は全国に約800基あるとみられる。多くは昭和40~50年代(1965~1984年)に団地とともに整備された。近年はポンプの性能が向上し、水道から直接水を送れるようになったため新設されなくなり、役割を終えて立ったままのものもある。活動してきた11年間だけでも約200基が姿を消した。

 高さは30メートル前後が多く、マンションや工場に建つケースも。さまざまな形があることから、小山さんは10種類程度に分類している。

 最も一般的で全国に分布しているのが「ボックス型」。長方形の細長い箱がそそり立ち、団地名やイラストが入ることもある。関西では「とっくり型」が比較的多く、逆に関西で珍しくて関東に多いのが「円盤型」。タンクが円盤状になっている。(小泉一敏)

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 【プロフィル】小泉一敏(こいずみ・かずとし)

 大阪府枚方市を中心とした北河内を担当。京阪交野線に乗車している際に給水塔を見たことで興味をもった。目の前に立つと、生活に欠かせない施設というだけでなく、建築物としても特徴があり面白いと感じた。