【鉄道業界インサイド】銀座線誕生の裏事情…新橋駅「幻のホーム」がたった8カ月で姿を消したワケ

 
8か月間だけ使用された、当時の旧東京高速鉄道の新橋駅。今では「幻の新橋駅」や「幻のホーム」と呼ばれている(東京メトロ提供)
8か月間だけ使用された旧東京高速鉄道「新橋駅」の現在の様子。今では「幻の新橋駅」や「幻のホーム」と呼ばれている(東京メトロ提供)
旧新橋駅の駅名表示。実際に東京高速鉄道の新橋駅で使用されたもので、当時のままの状態で保存されている(東京メトロ提供)

 銀座線は元々2つの路線だった

 9月16日、地下鉄銀座線は浅草~渋谷間の運転を開始して80周年を迎えた。日本初の地下鉄として銀座線が開業したのは92年前の1927年。浅草~上野間わずか2.2kmから始まるが、その後は上野から都心に向かって徐々に線路を延ばしていき、1934年に新橋まで到達した。ただ、その先の新橋~渋谷間は少々事情が異なる。

 浅草~新橋間を建設したのは「東京地下鉄道」という私鉄、一方の新橋~渋谷間を建設したのは「東京高速鉄道」という別の私鉄であった。銀座線は元々、2つの路線だったのだ。

 東京高速鉄道は1938年11月から翌年1月にかけて新橋~渋谷間を開業するが、新橋駅で両社の線路がつながる1939年9月までは、浅草~新橋間と新橋~渋谷間はそれぞれ折返し運転を行っていた。ようやく線路がつながって、現在と同じ浅草から渋谷までの直通運転が始まったのが、1939年9月16日であった。

 直通運転が始まるまでの8カ月間は2つの新橋駅が存在していた。そのうち旧東京地下鉄道の新橋駅は、今も銀座線渋谷方面行きのホームとして使われている(ちなみに浅草方面行きのホームは1980年代に増設されたもの)。一方、旧東京高速鉄道の新橋駅は直通運転開始以降使われなくなり、今では「幻の新橋駅」や「幻のホーム」と呼ばれている。

 幻のホームの様々な「伝説」

 ただしこのホーム、利用者からは見えないだけで、倉庫や控室、電車の留置線など、業務用スペースとしては今も現役で使われている。過去にはイベントで一般公開されたり、テレビや雑誌でも取り上げられたこともあるので、存在を知っていた人もいるだろう。現在は新橋駅リニューアル工事の資材ヤードとして使用されており非公開だが、工事完了後は常時見学できるようにする構想もあるようだ。

 わずか8カ月で表舞台から姿を消した幻のホームには様々な「伝説」がある。「地下鉄の父」と呼ばれた早川徳次氏が率いる東京地下鉄道は、後の東急グループを創業した五島慶太氏が率いる東京高速鉄道と、地下鉄の主導権争いで激しく対立していたことから、幻のホームは東京高速鉄道が新橋駅乗り入れを妨害されたために仕方なく建設されたものだと語られることもあるが、これは俗説である。

 両社が新橋駅での直通運転をめぐって対立し、その結果、設計と着工が遅れたため直通運転の開始が8カ月遅れたのは事実であるが、直通運転の実施は新橋~渋谷間が開業するはるか前に合意済みであった。

 支線は「丸ノ内線」に

 では幻のホームは、何のために用意されていたのだろうか。実は東京高速鉄道は、新橋~渋谷間から分岐して、赤坂見附~新宿間をむすぶ支線の建設を計画していた。

 現在、銀座線と丸ノ内線が向かい合って発着する赤坂見附駅は、元々は渋谷方面と新宿方面の分岐駅として設計されたもので、開業時から上下2段の構造になっていた。同様に新橋駅のホームも、支線の開業後に一部の列車を折り返すために用意されたものであった。これを直通運転開始まで暫定的に利用していたのである。

 しかし、1941年に東京地下鉄道と東京高速鉄道は帝都高速度交通営団(営団地下鉄、現在の東京メトロ)に統合され、2路線は名実ともに一体化して、現在の「銀座線」が形成された。新宿方面の支線は「丸ノ内線」として独立することになり、赤坂見附駅の反対側のホームは丸ノ内線に転用、新橋駅の折返しホームは役目を失ってしまったのだ。

 ちなみに「銀座線」という路線名は直通運転の開始から14年後、1953年12月になって命名されたものである。というのも、営団地下鉄の設立で地下鉄は1路線になり、利用者が区別する必要がなくなったからだ(都市計画上、区別する必要がある時は「3号線」と呼称された)。

 ところが、1954年1月に2番目の地下鉄として「丸ノ内線」が開業することになり、改めて路線名が付けられたというわけだ。

【プロフィール】枝久保達也(えだくぼ・たつや)

鉄道ライター
都市交通史研究家

1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。

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