趣味・レジャー

プレ金の成功例? 岐阜の神社で5000人の行列ができている

 毎月最終金曜日、神社やお寺に約5000人が詰めかける--。岐阜市で見られるようになった光景だ。

 月末の金曜といえば、早帰りと個人消費喚起を促す「プレミアムフライデー」があるが、岐阜には地域独自の取り組みがある。それは「プレミアム金(こがね)デー」と呼ばれている。

 岐阜の“プレ金”はどのような日なのか。岐阜市とその周辺にある神社やお寺、約10カ所で「金の御朱印」がもらえる日だという。2017年5月にこの取り組みが始まると、御朱印を集める人たちだけでなく、“金運アップ”を願う人たちの心をつかんでいき、今では毎月たくさんの人が御朱印待ちの列をつくる。

 なぜ「金の御朱印」に地域で取り組んでいるのだろうか。プレミアム金デー当日、開催地の一つである、岐阜市内の「金(こがね)神社」に向かった。

 最長5時間待ち 月1回の「金の御朱印」を始めたきっかけ

 8月30日金曜日。この日は朝から雨が降っていたが、次々と神社の敷地内に車が入ってくる。社務所の窓口を起点として、朝から行列ができていた。社務所の中では、金色の文字で神社名を書いたり、はんこを押したり、出来上がった御朱印を整理番号順に渡したりと、手分けして作業が進められている。

 「今日は雨が強くなる予報なので、(行列は)いつもの半分くらいですね」。そう話すのは、岐阜市でイベント企画などを手掛けるまちづくり団体「ひとひとの会」代表の佐藤徳昭さん。同団体がこの取り組みの仕掛け人だ。

 なぜ、この取り組みでは“金色”にスポットを当てているのか。それは、岐阜には「黄金」にまつわる場所が多いからだ。

 JR岐阜駅前の広場には、「岐阜」を命名し、本拠地としていた織田信長の黄金の像がある。また、“金”という名を持つ金神社には、黄金に塗られた大鳥居がある。そして、頂上に岐阜城が建つ「金華山」には、毎年5月ごろに黄色の花が咲くツブラジイの木が多く、“黄金に輝く山”として、その名前の由来になったという。

 こういったことに着目したひとひとの会が、岐阜の「黄金」を巡る観光ツアーを企画。その一環として、金神社に「金の御朱印を書いてほしい」と話を持ち掛けたのが始まりだ。ツアーで提供した金の御朱印がSNSで話題になり、問い合わせが殺到。ツアーの後も、続けて取り組んでいくことになった。

 ただ、常に金の御朱印を提供するわけでなく、“プレミア感”を出すために月1回限定に。17年2月に政府の呼びかけで始まったプレミアムフライデーにちなんで、「プレミアム金デー」と命名した。

 当初はSNSなどで告知し、「1日100人ぐらいが来ていた」(佐藤さん)。月を追うごとにその人数は増えていき、金神社は対応するための分業体制や整理番号制を構築。受け入れる体制が整ったころに新聞やテレビに取り上げられ、一気に注目を浴びた。「新聞に載った後は県外から来る人も増えて、(1日)700~800人に。テレビで取り上げられた後は、1500~2000人が大行列をつくり、5時間待ちになりました」(同)。平日の昼とは思えないような盛況ぶりだったという。

 佐藤さんらは岐阜信長神社(岐阜市)など他の神社や寺にも声をかけ、規模の拡大を目指した。金神社で参拝者が急増したことから、「やりたい」という声も上がるようになり、取り組みは広がっている。19年7月には、8カ所で計5300枚の金の御朱印を提供。8月には授与場所が10カ所に増えた。9月はさらに1カ所増え、11カ所になる。

 1300年前の「国宝」をデザインした御朱印

 「実際に神社やお寺に足を運んでみると、重要文化財があったり、珍しい仏像があったりと、とても魅力があることに気付きます。地域に根付く神社やお寺の歴史を知って、拝んで帰る。現在はそういった習慣も少なくなってしまいましたが、それが本来の醍醐味なのでは」と佐藤さんは話す。金の御朱印が、地域を知ってもらうきっかけになるという。

 8月から取り組みに参加した、岐阜市の護国之寺(ごこくしじ)も、隠れた魅力を持ったお寺だ。岐阜市内唯一の国宝「金銅獅子唐草文鉢」を所蔵している。1300年前、奈良時代に作られた「こがねのお鉢」だ。

 護国之寺の副住職夫妻、廣瀬良倫さんと有香さんは「岐阜をもっと盛り上げたいと思い、(金の御朱印に)賛同しました」と口をそろえる。これまで積極的に国宝を宣伝してこなかったことから「最初は断った」というが、地域活性化につながること、そして国宝にちなんだ金の御朱印は他になかったことから、参加を決めた。

 御朱印は、授与する神社や寺によって個性が表れる。護国之寺では、国宝のお鉢をあしらった金の御朱印を考案。有香さんが「お鉢の写真を模写してデザインした」という。お鉢は文様に大きな特徴がある。獅子、唐草、雲などが非常に細かく刻まれており、これをデザインした御朱印は、目を凝らして見入ってしまうほどの美しさだ。

 7月にプレ開催として試行したところ、参拝者から「岐阜に国宝がある寺があるなんて知らなかった」「(お鉢と縁のある)奈良から来た」などという声があったという。良倫さんは「全国の人、そして地元の人にも、岐阜の隠れた魅力を知ってもらうきっかけになれば」と期待を寄せる。

 「宿泊を伴う観光」につなげていく

 金の御朱印が話題になる一方で、問題も出てきた。「参拝の証として御朱印をいただく」ことが本来の楽しみ方だが、“収集”が目的になってしまい、ネットオークションで転売されることが増えてきたという。月1回しかもらえないという“プレミア感”もあり、高額で取引されてしまう。1枚300円でもらえる御朱印が数千円で落札されたケースもあったという。足を運んで参拝するという本来の意味をさらに発信していく必要がある。

 とはいえ、神社や寺が話題になり、人を集められるようになった効果は大きい。「参拝という習慣は、昔は当たり前のものでした。その意識が希薄になった今、愛好家だけでなく、幅広い人たちが来てくれることが刺激になっているようです。『腱鞘炎になるわ』などと言いながら、楽しそうに取り組んでくださっている姿が印象的ですね」と佐藤さんは話す。

 今後は、金の御朱印の集客力を地域経済に波及させることを目指す。「参拝に来た金曜の夜に岐阜に泊まってもらい、翌日は観光地や(金にまつわる)パワースポットを巡ってもらう。そんな形の観光を定着させられれば」(佐藤さん)。飲食店や宿泊施設などとの連携も模索している。

 御朱印の授与場所を広げて多くの人を集めるだけでなく、地域一丸となった取り組みとして、発信力を高めていく。それができれば、「金の御朱印」は観光誘客の大きな武器になっていくだろう。(ITmedia)