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日本大会の“大きな使命”、ラグビー初心者こそ大事にしたい

 まだ余韻が残っている。「ラグビーワールドカップ(ラグビーW杯)2019日本大会」1次リーグA組の日本が世界ランキング2位、アイルランドを19-12で破った試合である。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)

 産経新聞は「日本大金星」と大見出しを掲げ、BBC(英放送協会)は「衝撃の勝利」と速報。ロイター通信は「尋常ではない動揺が走った」と配信した。

 15年イングランド大会で日本が南アフリカに逆転勝利したときは「奇跡」の文字が躍ったが、今回の勝利はそれを上回る「衝撃」である。あれから確実に力をつけた日本。「一生に一度」の開催国としてのプレッシャーもある中での勝利に称賛以外の言葉はない。

 会場観戦はかなわなかったが、テレビの前に陣取り、珍しく応援の声を張り上げた。録画しDVDにも残した。恐らく日本中に私のような人がいたはずだ。ビデオリサーチによると、ロシアとの開幕戦は関東地区で平均視聴率18.3%を記録、アイルランド戦は22.5%(後半)とさらに数字を伸ばした。

 代表活躍で人気席巻

 日本代表の大活躍でラグビー人気がこの国を席巻している。9月30日、18試合を消化した時点で観客動員数は延べ63万2781人。平均約3万6000人が会場に足を運んだ。

 大会組織委員会は開幕1週間を経て、実施された12試合の観客動員数を延べ42万6236人と発表(平均約3万5520人)、好調な滑り出しに驚きの声が上がった。さらに6試合で約20万6500人が観戦。開催が土、日に当たり、先の日本対アイルランド戦や人気のオーストラリア対ウェールズ戦は4万7800人以上の動員があった。

 注目したいのは全12開催都市16会場に設けられたファンゾーンである。各都市の中心部のホールなどに大型ビジョンを設置し試合を生中継。ご当地グルメや出場国の名物料理を味わうコーナーが設けられた。開催都市と周辺地域、スポンサー企業や出場国の大使館なども出展する情報発信の場は入場無料。応援タレントによるイベントなども行われ、集客とともにラグビーファン同士の国を超えた交流の場ともなっている。

 ファンゾーンはラグビーに親しんでもらうべく11年ニュージーランド大会から始まり、前回イングランド大会では約100万人が来場した。組織委によると、今大会では1週間で既に約27万人が来場。11月2日までの期間中、前大会を上回る来場を期待している。

 ファン層拡大が使命

 試合会場を含めて来場者にはラグビーを知らない「にわかファン」が少なくない。いや、そうした人こそ大事にしたい。ラグビーの面白さ、楽しみ方を知り、ラグビーを身近に感じてほしい。ラグビー文化の浸透とともにファン層拡大こそ、日本大会の“大きな使命”であり、レガシー(遺産)となる。

 そういえば、フィジー対ウルグアイ戦を観戦した岩手県釜石市の鵜住居復興スタジアムで80代後半の老夫婦と隣り合った。秋田県横手市から来たという夫妻はかつて釜石に住んでいた。「復興した姿を目に焼き付けたい」と来場。「初めて試合を見たけど、ラグビーは面白いなあ」と話された。これからのラグビー界は経験者だけではなく、こうした人たちを大事にして初めて未来が開ける。

 この試合は復興支援への感謝と被災者への黙祷(もくとう)から始まった。随所で数多くの大漁旗が打ち振られ大きな拍手と温かい声援に包まれた試合は、釜石の復興を世界に告げる試合でもあった。しかし、地上波によるテレビ中継はなかった。嘆息が出た。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田端政治』『オリンピック略史』など多数。