変わる大阪・ミナミの“座ウラ” 「ここで味が認められればどこででも成功する」
大阪・ミナミに「座ウラ」と呼ばれるエリアがある。大阪市中央区難波4丁目の「なんば楽座」で、約200の飲食店が並ぶグルメスポットだ。近年はここにも訪日外国人客(インバウンド)が増えており、名前の由来となった新歌舞伎座の跡地には12月、「ホテルロイヤルクラシック大阪」がオープンする。新たなランドマークの登場で、座ウラはどう変わるのか。(土屋宏剛)
若者向けの店舗増
老舗の焼き鳥店の赤ちょうちんに、おしゃれなイタリア料理店の立て看板。夕暮れになると、仕事帰りの会社員らがあちこちで「乾杯」の声を響かせる。
座ウラは、新歌舞伎座の裏、という意味だ。ミナミの“顔”として親しまれた新歌舞伎座は平成21年に閉館し、現在は上本町の複合ビルに移転しているが、座ウラの名前はそのまま残った。南海難波駅前の北に位置し、御堂筋と千日前通、阪神高速の高架に囲まれた三角地帯に当たる。
かつては「難波新地」と呼ばれる花街だった。それがここ数年、昔からの居酒屋やスナックに交じって、店主の個性あふれる洋食店やバーなど、若者向けの店舗が増えてきた。難波駅東側の「ウラなんば」に続くグルメスポットとして定着している。
「やき鳥ササキ」を営む佐々木進さん(71)は、新歌舞伎座があった頃から20年以上も座ウラで商売を続けてきた。当初は「どこにでもある、普通の繁華街」だったという。
しかし、駅を中心に百貨店や銀行、大型の家電量販店などが並ぶにつれ、若者からお年寄り、サラリーマンから会社役員まで、年齢や所得層を問わず、さまざまな人が出入りする場所になった。
インバウンド人気
さらに、インバウンドが加わった。「韓国人や中国人が、日本人と同じものを『おいしい』と言って食べている。とても面白い光景です」と佐々木さん。
このエリアがグルメスポットとして定着した理由について「国内外のいろいろな人がおいしい料理を求めてここに来る。界隈で競い合ううちに、食のレベルが上がったのでは」と話す。
「ここで味が認められれば、どこででも成功する。ある意味、座ウラでの商売は挑戦だと思っています」
長屋のような建物の一角で28年12月からすし店「松寿し」を営む近藤晋太朗さん(39)はこう話す。
近藤さんが座ウラに店を構えたのは「年長者だけでなく、20代でも気軽に来てくれるから」。自身もSNS(会員制交流サイト)などを通してイチ押しのネタを発信し、年下の常連客から「スシニィ」の愛称で親しまれている。「本格的な握りずしの魅力を、若い人にも知ってほしかった」と語る。
座ウラの飲食店主らでつくる「南新会」の関係者によると、居酒屋やスナックを営んでいた人たちが引退した後の空きテナントに、豊かな客層に着目した若い店主が入ってくるようになった。こうして老舗とともに個性が光る飲食店が混在し、座ウラの魅力がさらに高まるといった好循環を生んでいるという。
12月にホテル開業
そして12月、新歌舞伎座の跡地に、元々の建物の意匠を継承した「ホテルロイヤルクラシック大阪」が開業する。座ウラを訪れるインバウンドの拠点となることが期待されており、「座ウラマップ」を作製して外国人に対応した店舗を紹介するなど、エリアの魅力を発信していくという。
総支配人を務める宇佐美勝也さん(61)は「海外と座ウラをつなぐのが、私たちの役割だと思っています」と話す。
自身も座ウラでスナックを営む南新会の西村タミ子会長(73)は「ホテルの開業で座ウラが『ホテルウラ』になっても、国内外の人に愛される場所になるよう盛り上げていきたい」と意気込んでいる。
ミナミの顔継承
ホテルロイヤルクラシック大阪は、東京五輪・パラリンピックの主舞台となる新国立競技場を設計した建築家、隈研吾氏がデザイン。地上20階建ての低層部は、新歌舞伎座の意匠を継承して、丸みを帯びた唐破風(からはふ)が連続する華やかな外観となっている。
客室数はスイート9室を含む150室で、342人が宿泊可能。収容規模の異なる宴会場や結婚式場、会議室などを12室用意し、レストランやカフェ、エステサロンも併設される。
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【プロフィル】土屋宏剛(つちや・ひろき)
平成26年入社。和歌山支局や神戸総局などを経て、大阪社会部で大阪市内の街だねや事件事故などを幅広く取材。座ウラは本社から近いこともあり、最近は美食を求めて徘徊中。そのディープな魅力に取りつかれつつある。
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