【ローカリゼーションマップ】「嫌い」を「好き」にするマッピングとは 壁は案外高くない

 
※画像はイメージです(Getty Images)

 好きなことを見つけろ。好きなことにまい進しろ。耳にタコができるほどに聞き慣れた言葉だ。これを実現したとき、人は幸せになれる…とそう語られるから、好きなことを見つけられない、好きなことにまい進できない人は、二流の人生を送っているような気になる(人生に一流も二流もあるわけないが)。

 好きなことは、どこか遠くのどこかからやってくるか、自分の内から自然に湧いてくると思っていて、周囲にあるものを自分の手でつかみ取るとは想像していない。だから、これは時間や運の問題だと思い込んでいる。

 あるいは、好きなことを見つけることができないのは、そういう環境をつくるための条件設定に甘いからではないかとも反省しがちだ。

 「夢中になるものをみつけろ!」と言われても、なかなか夢中になれない。自分の気質に問題があるのではないかと疑いかねない。

 さて、最近、ぼくがよく考えていることがある。

 人生とは、嫌いなもの、または苦手なものが好きになるプロセスではないか、と。

 人は常に何らかの前進をして生きている。ある人やコトと縁があり、そこでビジョンなりが生まれ、前に進めるにあたり、それまで嫌いと思っていたこと、苦手だと感じていたことを乗り越えていく。

 「乗り越えていく」というと、努力とか精神力が要求されると思うかもしれない。だが、嫌いとか苦手意識というのは、実はたいしたことではなく、先入観や偏見で「自分は嫌いだ」と思い込んでいたに過ぎないことも多い。

 ちょっとしたきっかけさえあれば、オセロゲームのように状況が変わる。

 実は、ぼく自身の人生がそうではないかと気づいたのである。

 ぼくはイタリアに住む前、イタリアが嫌いだった。情熱の国とか暑苦しいったらありゃしない。

 大学はフランス文学科に在籍し、自動車会社に入ったら英国の会社などと付き合っていたので、イタリアには縁がなかった。喧しい人たちが住んでいる土地は、かなわないと距離をおいていた。

 だが、ぼくが「この人のもとでビジネスプランナーとして修業したい!」と思った人は、日本でも英国でもなく、イタリアのトリノに住んでいた。

 イタリアが苦手だとか言っている場合ではなかった。そんなのどうでもよいことだ。自分が尊敬できる人につくのが一番だ。こうして会社をやめてトリノに住み始めた。

 トリノはバロック建築の都市で、イタリアの他の多くの都市と違い、碁盤の目に都市計画がなされ、建物は装飾的な表情に満ちていた。

 都市の作り方に隙がなく、材料も表現も、ぼくの方にのしかかってくる。馴れない街で、これがぼくには、重かった。

 しかし、半年ほど住んでいるうちに、バロック様式とは内面がいや応なしに湧き出てきたものではないか、とある日、バールでビールを飲みながら街を眺めていて気づいた。決してバロック様式を説明した本を読んだわけではない。

 自分なりの「分かり方」を獲得したのだった。その時から、イタリアの国や文化と自分の間が縮まったとぼくは思えるようになり、イタリア文化を好きになっていった。そして、今やイタリア文化やビジネスについて語る立場にさえなっている。

 このイタリアを筆頭に、嫌いだったものが好きになってきた例は沢山ある。

 生理的にどうにもダメというのは別にして、好き嫌いなんて、そう深刻なことではないのかもしれない。だからといって、嫌いなままだけで、嫌いなことと長くは付き合えない。

 ただ、嫌いを好きにする壁はそう高くない。つまらない狭い見方で自分を閉じ込めているのを解放する。それだけだ。

 逆にいえば、好きが嫌いになるのもあっという間だ。だから好き嫌いを上手く手なずけ、多くの好きをつくっていくのが大事なのである。

 それには、自分の嫌いをマッピングしていくのが役に立つ。嫌いには、ある共通項があり、その理由を突き詰めていく。そして、その理由は些細なことであり、それよりも優先順位の高いことを見いだせば、些細なことは簡単に吹き飛んでしまう。

 そしてやっているうちに、嫌いだと思っていたことが、「ああ、そういえば、嫌いだったのだ!」と時を経て思い出す。しかも、まったくニュートラルに思っていたことよりも、よほど感情移入がしやすい。

 人生なんて現金なものである。

【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)

モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター

ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。