【教育、もうやめませんか】質問「小学生の我が子を将来貴校に預けるために何をさせておけばよいですか」

 

 「現在小学生の子供がいます。将来我が子をManaiに預けるために今何をさせておけばよいですか」

 本年9月に開校したManai Institute of Science and Technology(=Manai〈マナイ〉)。高校生を対象としたサイエンス&テクノロジーを学ぶ研究所だ。教師からの一方通行のレクチャー、必修授業、テストや統一された時間割がなく、生徒は自らのプロジェクトを運営し、自らの興味と没頭を通して最大限学ぶ。そんなできたばかりのManaiに寄せられる問い合わせでもっとも多いのが冒頭のこの質問だ。

 「この勉強をしておいてほしい」だったり、ましてや「こういう教室に通っておいてほしい」「こういう小学校・中学校に行っておいてほしい」というのは全くない。何かを具体的にしておいて欲しいというより、とある考え方の習慣を持って欲しいというものがある。

 「人と違うことをしよう」だ。「いかに周囲の人と違うことを考られるか、いかに周囲がとる行動と違う行動をとることができるか」これに尽きる。

ヘンテコを継続する勇気

 奇をてらい自分の信条に反して、人が考えなそうなことを探すということではない。人がやらないからという理由だけで、わざわざ弁当を3本の箸で食べる必要はない。そうではなく、3本の箸で弁当を食べる自分なりの理由がもともとあるなら、それが周囲からみて”ヘンテコ”なことでもやり続けて欲しい。

 「人と違うことをしよう」というのは、自分が考えたこと、やることがどんなに変わっていても、そう、周囲から見てぶっ飛んでいたとしてもそれを隠さず、殺さず大事にする習慣を持って欲しいということだ。

悪気のない同質化で失われる競争力

 将来幸せに生きるために、現在の小・中学生、高校生が時間と労力を注いでいることが、それをやればやるほど幸せにならない方向に向かっているように見えることが多々ある。自分自身でわざわざ袋小路に入っていっているようにも見えて仕方がない。例えば、本人も親も皆悪気はまったくなく、子供の将来の幸せを思って進学塾に行き(行かせ)、有名中学・高校に行き(行かせる)。その努力をすればするほど、周囲と同質で近い物差しの中で生きる普通の人間が生産され、世界の競争の中で存在感を出せなくなるということが起きている。

 就職活動中の大学生から「就活のコツ教えてください」と大雑把な質問をもらうことがある。「他の人と違うことをすべき」とだけ答えてあとは本人に考えてもらっている。よくエントリーシートや自己紹介文を見るよう言われ読むが、自分と同じ環境で育ち、同じような学歴を持ち、同じような正論を書く人が自分以外に数百人、数千人いるという意識があまりに欠落している学生が多い。「これと同じことを1000人くらいの人書いてるよね、きっと」と指摘されるまで気づかない。皆が言いそうなことを敢えて探しているのかとすら思う。これからの〇〇業界にしろ、自己PRにしろ「皆が言う正しいこと」の価値はあまりない。

 これから求められる人、活躍する人、いやもっと言えば幸せに生きていける人というのは、自分の人生を自分で決められる人だと信じている。悲しい現実ではあるが、自分の人生を自分で決められるのは一部の人間であり、他の人と代わりが効かない人に限られる。他の人にはできないことができる、他の人が考えないことを考えられる、この力を身に着けるのが幸せになる方法だと思っている。「人と違うことをする」、正確には「人と違っても恐れない」、これこそManaiが、Manaiへの参加を希望する生徒に求めることだ。

(Getty Images)

「人と違うこと」を実践する身近な方法

 小・中学生にとって「人と違うこと」をやるというのは、国語・算数・理科・社会の勉強をそこそこに切り上げ、自分の興味対象である分野にとことん注力するというような大きな行動に限らない。周囲と意見が合わない時に自分の意見を表明したり、自分の習慣が周囲から見るとヘンテコなものだろうとそれを変えずにいたり、そんな小さなことで構わない。「自分はこうだから」と思えることこそが、不要な同質化を避ける確かな方法だ。

 ではどうすれば「人と違うこと」ができるのか。どうすれば人と違っていても恐れず「私はこうだから、いいの」という態度でいられるのか。もちろん、周囲との関係性もあり同質化を避ける労力が大きいことは理解できる。しかし、明日からすぐにできる大事なことがある。

 他人のぶっ飛んだ考え方を尊重するということだ。自分のぶっ飛んだ考え方を殺さずに持ち続けるために、実はそれこそが大事なことだ。周囲の多様性を尊重できなくては、自分の中に生まれた多様性を守ることはできない。

 まずは手始めに周囲の“ヘンテコさん”を嘲笑するでもなく遠ざけるでもなく否定するでもなく、尊敬することから始めてみてはいかがだろうか。「あいつヘンだよね、ちょっと痛いよね」ではなく、「あいつヘンだよね、そう、だからすごいよね」と自然と思えることがまずは出発点だ。

 Manaiでは、小・中学生向けのプログラムとして「Manai Junior」を開始します。「もっとサイエンスに詳しくなりたい」「研究に没頭したい」「研究を手伝ってくれる人が欲しい」そういう生徒を求めています。

【プロフィール】野村竜一(のむら・りゅういち)

エデュケーションデザイナー
Manai Institute of Science and Technology代表

1976年東京都生まれ。東京大学卒。NHK、USEN、アクセンチュアを経て「旧態依然とした教育が人の学びを阻害している。学びをアップデートさせたい」との思いから起業。サイエンスに特化したインターナショナルスクール「Manai Institute of Science and Technology」を開校した。「サイエンスを武器に世界中で夢をカタチにし、課題を解決できる」人物の輩出を目指す。論理的思考力養成の学習教室「ロジム」も経営。

教育、もうやめませんか】は、サイエンスに特化したインターナショナルスクールの代表であり、経営コンサルタントの経歴をもつ野村竜一さんが、自身の理想の学校づくりや学習塾経営を通して培った経験を紹介し、新しい学びの形を提案する連載コラムです。毎月第2木曜日掲載。

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