寒さ吹き飛ぶ東北の味 囲んで楽しむ芋煮
次第に肌寒くなるこの時期、ほっくりとして、ねっとり、じんわりほどけていくサトイモでつくる「芋煮」は体を芯から温めてくれる。仲間同士で芋煮の鍋を囲む「芋煮会」は、東北南部を中心におなじみの光景だ。わいわいと集まれば楽しさも相まって、寒さも吹き飛びそうだ。(小林佳恵)
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◆地域振興に手応え
山形県産の旬の食材を味わうことができる和食店「赤坂あじさい」(東京都港区)では、しょうゆ味のつゆに牛肉やサトイモ、ゴボウ、季節のキノコなどを煮込んだ芋煮を出している。同県出身で店主の佐藤弘治さん(59)は「牛肉やゴボウのうま味が染みたサトイモを味わっていただきたい」と笑顔で話す。
おもに東北南部で、郷土料理として愛されている芋煮。秋になると、親族や友人をはじめ、地域のコミュニティーや部活動といったさまざまなグループが河川敷などに集まり、芋煮の鍋を囲む芋煮会も頻繁に行われる。
なかでも、山形市の馬見ケ崎河川敷で毎年9月に行われる「日本一の芋煮会フェスティバル」は、直径6・5メートルの大鍋と大型重機で調理する大規模なイベントだ。県の活性化などを目指して山形商工会議所青年部が発案し、平成元年から続いている。
今年の実行委員長を務めた佐藤卓弥さん(45)は「最近は海外からの来場者も増え、地域振興の手応えを感じている。何より、来場者の笑顔を見るのがやりがいだ」と語る。
◆共通点はサトイモ
芋煮会の魅力を全国に伝える活動をしている「全日本芋煮会同好会」の調査によると、ベースとなる味付けにはしょうゆやみそを使用することが多く、中には塩もあるという。さらに具材の肉にも牛肉や豚肉、馬肉といった違いがあるほか、豆腐や大根を入れたりするなど、そのバリエーションは家庭や地域によって豊か。共通点はサトイモを使用することだ。
こうした違いはツイッター上でも注目され、ちょっとした“論争”となることも。
東北地方出身のユーザーを中心に毎年、「#芋煮戦争」というハッシュタグで、芋煮を愛する気持ちを語ったり、どの味付けが本流かを争ったりする議論が白熱する。
同会代表で山形県出身の会社員、黒沼篤さん(49)は「#芋煮戦争」の議論について、「最終的にはお互いの違いを認め合い、尊重し合う気持ちがあるからこそではないか」と推し量る。
黒沼さんが同会を設立したのは平成24年。東日本大震災の復興支援に携わる中で、住民同士が一緒に取り組むことができる芋煮会が、地域のコミュニティーづくりに有効だと気づいたことがきっかけだという。だからこそ、同会が大切にしているのは「みんなで持ち寄って一緒に作り、シェアする」こと。黒沼さんは「芋煮会を全国に広めて、日本を元気にしたい」と力を込めた。
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