もし災害にあったら…口腔ケア 大さじ2杯の水で命守る

 
災害時、節水しながら口腔ケア

 東日本で河川堤防が次々と決壊し、広い範囲に浸水被害をもたらした台風19号。断水や避難生活で水が十分に使えない状況では、健康の悪化も懸念される。そんななかで、後回しになりがちなのが、歯磨きなどの口腔ケアだ。「口のケアどころではない」と思われそうだが、過去の災害を見ると、口内環境の悪化から関連死を招いた可能性もあるという。災害時に健康を守るためのケアの方法を専門家に聞いた。(津川綾子)

 「災害時の口腔ケアは命を守るための総合的なケアの1つ。なのに、断水で水不足になると、水は貴重と考えて、歯磨きなどの口のケアは後回しにされることがある」

 こう話すのは「ときわ病院」(兵庫県三木市)の歯科口腔外科部長、足立了平医師だ。

 足立医師は阪神・淡路大震災(平成7年)を経験後、数々の被災地で、被災者の口腔ケアにあたってきた。東日本大震災(23年)の発生から約1カ月後、足立医師が岩手県の被災地を訪ねると、「夜暗くて怖いから口の手入れはしない」と話す人がいたり、被災後、歯を一度も磨いていない高齢者もいたという。

 口内細菌が増加

 なぜ、災害発生後の口腔ケアが大切なのか。実は、災害関連死の死因で上位となる「肺炎」を引き起こす要因の1つに、「口内細菌の増加」があるからだ。

 「歯を磨かないままだと、口に残った食べかすを餌に細菌が繁殖。洗わないままの口内には糞(ふん)便と同じくらいの細菌がいるとも言われ、菌の塊が誤嚥(ごえん)により少しずつ気管から肺に入ると、肺炎になることがある」(足立医師)という。

 災害後は特に、タンパク質の不足からくる低栄養や、運動不足も加わって免疫力が低下。肺炎になるリスクが高まるという。

 つまり、口内を清潔に保つことが、命を守ることにつながる。

 ティッシュでも

 では非常時で水が不足したり、十分にあっても周囲への遠慮から使いづらいという場合、どのように口内のケアを工夫すればいいのか。

 足立医師がまず勧めるのは、コップに大さじ2杯程度の水に歯ブラシを浸してから歯を磨いたら、ブラシの汚れをティッシュで拭い、また磨く…。これを繰り返して、最後にコップの水を数度に分けて口に含む-という節水型の歯磨き法だ。歯ブラシが使えない場合は、布やティッシュを指に巻き、歯の表面の汚れを拭うという方法もある。

 また、口内の乾燥は細菌の繁殖を招く。特に災害発生後は脱水に加えて、ストレスが高まり唾液の分泌量が減ってしまうことがある。細菌の繁殖を抑えるためには、唾液の分泌を促すマッサージ、こまめな水分補給やうがいも心がけるといいという。

 洗口液や液体ハミガキの使用も口内にそれらの薬効がとどまり、口内の細菌を減らす効果があるという。

 「口のケアを怠ると、歯周病が悪化することも。歯周病は糖尿病の血糖コントロールを悪化させることでも知られる。いつも通りに薬を入手できるかも分からない災害時、口内ケアを行い、清潔に保つことを心にとどめてもらえれば」と、足立医師は話している。