【がん電話相談から】Q:自家移植後、多発性骨髄腫が再発 今後どうすれば?

 
がん研有明病院血液腫瘍科部長 照井康仁医師

 ■効く薬を次々に変え粘り強く治療続けて

 Q 60代の女性です。以前から「白血球などが少ない」と指摘されていましたが、下肢に痛み、鎖骨に、はれがあり、平成28年に総合病院を受診しました。血液腫瘍内科で精密検査の結果、多発性骨髄腫と診断され、造血幹細胞移植(自家移植)を前提にVRD療法(ベルケイド、レブラミド、レナデックス)の投与を受けました。29年に自家移植を実施し、寛解(かんかい)しましたが、今年6月の血液検査で免疫グロブリンの「IgG」の値が上昇し、再発が判明しました。次の薬、ダラザレックスの投与がスタートしましたが、今後を考えると不安が続きます。

 A 自家移植を受けたのですね。これは骨髄腫細胞を大量の抗がん薬で死滅させた後、用意しておいた自分の造血幹細胞を移植し、正常な造血機能を戻す方法です。移植後、しばらくは寛解した状態が続いたのに、再発とは心配ですね。最近の検査ではヘモグロビン、血小板、白血球などの数値はいかがですか。

 Q 残念ながらヘモグロビンなどの数値は低めで推移しています。こうしたことは薬の影響なのでしょうか。

 A そうですね。薬の副作用の可能性があります。副作用によって白血球などの血液細胞を正常につくれなくなることを骨髄抑制と呼びます。ただし、いったん薬をやめないとはっきりしたことは言えません。ダラザレックスは抗体薬の種類に入りますが、一度これを中止する選択肢もあります。また、状態を把握するために、骨髄検査があります。これは骨の中にある骨髄組織を採取して検査する方法です。

 Q はい、骨髄検査は最近受けました。検査結果では、正常な細胞よりも骨髄腫細胞が多く含まれていました。どの検査からもいい結果が出てきません。今後の治療はどうしたらいいのでしょうか。

 A 多発性骨髄腫の再発後は、薬による治療が基本となります。最初のVRD療法に含まれた分子標的薬のベルケイドと同じプロテアソーム阻害剤には、カイプロリスやニンラーロという薬があります。これらはプロテアソームという細胞内タンパク質の分解装置を阻害することで、骨髄腫細胞の増殖抑制が期待される薬です。

 Q 標準治療はあるのですか。

 A 保険適用の薬を使うという標準治療はありますが、多発性骨髄腫の場合は患者さんの状態を見ながら、効果的な薬を次々に変えていくという方法が一般的にとられています。

 Q 分かりました。治療の過程で注意すべきことはありますか。

 A 感染症に注意することが一番です。白血球減少によって免疫力が低下して肺炎や敗血症にかかることがあります。予防には日常生活で手洗いとうがいの励行が挙げられます。多発性骨髄腫では新しい治療薬が次々に出てきていますので、治療は長期に及ぶかもしれませんが、粘り強く治療を続けることが大切です。(構成 大家俊夫)

 回答には、がん研有明病院血液腫瘍科部長の照井康仁医師が当たりました。専門医やカウンセラーによる「がん電話相談」(協力・がん研究会、アフラック、産経新聞社)は月~木曜日(祝日は除く)午前11時~午後3時に受け付けます(03・5531・0110、無料)。個人情報を厳守します。相談内容が本欄やデジタル版に匿名で掲載されることがあります。

 《ミニ解説》

 ■初期症状に貧血、息切れ、倦怠感など

 多発性骨髄腫は血液がんの一種。血液をつくる工場である骨髄の中で、形質細胞という細胞が、がん化(骨髄腫細胞)し、Mタンパクが増加する病気だ。初期には貧血や息切れ、倦怠(けんたい)感、腰痛、食欲不振などの症状が出てくるが、それが多発性骨髄腫によるものかどうかの見極めは、簡単ではない。

 今回の相談者も下肢の痛みなどの自覚症状があって病院で検査を受け、初めて診断がついた。

 いったん発症すると、体のさまざまな場所の骨髄で形質細胞のがん化が起きることから「多発性」と呼ばれる。貧血などの造血機能の異常だけではなく、腎障害、高カルシウム血症、骨折などの合併症にもつながる。「ほかのがんと同様に、早期発見が何よりも大切です。初期の症状や検査所見で疑わしいと思ったら、血液腫瘍科の専門医がいる病院で検査してもらった方がいい」と照井医師は呼びかけている。