【トップバイヤーの男前研究所】トレンチコート 細部に光るこだわり 名優が着用 地位確立

 
三陽商会の「100年コート」(12万7600円)。名前には手入れをしながら、世代を超えて長く着てほしいという思いが込められている(いずれも 寺河内美奈撮影)
ボッテガマルティネーゼは、大きめのチェック柄が個性的(14万3000円)

 肌寒くなり、羽織物が欲しくなる季節ですね。秋のアウターといえば、トレンチコート。実はベルトやボタンなどの細部には、さまざまな意味があります。歴史をひもとき、その由来を知ることで、着こなしをさらに楽しむことができるでしょう。

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 ◆塹壕戦用に開発

 実はトレンチコートの「トレンチ(trench)」は塹壕(ざんごう)という意味です。塹壕とは、歩兵が銃弾や砲弾から身を守るための溝のような施設。その名の通り、第一次世界大戦中、イギリス軍が塹壕戦用に開発したのが発祥。そのため機能性が最も重視されました。その後、ハンフリー・ボガートやスティーブ・マックイーンといった名優が着用したことで、ファッションアイテムとしての地位を確立していきました。

 昔の“名残”は、今も残っています。例えば、襟元に付けられた小さなベルトは「チンストラップ」などと呼ばれ、立たせた襟を留めることができます。肩から胸に掛けて付けられた「ガンパッチ」はライフル銃を発砲したときの衝撃を吸収するためのものでした。

 肩の「ショルダーストラップ」には双眼鏡などを、また、腰のベルトにある金属製の「Dリング」にはナイフや手榴弾(しゅりゅうだん)といった必需品をぶら下げていました。

 こうしたアイテムは、現代では付属がないことも多いです。しかし、ぜひそれぞれの成り立ちに思いをはせ、ディテールにまでこだわってみてください。

 ◆体に「フィット」

 それでは、どのように着こなせばよいのでしょうか。最近はゆったりとした「ビッグシルエット」がトレンドですが、ビジネスシーンには体にフィットするものが適しています。

 定番のシルエットで人気が高いのが、三陽商会の「100年コート」。平成25年に同社の設立70周年を記念し、世代を超えて長く愛されるコートを目指して生まれました。青森県の自社工場で作っており、素材や縫製も全て日本製と、日本のものづくりにこだわっています。フロントボタンを開けなくても中に着ているズボンやジャケットのポケットに手が届く「貫通ポケット」など、本格的なディテールも備えています。

 チンストラップやショルダーストラップなどのディテールも残しつつ、ファッション性を高めたのがイタリアのブランド「ボッテガマルティネーゼ」。ビッグシルエットを取り入れ、大きめのチェック柄の生地を使うなど遊び心たっぷりで、主にプライベートで活躍しそうです。ビッグシルエットといっても大きすぎない絶妙なサイズ感。色合いも肌なじみが良く、年代を問わず着ていただけます。

(松屋銀座紳士服バイヤー 粟竹将(あわたけ・しょう))