【IT風土記】福岡発、ラグビーに熱狂する観戦客をリピーターに 翻訳データ活用でさらに魅力ある観光都市に
福岡市は、国際的なスポーツイベントや国際会議の開催をテコに、多くのインバウンド(訪日外国人)を取り込むことに成功している。その背景には、MICE(国際会議やビジネス目的の展示会・展覧会、または見本市などのイベント)戦略があり、ラグビーワールドカップ2019日本大会でも、試合を東平尾公園博多の森球技場に誘致し、多くのラグビーファンを熱狂させた。そして、ラグビーワールドカップ2019日本大会を契機に、さらに魅力ある観光都市にしようという試みが始まっている。
福岡市は、政令指定都市で5番目の人口を擁し、訪れる外国人入国者数は18年度で309万人。7年連続で過去最高を記録しており、外国人の延べ宿泊数は337万人泊と推計され、14年から17年にかけて2.8倍に拡大した。
インバウンド需要の取り込みで成果を挙げている福岡市は、18年の世界社会科学フォーラム(WSSF)や19年のG20 福岡財務大臣・中央銀行総裁会議などを開催したほか、2021年に20年ぶり2回目の世界水泳選手権の開催が決定しているなど、“スポーツMICE”でも成功を収める。
福岡市経済観光文化局観光コンベンション部MICE推進課の冨田浩次課長は「経済的にインパクトのある質の高いMICEの誘致で知名度を高め、福岡市の都市ブランド力をさらに向上させたい」とし、「ラグビーワールドカップ2019日本大会では、欧州やオセアニアなどに多いラグビーファンに福岡を知ってもらう絶好の機会だ」と期待を込める。
国際イベントを舞台に外国人観光客のデータ利活用
そこで福岡市は、ラグビーワールドカップ2019日本大会に合わせて、NECのスマートフォン向け多言語音声翻訳サービスアプリ「NEC翻訳」(iOS、Android)によるデータ活用を始めた。同アプリは、日本語、英語、中国語(簡体字と繁体字)、韓国語、タイ語、ベトナム語、ミャンマー語、インドネシア語、フランス語、スペイン語の11言語に対応。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した観光会話向けの高精度翻訳エンジンを活用しており、日本語翻訳の正確さが強みだ。そのアプリを、外国人観戦客にインストールしてもらい、試合会場や駅周辺、観光名所などでの利用状況をビッグデータとして蓄積することで、自治体の観光戦略に役立てることが狙いだ。
そのため、ラグビーワールドカップ2019日本大会で福岡を訪れる観光客のニーズに応える態勢も整えている。欧米の観光客が好む博多旧市街エリアの魅力を再発見する伝統文化コースを設け、福岡市公式シティガイドの「よかなび」やパンフレットなどで情報発信をしている施策が、その一つだ。海外でMICE誘致のプレゼンテーションなどを担当する福岡観光コンベンションビューロー専務理事で、福岡地域戦略推進協議会(FDC)観光部会副部会長の合野弘一氏は「博多旧市街地では、ナイトタイムを楽しみたい欧米の観光客のニーズに応えたい。ラグビーファンはお酒も強いので、福岡の日本酒や食事を味わってもらい、リピーターになってもらいたい」と力を込める。
福岡市やFDCが描く観光戦略は、会議やスポーツイベントへの参加者が見込めるMICEで、福岡の良さを知ってもらい、プライベートな観光でのリピートや、口コミによる新たな観光客の取り込みを進めることだ。合野氏は「会議の参加者から、今度福岡に行きたいから、お勧めの飲食店を紹介してほしいという相談も多い」と手ごたえをにじませる。
翻訳アプリ活用し、九州全域にインバウンド効果を拡散へ
NECの多言語音声翻訳アプリの活用と観光ビッグデータ分析ソリューションは、福岡市にとどまらない観光戦略や街づくりを効果的に進めるうえでの“名参謀役”として期待が高まっているという。合野氏は「欧米からの観光客は歴史を体感し、長期滞在するケースが多いと聞く。福岡を起点に九州全域に足を延ばすことも期待できる」と力説する。
NEC東京オリンピック・パラリンピック推進本部大会整備&運営事業推進グループの藤森偉恭マネジャーは「世界的なスポーツイベントが立て続けに行われる好機を生かし、観光ビッグデータ分析ソリューションの精度を高めたい」と意気込み、「『NEC翻訳』を携えて、おもてなしする側の人たちとの会話とGPSデータを重ねれば、観光行動の実態が把握できるはずだ」と展望を語る。
FDCは九州各県の観光協会と定期的に情報交換しており、新たなインバウンド需要を九州全域で取り込むための戦略作りも検討している。冨田氏は「福岡のMICEがきっかけとなって、九州全体に経済効果が波及することは福岡市としても歓迎したい」と話す。さらに翻訳データの活用は、全国各地の地域活性化策の取り組みにも期待されるという。
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