【Science View】イネの収量に関わる遺伝子の同定/クーパー対を2本の細線に弾道的に分離

 
図 素子の電子顕微鏡写真
矢野憲司氏
松尾貞茂

 イネの収量に関わる遺伝子の同定(理化学研究所革新知能統合研究センター 遺伝統計学チーム 特別研究員・矢野憲司)

 イネの収量は、イネの丈や穂の数、穂の構造など、複数の草型の要素により決定される。このような複雑な要素を解析し、それに関わる遺伝子を同定するには、新しい解析手法が必要だった。

 人工知能を用いた「機械学習」は、分類や予測を行うための統計学的な算法であり、解析データから特徴量を抽出できる。その一つに、事前情報がない状態で特徴量を抽出する「教師なし機械学習」がある。「ゲノムワイド関連解析」は、形質の違いとDNA配列の違いとの関連をゲノム全体にわたり調べることで、対象となる形質と関連する遺伝的変異を統計的に検出する方法である。

 今回、理研と名古屋大学を中心とした研究グループは、日本で育成されたイネ169品種を用いて、草型の指標となる8形質を計測し、教師なし機械学習の一つである「主成分分析」と従来の解析手法であるゲノムワイド関連解析を組み合わせることで、草型に関わる遺伝子の同定を試みた。その結果、イネの収量を制御する14の候補遺伝子が見つかり、その中には植物ホルモンで植物の丈に関わる「ジベレリン」のシグナル制御に関わるOsSPYが含まれていた。この遺伝子に着目し、分子遺伝学的実験により検証したところ、イネの丈だけでなく、穂の数、穂の構造の制御に多面的に関わっていることが明らかになった。

 本研究成果は、イネの収量増加に貢献すると期待できる。また今後、本研究で使用した解析手法を、イネ以外の作物にも応用することが可能である。

【プロフィル】矢野憲司

 やの・けんじ 名古屋大学大学院生命農学研究科生命技術科学専攻博士後期過程修了、博士(農学)。東京大学農学生命科学応用生命化学専攻植物栄養・肥料学研究室特別研究員(日本学術振興会特別研究員-SPD)などを経て、2019年4月から現職。

 ■コメント=生物学と情報科学の統合で膨大な生命情報から有益な遺伝的メカニズムを解明したい。

 クーパー対を2本の細線に弾道的に分離(理化学研究所創発物性科学研究センター 量子機能システム研究グループ 基礎科学特別研究員・松尾貞茂)

 赤矢印は、本研究で同定した収量に関わるゲノム領域を示す。この領域には、14の候補遺伝子が見つかり、その中に植物ホルモン「ジベレリン」のシグナル制御に関わるOsSPYが含まれていた。

 ある温度を境にして電気抵抗がゼロになる状態を「超伝導」という。超伝導状態では、「クーパー対」と呼ばれる電子対が形成され、エネルギーの消費がないため、電流が永久に流れる。クーパー対は2つの電子が空間的に離れた「量子もつれ状態(複数の粒子間に生じる量子力学的な相関)」にあることから、2つの電子を分離できれば、量子コンピュータなど量子情報処理の高速性が期待される。しかし、これまでクーパー対を分離するには、電子の閉じ込め構造である量子ドットを用いる方法しかなく、分離された電子の持つ量子もつれ状態に関する研究は停滞していた。

 今回、理研の研究チームは、並列に配置した2本の半導体「ナノ細線」インジウムヒ素(InAs)上に、超伝導体アルミニウムを接合したデバイスを作製した。接合間を流れる超伝導電流を測定した結果、量子もつれ状態にあるクーパー対を形成する2つの電子が、2本のナノ細線中へ効率良く、物質中の不純物などにぶつからずに弾道的に分離する現象を発見した。また、この分離効率が1次元電子の相互作用により著しく増大することも明らかにした。

 今後、分離効率のさらなる増加や、1次元電子回路中での量子もつれ状態の制御という新技術の誕生、さらに、クーパー対分離を用いた新たな量子現象を発現するデバイスの実現や、固体中での量子もつれ状態が持つ基礎物性の解明が期待できる。

【プロフィル】松尾貞茂

 まつお・さだしげ 京都大学理学部卒。大阪大学特任研究員、東京大学工学部助教を経て2019年4月から現職。また、18年10月から科学技術振興機構さきがけ研究員も兼任。

 ■コメント=半導体ナノ構造をデザインして新たな現象を創出し、その物理を解明したい。

 ■「理研DAY 研究者と話そう!」 来月15日に開催

 基板上に近接して並んだ2本の半導体ナノ細線(InAs)に、超伝導体アルミニウム(水色の領域)が接合されている。2つのゲート電極(オレンジの領域)に電圧を加えることで、それぞれのナノ細線の電気伝導度を独立に制御できる。

 理化学研究所は研究者と直接話せるイベント「理研DAY 研究者と話そう」を12月15日、東京都千代田区の科学技術館で開催する。講師は仁科加速器科学研究センターの高峰愛子研究員で、テーマは「原子核を捕まえて光でみる」。

 水素、ヘリウム、リチウムといった元素には、それぞれ原子番号が割り当てられ、元素の中には陽子と中性子から成り立つ「原子核」があり、その陽子の数で原子番号が決まる。高峰研究員は捕まえた原子核を、光を使って測る研究をしている。開催要項は次の通り。

 【日 時】12月15日(日) 第1回 14:00~14:30

                第2回 15:30~16:00

 【対 象】一般

 【場 所】科学技術館4階シンラドーム(東京都千代田区北の丸公園2-1)

 【料 金】無料(ただし、科学技術館の入館料は必要)

 【定 員】各回62人(先着順)

 【研究者】高峰愛子研究員(仁科加速器科学研究センター核分光研究室)

 【テーマ】「原子核を捕まえて光でみる」

 【参 照】https://www.riken.jp/pr/visiting/riken_day/

 問い合わせは理化学研究所広報室 E-Mail:outreach-koho@riken.jp