ポルシェの4ドアサルーン(高級セダン)、パナメーラの最上位グレード「パナメーラ ターボS E-ハイブリッド」に試乗した。4リッターV8ツインターボエンジンに電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHV)だ。車重2.3tの巨体ながら、0-100km/h加速はポルシェブランドを象徴するスポーツカー「911」にも引けを取らない3.4秒のタイムを誇る。最高速度は310km/hに達するという超ハイパフォーマンスカーの走りはいかに-。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz編集部)
5m超のロングボディ
パナメーラはそこそこ見慣れているつもりなのだが、車両をじっくり観察すると改めて体躯の大きさを実感する。ボディサイズは全長5049×全幅1937×全高1399mm。いわゆるFセグメントに属する大型高級車であり、メルセデス・ベンツのSクラス、BMWの7シリーズ、アウディA8といったドイツ御三家のフラッグシップセダンと近似するサイズ感となる。これら3モデルとの外形の相違点は、パナメーラの全高が極めて低いことぐらいだ。前後に伸びやかで低く構えた流麗なフォルムはセダン離れしている。ルーフ後端とリヤエンドを結ぶなだらかなラインは、まるで911のようだ。
ポルシェがパナメーラを導入したのは2009年。現行の第2世代は2016年に登場し、今回主役のターボS E-ハイブリッドは2018年に投入された。パナメーラの存在意義を一言で表すなら、「プレミアムサルーンの快適性を備えたスポーツカー」といったところだ。その中でもPHVは電動化を進めるポルシェにとって、パワートレーンの変革期に欠かせない重要なモデルの一つである。それは上級SUVカイエンのトップモデルにもPHVを据えていることからも明らかだ。
ボディサイズに続く第二の驚きは、着座位置の低さだった。想像していた以上にアイポイントが路面に近い。この点に限って言えば、このクルマはセダンではない。完全にスポーツカーだ。目の前に並ぶ5連メーターやダッシュボードの中央に据えたストップウォッチ、インテリアのデザイン形状や車内に漂う雰囲気はしっかりと“ポルシェらしさ”を纏っている。ポルシェに乗るのは昨年取り上げた911カレラのMTモデル以来だが、当時に近い感覚が一気によみがえってきた。
走り出しはデフォルトでEVモードとなる。EV走行による航続距離は最大約50km、最高速度は140km/hほど出せるそうだ。超低速度域から強力なトルクを発揮し、さらに踏み込めばエンジン主体の走行に切り替わる。ツインターボエンジンは550PS/770Nm、電気モーターは100kW(136PS相当)/400Nm、総合的なシステム出力は680PS/850Nmという圧倒的な能力を有している。
走行モードを「SPORT+」に設定すればエンジンが高回転プログラムに切り替わり、アクセルペダルを踏み込むと8速DCTを介しながらあっという間に6000回転まで到達。モーターアシストも入るので立ち上がりから抜群に速い。背後からシートごとガツンと押されるような感覚があり、調子に乗るとあまりの速さに頭がクラっとする。うっかりしていると簡単に法定速度をオーバーしてしまうほど強烈な加速だ。高速走行時はレールの上を走っているかのような安定感がある。路面の凹凸を一発で吸収する足回りは、さすがとしか言いようがない。視線が全くブレないのだ。この安定性や快適性はアウトバーンに乗っても乱れることがないのだろうと想像する。エンジン音をそれほど派手に演出していないのは、サルーンの落ち着きや快適性を意識してのことだろうか。
シャシーが下がり、電動スポイラーが作動
「SPORT+」を選択中はサスペンションがきゅっと締まり、車高も下がる。すべてが超高速走行に備えたセッティングに様変わりするのだ。一定速度に達すると自動でせり上がるスポイラーは3分割しながら左右に開き、再び合体して1枚のフィンとなる構造だ。しばらくその存在すら知らなかったため、ルームミラー越しにビシッと翼を広げたスポイラーが姿を現したときは、思わず「うぉ、カッケー」と唸ってしまった。動力性能から随所に見え隠れする仕掛けまで、いろんな意味で常識が当てはまらない特別感のあるサルーンだ。
パナメーラはフロントエンジン・レイアウトで、試乗車は後輪駆動を主体とした四輪駆動方式を採用している。ステアリングはそれほど反力を感じさせない味付けだが、わずかな舵角の変化も感じ取ることのできる操舵感がある。けっして過敏に反応することもなく、むしろしっとり上品にノーズの向きを変える印象だ。ハンドリングが自然で滑らかゆえに、箱根のワインディングも気持ちよく駆け抜けることができる。これには、走行状況に応じて後輪にも舵角を与えるリアアクスルステアリング機構が寄与しているものと思われるが、実際に「いまこれだけ後輪が動いている」と体感できるほどの効果は分からなかった。
徹底してデジタル化されたインテリア
足元には21インチのミシュラン・パイロットスポーツ4とカーボンセラミックブレーキを履いている。ホイールに目をやると、ポルシェ・ハイブリッド車の象徴でもあるアシッドグリーン(蛍光の黄緑色)に塗装された巨大なブレーキキャリパーがアピールしてくる。その大きさを見るだけでブレーキ性能の高さが伝わってくるほどの存在感だ。
インテリアの使い勝手は慣れるまで戸惑うかもしれない。かなりデジタル化されているからだ。ダッシュボードに組み込まれた大型モニターはもちろん、コンソール周りのエアコンや車両セッティングの操作スイッチまでタッチパネル化されている。中央に構えるエアコンの吹き出し口も同様で、なんとタッチパネルを操ってフィンの向きを変えるのだ。未使用時はベントが完全に閉じた状態となる。5連メーターも中央のタコメーター以外はデジタル式で、ステアリング上のスイッチを使って表示内容を切り替えることが可能だ。
サルーンとしての快適性はどうか。まずフロントシートは頭部周辺の天井部がくり抜かれた形状で、身長172cmの筆者でこぶしが1個以上入るほどのヘッドクリアランスを確認できた。リヤシートは独立型の2座となっており、特に大柄でもない限り窮屈に感じることはないだろう。後席中央にもコントロールパネルがあり、シートヒーターやブラインドの開閉操作などが可能だ。ちなみにこのクラスのシートになると、着座した瞬間に卓越した品質であることを知ることができる。シート形状やホールド感、素材の張りや感触といったすべてが細部まで作り込まれており、とにかく極上なのだ。
トランクは大型のゴルフバッグを2つほど積むことができる。リヤシートを倒してトランクスルーにすることも可能。クーペ型サルーンだからこそ、状況に応じた使い方ができるのも魅力だ。
試乗中に気になったのは3点。高速走行時とは逆に、低中速で路面の凹凸を拾いやすいこと、コインパーキングの出入り口や駐車時の切り返しに難儀したこと、そして、モーター走行はエモーショナルさに欠けることだ。強力なトルク感は魅力的であるものの、個人的な意見として、エンジンよりも感情に響きづらい。これは車両の性格や車格を理解したうえで割り切る必要がある。
スポーツカーか、サルーンか
パナメーラは卓越したパフォーマンスを持っているが、ボディ形状や使い勝手を考えればサルーンだ。しかも“超”のつく高性能サルーンであることはスペックを見ても明らか。最も印象的だったのは、居住性に配慮したサルーンでありながら、ドライバーを中心に設計されている点だ。圧倒的なパワーでまっすぐ走るだけではなく、抜群の操縦安定性とスポーツカーフィールを融合させて「走る・曲がる・止まる」を高次元で実現している辺りに、ポルシェがサルーンを手掛ける意味があるように思えた。そうでなければ、他社のプレミアムサルーンでも事足りる。後席を意識しなければスポーツカーを操っているような気分にもなる。そしてターボS E-ハイブリッドには、環境にも配慮した「電動化」という付加価値も与えられているのだ。
恐らく、ライフステージに合わせて911からパナメーラに乗り換えた人、または検討している人は割と多いと考える。例えば結婚したり家族が増えても、ドライビングプレジャーを放棄する必要はないのだ。とはいえ、同乗者が酔わないように丁寧な運転を心がける必要はあるだろう。家族からブーイングを浴びないためにも、せめて「SPORT+」は1人ドライブのお楽しみにした方がよさそうだ。
【乗るログ】(※旧「試乗インプレ」)は、編集部のクルマ好き記者たちが国内外の注目車種を試乗する連載コラムです。更新は原則隔週土曜日。アーカイブはこちら