「これが教育とは思えない」 失踪に洗脳状態…その部活、ブラック部活です

 

 【教育はいま】長時間の拘束や高圧的な指導などで生徒を苦しめる中学・高校のいわゆる「ブラック部活」について、問題の多さを測る指標「『部活』健康度尺度」を奈良大の太田仁教授(社会学)らが作成し、今月上旬の日本社会心理学会で発表した。太田教授は「渦中にいる顧問や生徒は『これが普通』と思いがち。校長や周囲の関係者が尺度を活用してチェックし、ブラック部活を減らすきっかけになれば」としている。(木ノ下めぐみ)

 部活動をめぐっては、平成24年に大阪市立桜宮高バスケットボール部の男子生徒が体罰を受けて自殺。今年5月にも、兵庫県尼崎市立尼崎高のバレーボール部で顧問による体罰が発覚するなど、子供たちが心身を傷つけられる事例が後を絶たない。

 太田教授らは、こうした問題を受け、中高での部活を経験した大学生や中高の養護教諭ら約30人から聞き取り調査。「過酷な部活のため心身ともに疲れ果てていることが多かった」「顧問は部員の個人的秘密を守らないことがあった」などの61項目を、部活の「健康度」を測る指標としてまとめた。「まったくあてはまらない(1点)」から「よくあてはまる(5点)」で集計し、点数が高いほど悪い。満点の6~7割を超えると「不健康」と判断する。

 全国の大学生約260人に、中学・高校での部活を振り返ってこれらの指標で集計してもらうと、「部活で精神的に追い込まれた」「顧問の指示が絶対だった」「休日が少なすぎると思っていた」といった項目に、多くの人が「よくあてはまる」と回答。太田教授は「一般社会なら人権侵害ともいえる行為が、部活動では当たり前のように横行している」と指摘し、今後、20項目程度に絞り込んだ上で学校現場での活用を促すという。

 部活動が“ブラック”か否かを統一した指標で調べる手段はこれまでほとんどなく、子供へのスポーツハラスメントに詳しい東京未来大学の大橋恵教授は「今回の尺度で(問題のある)行為を具体的に示すことで、どういう指導が望ましいのかをイメージしやすくなる」と評価している。

強豪校ほどブラック化

 部活動をめぐっては、特に勝利にこだわる強豪校で、顧問が期待に応えられない部員に罰を与えるなどの問題が起こりやすい。顧問による直接の圧力や暴力だけでなく、チームメートからも責められた生徒が孤立し、精神的に追い詰められる状況も起こっている。

 関西の私立女子高のダンス部では2年前、3年生の部員が一時、失踪した。同部は全国大会で毎年入賞する強豪校で、学校の期待も厚く、部専用の練習場所や専属コーチもいた。だが、大会での好成績を求められたコーチが技量不足の部員を指弾し、部員間の関係も悪化。仲間から、なぜできないのかと責められた部員は「死にたい」と思い詰め、下校中に失踪した。錯乱状態で歩き続け、数時間後に発見されたという。

 同校の女性養護教諭は「部活を理由にうつになる生徒が毎年、出ている。これが教育とは思えない」と疑問を口にする。

 奈良大の太田仁教授は「私立の強豪校は学校や保護者から結果を求められるあまり、ブラック化しやすい」と指摘。また、「勝利至上主義から顧問と部員に絶対的な上下関係が生まれると、部員は過剰に集団への帰属意識を持つようになる。カルト宗教にはまっていく状況に酷似している」と説明する。

「本来生徒を育むべき部活動によって、生徒がダメージを受けているのであれば本末転倒だ」と危機感を募らせる太田仁教授=奈良大学

 一方で、強豪とはいえない普通の学校でも、問題は起こっている。

 大阪府内の私立高で、年間の休日が盆と年始の数日間しかないバレーボール部に所属していた女性(25)は「弱小部だったが、休むことは許されず、それが当然だと思い込んでいた」と振り返る。練習中に過呼吸になった部員をコート外に運ぶと、顧問がその部員の顔面にボールを投げつけ、「コートに戻れ」と叫んだという。「絶対的存在の顧問を怒らせないよう細心の注意を払った。当時は“洗脳状態”でした」

 部活動に所属していない生徒への圧力もある。岡山県の公立中出身の男子大学生(19)は、部活動をしていないクラスメートに対し、担任が「ここには部に入っていない者がいる」と嫌みを言ったことに違和感を覚えた。自身も部活動をやめたいと相談した際に怒鳴られたといい、「部活の加入は本来自由であるべきだ」と訴えている。

 【ブラック部活】 顧問や指導者から部員に対し、体罰や人格否定、長時間拘束などの問題のある部活動。休日返上で指導に当たる教員への過重負担を指す場合もある。部活動は学校教育の一環ではあるが教育課程には含まず、文部科学省は、生徒と教員、生徒同士の人間関係を構築したり自己肯定感を高めたりする多様な学びの場として位置づける。部活動は自主的、自発的な参加によるもので、本来強制はされない。