「日本にできれば働きたい」カジノで働く日本人 “大使”ベッカム氏にも質問
【シンガポールIRのいま(下)】シンガポールの統合型リゾート施設(IR)「マリーナベイ・サンズ」には、85人の日本人が勤務している。取材した3人の日本人は、いずれも「日本にIRができれば日本のために働きたい」との意向を示した。カジノで働く彼ら、彼女らは、どんな“志”を持っているのか。(天野健作)
「日本の先駆者に」
「日本ではカジノに関して経験者がまだまだ少ない。日本でIRができれば何か役に立ちたい。戻って働くことができれば、この業界の先駆者になれるチャンスだと思う」
サンズで世界のカジノの動向を分析する部署に勤める栗原美里さん(38)=東京都江東区出身=は、こう期待する。
大学卒業後、外資系ソフトウエアに5年間務めた後、英国に2年間滞在。帰国後、ゲームなどを取り扱う会社に勤める傍ら、カジノディーラー養成コースに通った。2014年、修了と同時にサンズのカジノディーラーとして約3年働く。2016年にはディーラーの腕を競う大会でブラックジャックとバカラで決勝まで進出した腕も持つ。
ディーラーの経験の中で、カードをちぎって投げつける客もいた。日本のカジノ導入について「懸念はもっともだ。リスクと楽しさの両方を知って遊べたらいいのでは。カジノだけではなく、何事にも両面がある。カジノに焦点が当たれば、責任あるギャンブルが進むようになり、リスクは下がると思う」と期待する。
大人の社交場
名前から「ジャスティス(正義)」と呼ばれることもあるという斉藤正義(まさよし)さん(38)=東京都世田谷区出身。サンズで働く日本人の中でも、カジノ業界で最も長い経験を持つ。
「ギャンブル依存症への対策は欧米よりも、シンガポールでは高いレベルが求められている。隙がないよう、厳しくやっているように感じる」
日本でカジノのディーラー養成コースに入ってノウハウを学び、2007年にはニュージーランドに移ってディーラーとして勤務。オーストラリアなどでも活躍した。高齢者らも遊ぶ「大人の社交場」として、カジノはシンガポールの文化になったと感じている。
斉藤さんは「依存症が増えるとか、治安が悪くなるとか日本ではいわれている。シンガポールと日本は違う。日本人が納得し、日本に合ったシステムをつくる必要がある。IRができて悪くなるということは絶対あってはならない」と強調した。
VIPを接遇
カジノの中でも特上の客(VIP)を接遇しているのが佐藤恵介さん(47)=横浜市出身=だ。VIPルームでは、最低かけ金が500シンガポールドル(4万円)。最高は75万シンガポールドル(6000万円)にもなる。
「IRは横浜に注目している。出身地に戻れるなら願ったりかなったり。日本にできるのを目の当たりにしたい」
ハワイの大学を卒業後、日本に戻ってツアーコンダクターとして就職。不動産会社などを経て横浜のビリヤード店の店長になった。サンズでは5年目になる。
「ゲームやエンターテインメントに興味があった。いいチャンスに恵まれ、迷わず飛び込んだ。お客さんなど、人との関わりがすごく面白い」とその魅力を語る。
一方で、日本の“カジノアレルギー”に関しては、「シンガポールでも日本人の客が増えた。実際にやってみてイメージが変わってきているのでは。言葉でどうこうよりは一度見てもらうのが最短だ」と話した。
「スーパースター」が語る東京五輪
今回のシンガポール取材では、「スーパースター」にインタビューする機会にも恵まれた。サッカー元イングランド代表のデビッド・ベッカムさん(44)だ。
サッカー・ワールドカップ(W杯)に通算3回出場し、2013年に現役引退。正確無比な右足のキックと端正なマスクで「ベッカム・フィーバー」を巻き起こしたのは記憶に新しい。
現在は国連児童基金(ユニセフ)の親善大使を務めるなど、世界を飛び回る生活を送っており、マリーナベイ・サンズを運営するIR運営大手ラスベガス・サンズのブランド大使を務めている。
産経新聞を含む複数メディアのインタビューに応じたベッカムさん。せっかくなので、IRではなく来夏に迫った東京五輪・パラリンピックについて質問を投げかけると、魅力的な笑顔を浮かべ「レガシー(遺産)をつくることが大事」と語った。
「五輪がある間だけが興奮する時期ではない。その後も続けることができる。大会期間中は、日本がどういう所か、東京が何をもたらせるか、ショーケースのような時期になる」と強調。その上で「大会後が心配なのは分かるが、レガシーを次に何に使うか、次の世代に何ができるかを考えるべきだ」と促した。
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