2020年1月26日より全6回で開催されるドライビングイベント「大人の自動車教習所2.0」のメディア向け先行体験会に参加してきた。舞台は富士スピードウェイ。用意された車両はスポーツカー5車種。指導するのはル・マン24時間耐久レースにも参戦した現役プロドライバーだ。しかも、とりあえず向こう1年間は参加費が無料だという。クローズドコースだからこそ可能な限界スレスレの運転を通して、クルマの楽しさと危険性を体験してきた。(文・大竹信生/SankeiBiz編集部)
「2.0」とは何のこと?
午前11時の富士スピードウェイ。会場となるサーキット敷地内のP7駐車場には、スポーツカーがずらりと並んでいる。1台はプロドライバーの運転による同乗試乗に使用するポルシェ「911 GT3 RS」。残りは参加者が実際にハンドルを握る「アバルト124スパイダー」「VWゴルフGTI」「スバルBRZ」、そして「スズキ・スイフトスポーツ(スイスポ)」をチューニングしたコンプリートカー(専門メーカーが市販車を改造したオリジナルの完成車)だ。
そもそも「大人の自動車教習所2.0」とは、教習所では充足できない“究極の安全運転体験”を通して、20~30代の若者にクルマの楽しさを無料で体験してもらうイベントだという。そこで「2.0」とは何のこと? といった疑問がわく。当イベントを運営するHC GALLERYの佐野順平氏によれば、「1.0は普通の自動車教習所。すなわち、クルマで安全に移動する技術を学び運転免許証をもらうところだとしたら、2.0はクルマをもっと好きになり、同時に安全性にも磨きをかける場所」だと話す。
急加速や急ブレーキ、雑なハンドル操作やウェット路面など、クローズドコースだからこそ可能なトレーニングを通して、運転する楽しさだけでなく、“クルマの限界”を知らずに運転することの恐ろしさを体験できる場所なのだという。
講師を務めるのは、ル・マン24時間耐久レースやブランパンGTアジアに参戦している現役レーシングドライバーの澤圭太選手。レース歴21年、表彰台獲得率40%超という速さと確実さを兼ね備えたベテランドライバーで、サーキットレッスンイベント「ワンスマ」も主宰している。
ちなみに、この日のプログラムの流れはこんな感じだ。
■11:30~13:00 走行1(ショートオーバル)/同乗走行
■13:00~14:00 ランチ⇒澤選手による講義
■14:00~15:30 走行2(ハート型コース=ウェット路)/911 GT3 RSエキシビション走行(同乗試乗)
■15:30 閉会式、解散
ブリーフィングでイベントの概要や注意事項を確認後、いよいよ最初のプログラムが始まった。ヘルメットとグローブを着用した筆者はやる気満々だ。
まずはパイロンを卵型に並べたオーバルコースを舞台に、インストラクターの山田遼選手によるデモ走行を見学する。その後、実際に同乗して、加速から停車するまでの一連の流れの中で、ABS(アンチロック・ブレーキシステム)が作動するまでのブレーキの踏み込みや、そのままブレーキを緩めながら丁寧にピタリと停止するまでの感覚、コーナリング時に限界に近づく感覚などを体験する。そのときにプロから吸収した走行感覚を頼りに、自身でハンドルを握る単独試乗に備えるのだ(筆者は最近、プロによる“ガチ”の同乗走行に酔いやすくなってきたため、スタッフに申し出てスキップした)。
筆者が走行1でハンドルを握ったのはBRZ、ゴルフGTI、スイスポの3台だ。まずはBRZで走行感覚や路面の感触を確かめながら、急加速や急ブレーキを試したり、コーナリングに挑む。ギアはスタッフの指示に従い、2速に固定したままだ。
ペダルに力をこめるとスポーツカーならではの鋭い加速感はもちろん、ブレーキを踏み込んだ瞬間に強烈なGフォースが体を襲う。コーナーでハンドルを切ると、FR(後輪駆動)らしくグイグイとイン側に切り込んでいく。コーナーの途中でさらに舵角を与えながらアクセルを踏み込むと、後輪がアウト側へ流れ始め、車両のバランスが崩れてくる。徐々に限界に近づいているのだ。それでも無理をすると、それまで描いていたきれいなラインが突如乱れ、慌ててカウンターを当ててライン修正を図る必要に迫られる。
個人的なベストカーは「ゴルフGTI」
次に試乗したゴルフGTIは最も理解のしやすいクルマだった。コーナリングの限界が分かりやすいため、安心してプッシュすることができる。クルマを上手に操っているときは、ドリフト中にタイヤから綺麗なスキール音を発するのだ。FF(前輪駆動)ということもあるだろうが、クルマの挙動が突如乱れるような素振りは全くない。ハンドリングやグリップ状況など、クルマの反応から走行状態が把握しやすく、いかなる状況でもクルマをコントロールしやすい。いわゆる《クルマとドライバーの会話》が最も成り立っている一台だと感じた。
スイスポは名門「モンスター」がチューニングしたMT車だ。イベントでもなければ、こんなニッチなクルマを運転する機会などないだろう。オーバルはもちろん、走行2のハート型ウェット路でも試乗したのだが、加速もハンドリングもとにかくシャープ。足回りもカチコチに絞り上げており、コーナーで加速してもアウト側に垂れることなく、キビキビとカーブを駆け抜けていく。なかなかスパルタンな味付けで操る楽しさがあるのだ。扱いやすさはゴルフGTIに分があるが、個人的にはラインアップの中で最も速いクルマだと感じた。
スイスポでの走行を終えると、山田選手から「ウェット路はコーナーの途中でアクセルを踏まない方がいいです」と助言があった。「それでは挙動が安定しないので、コーナーを抜けたタイミングで、直進するイメージでアクセルを踏み込むともっと安定します」と改善ポイントを分かりやすく指摘してくれた。
ウェット路で苦戦したアバルト
走行2ではアバルト124スパイダーにも試乗した。ドライ路面では試乗機会がなかったので分からないのだが、スタッフから事前に聞いていた通り、ウェット路で簡単にスピンしやすいことにかなり驚かされた。これにはFRの特性に加え、車重1060kgに対して最高出力170PSというパワーウェイトレシオ(出力重量比=6.2kg/PS)が大きく影響しているはずだ。一瞬でも減速が遅れたり、無理にハンドルを切るとクルマの“お尻”がアウト側に振り回され、狙ったラインからあっという間に逸脱する。ライトウェイトのFRスポーツカーが濡れた路面でいかに挙動を乱しやすいか、ほかの車両と同時比較することで身をもって知ることができた。
というように、ひと言で「クルマ」と言っても、駆動方式やエンジンの搭載位置など構造によって性質や限界ポイントは大きく異なる。ペダルの重さやハンドルの操作感覚もばらばらだ。同じ状況下で同じ操作を行っても、クルマの反応は異なるのだ。クルマを安全に運転するには、車両ごとの特性をしっかりと理解することや、異なる環境下で車両の動きを予測できることが重要なのだと、今回のイベントが改めて教えてくれた。様々な車種をイッキ乗りできる最大のメリットはそこにある。
澤選手による講義では、《運転のうまい人・うまくない人》をテーマに参加者を交えた議論が行われた。その中で澤選手は、「重要なのは先読みができて、自らの経験や記憶を意識しながら逆算思考で状況判断できるか否か。その中で精度の高い運転操作をして、これらの経験を総合活用しながら、要領よく運転するために工夫することが大事」だと結論付けていた。
プロドライバーによる的確な指導と講義を受けながら、憧れのスポーツカーを乗り比べる機会などそうそうないだろう。しかも参加費は無料だ。佐野氏は「もし今回の体験を通じて、クルマが好きだな、買ってもいいかな、という若者が出てきたら、ぜひクルマを持ってもらって長く楽しんでほしい。そのために今回はゼロ円で、とりあえず1年間提供してみようと思う」と無料開催の狙いを語る。もし参加に興味があれば、「大人の自動車教習所2.0」のHPで申し込み方法や日程を調べてみてほしい。ちなみに募集は21~33歳限定だ。
【乗るログ】(※旧「試乗インプレ」)は、編集部のクルマ好き記者たちが国内外の注目車種を試乗する連載コラムです。更新は原則隔週土曜日。アーカイブはこちら