最近、街中で一台のハッチバックに目を奪われることが多くなってきた。思わず目で追ってしまうそのクルマの名前は「MAZDA3」。マツダが新商品群の第一弾として世に送り出した、アクセラの後継車だ。今回は1.8Lディーゼルモデルに試乗。横浜-城ケ島を往復する小春日和のドライブを通して、デザインを中心とした魅力や改善を望むポイントをじっくりとチェックしてきた。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz編集部)
コンセプトカーの美しさをそのまま反映
期待を裏切らなかった-。MAZDA3の眩いエクステリアデザインのことだ。このクルマは、2017年の東京モーターショーで披露されたコンセプトカー「魁 CONCEPT」をベースに開発されているのだが、美しいコンセプトカーが量産化された途端、面白みのないデザインに姿を変えて落胆する、というのはよくある話だ。MAZDA3は、あのとき大絶賛された魁 CONCEPTの艶やかな造形美を、そのまま市販車に落とし込むことに成功したのだ。その裏には「少しも妥協したくない」という開発者たちの強い意志と、並々ならぬ努力があったのだろうと想像する。ちなみにボディタイプはアクセラ同様、セダンとハッチバック(モデル名は「MAZDA3ファストバック」)の2種類を展開している。セダンはトランクに向けて伸びやかな印象だ。
マツダのラインアップを一覧すると、どのモデルもよく似ている。その理由は、「魂動(こどう)」と呼ばれる統一したデザインテーマのもとに開発しているからだ。これは、クルマに「命」を与えるというマツダ独自のデザイン哲学だ。デザイナーやモデラーといった匠たちの「魂」を込めることでクルマに息吹を吹き込み、動物が持つ生命感や躍動感をカタチにして表現しているのだ。
この魂動デザインは、新商品群のトップバッターとなるMAZDA3から新たなフェーズに突入した。《引き算の美学》の考え方のもと、不要なものを削ぎ落すことで「控えめでありながら豊かな美しさを持つ」との日本の美意識をクルマで表現する試みだ。
深化した魂動デザインを纏ったMAZDA3。個人的には特にリヤの造形に惹き付けられる。リヤピラーとフェンダーを結ぶ妖艶な曲線や、尻上がりにカットされた後席ウインドーの形状がもたらすリヤクオーター周辺のボリューム感。そして、極端に寝かせたリヤウインドーやテールランプ周りのボディの張り出し。このシルエットだけで「MAZDA3だ」と分かるアイデンティティと、ほかにはない独特の麗しさがある。むやみやたらに線を加えることなく、ボディの「面」で動きを表現することで、矛盾するかのように “さりげなく圧倒的”な存在感を生み出しているのだ。
研ぎ澄まされたデザインセンス
運転席に収まると、これまた優雅で洗練された空間に包まれる。第一印象は「シンプル」。おそらくこれが「引き算の美学」なのだろう。余計な加飾は見当たらない。かといって物足りなさもない。エレガントという言葉がしっくりくる。
深紅の本革シートやインパネトリムに配した合皮、エアベントやスイッチ類にあしらったメッキパーツなど、複数の素材をセンス良く組み合わせている。細部に施したステッチやスイッチ類のカチッとした感触からは、一つひとつこだわりながら、丁寧に作りこんだ様子がひしひしと伝わってくる。これが「魂を込める」ということなのだろう。この手作り感が温もりや感情という形でドライバーを刺激し、品質の高さがクラスを超えたプレミアム感を醸し出しているのだと思えた。高級輸入車ならまだしも、222万円スタートの国産Cセグ車だ。個人的には、他の日本メーカーでここまで研ぎ澄まされたデザインセンスや上質感に浸れることはないと思えるほどに、惚れこんでしまった。
MAZDA3には「ガソリンとディーゼルのいいとこ取り」などと高く評価されている話題の新世代ガソリンエンジン、「SKYACTIV-X」が昨年12月に追加投入されたが、今回は1.8Lクリーンディーゼルに試乗した。
出発後の最初の印象は、初速~中速度域のトルクが予想に反して細いということだ。アクセル操作に対してまろやかな反応を見せる。ステアリングは遊びが少なく手ごたえのあるタイプで、操舵に対してごく自然にジェントルに応答する。乗り手によって意見は異なるかもしれないが、このしっとり滑らかなステアリングフィールは、私が個人的に持っているマツダ車特有の感覚だ。
高速道路でアクセルを踏み込むと、4500回転付近までスムーズに回るが、その先は伸び感が薄れていく。以前試乗した2.2Lディーゼルの先代アクセラ(420Nm)の力強い感覚が残っていたこともあるのだが、今回の1.8L(270Nm)はどちらかというと、1.5LのCX-3に近似する感覚がある。
足回りは硬めで路面からコツンコツンと小さな入力が伝わってくるが、ショックの処理が早く不快感を残すことはない。静粛性の高さは、ロードノイズの大きさにガッカリした先代アクセラからの大きな改善点だ。ディーゼル特有のカラカラ音も、停車中にわずかに聞こえる程度で、いったん走り出せばまったく気にならなかった。
走行感覚は速度域を問わず安定感たっぷり。駆動トルクを制御して操安性や乗り心地を向上させる「G-ベクタリングコントロール」が寄与しているようで、コーナリング時の姿勢も安定している。多少の下手な運転も、加速や舵角などから挙動の乱れなどを感知し、電子制御でバランスを正してくれるのだ。
ブレーキペダルを踏んだ時の感触は秀逸で、ドライバーの感覚と実によくマッチしていた。低速走行時のブレーキングで突然カックンと減速することもない。ドライバーの踏み込みに対してわずかにペダル側から押し返してくるような反力があり、踏み込み具合がミリ単位で分かりやすいのだ。このあたりにもドライバーの操作感覚に重点を置いた徹底したこだわりを感じる。
ついつい目で追ってしまう理由
先代アクセラはエアコン操作パネルの配置場所が低すぎたため、「シフトレバーが邪魔をして使いづらい」と指摘したことがあったが、MAZDA3はセンタークラスターの上段に設置することで使い勝手が格段に上がった。また、操作頻度の低い「シートヒーター」や「ハンドルヒーター」を下段に、運転中に触れる回数の多いエアコン系のスイッチを上段に配置換えしてはどうか、とも記したが、こちらもそのように改善されていた。きっと同様の意見が多く寄せられたのだろうと推測する。ワイドになった8.8インチのセンターディスプレーも見やすくなった。
居住性だが、前席はスペースに余裕があり非常に快適。シートは腰周辺のサポート性が高く、ヘルニア持ちの筆者にはありがたかった。後席も足元・頭上にそれなりのスペースを確保しているが、リヤピラーをキャビン側(内側)に寝かせた形状のため、頭を少しでも外側に傾けるとピラーに触れてしまう。車体を真後ろから見ると、非常に分かりやすい台形を描いている。デザイン性を優先したボディ形状が、後席乗員にやや窮屈な思いをさせてしまう。乗降時に頭をぶつけやすいというデメリットもあった。
また、後席のドアを閉めたときに、Cピラー側の丸みを帯びた部分が、まるで団扇を仰ぐかのように一瞬バタバタとする。一度ドアを閉めた際に安っぽい感触があったため、続けて2~3度、確認のため開け閉めをしたほどだ。ドア形状を考えると致し方ないのかもしれないが、MAZDA3の中で唯一、安普請に感じた部分だ。試乗後に、どこかのメディアで全く同じ指摘をしているレビューを見かけたということは、やはり可能であれば改善すべきだろう。
いくつか気になった点も指摘したが、見る・座るだけで、ここまで強く感情を刺激してくるクルマはなかなかないだろう。独特のオーラは見る者の関心を一瞬で惹き付ける。ひとたび試乗すれば「こんなにカッコよくてお洒落なクルマを所有したいなぁ」と素直に思わせる。マツダの狙い通り、クルマが生命感を匂わせたとき、人は自然と感情的なつながりを感じてしまうようだ。
そして、写真を撮りながら気づいたことがある。ボディ表面に映り込む光と影の移ろいが、筋肉質な動物が手足を動かして走るかのような躍動感を与えているのだ。光の反射具合で様々な表情を連続的に見せるからこそ、片時も目が離せないクルマなのだろう。MAZDA3を見かけるたびに目で追っていた理由は、そこにあるような気がした。そして自ら運転してみると、今度は歩行者や周囲のドライバーから目で追われていることを、ふとした時に実感するのだ。
【乗るログ】(※旧「試乗インプレ」)は、編集部のクルマ好き記者たちが国内外の注目車種を試乗する連載コラムです。更新は原則隔週土曜日。アーカイブはこちら
■主なスペック(ディーゼルXD Burgundy Selection)
全長×全幅×全高:4460×1795×1440mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1410kg
エンジン:水冷直列4気筒DOHC直噴ターボ
総排気量:1.8L
最高出力:85kW(116ps)/4000rpm
最大トルク:270Nm(27.5kgm)/1600-2600rpm
トランスミッション:6AT
駆動方式:前輪駆動
タイヤサイズ:215/45R18
定員:5名
燃料タンク容量:51L
燃料消費率(WLTCモード):19.8km/L
ステアリング:右
車両本体価格:304万円(税込)