【お金で損する人・得する人】「親と会話が噛み合わない?まさか認知症?」となる前にできること(前編)
年末年始に実家に戻り久しぶりに親と会話をしたという人は多いのではないでしょうか。筆者は仕事柄、50代、60代の方から実家の親に関する相談を受けることがあります。この年代の方が不安に思っていることの1つに親の財産管理に伴う認知症の問題があります。
単に年齢を重ねて記憶力が弱くなっただけならいいのですが、何となく会話が噛み合わないなら要注意。認知症であると診断されれば、財産の管理が難しくなります。状態によっては日常生活にも支障が出ます。筆者の親族にも生前認知症であった方がいますが、状態がひどくなった後は相手が誰であろうが構わず口撃し、手が出てくることもありました。筆者自身は認知症の専門家ではありませんので、お金の専門家として家族が認知症になった場合に起こりうることと対策を考えました。
認知症になると財産管理が法的に難しくなる
認知症に限らず、自分の意思をきちんと表明できなくなると、意思能力がないとして金融機関との取引や契約行為が事実上できなくなります。正常な判断ができないと見なされるためです。例えば、銀行の支店でお金を引き出そうとしても意思能力がないと見なされればお金を引き出すことはできません。もし銀行が認知症であることをわかったうえで預金の引き出しを認めれば、間違いなくコンプライアンス違反となります。また、引き出したお金を盗まれたり、振り込め詐欺などの被害にあったりしてしまえば、親族から損害賠償請求される可能性もあります。
一方で、生きるにはお金が必要なため、預金の引き出し自体は必要です。ただ、親族や家族が代理で引き出すことも難しいため、事前に家族用のキャッシュカードを準備したり、本人のキャッシュカードを家族が代理で使って、暗証番号を入力して預金を引き出したりすることもあります。家族が親のお金を引き出すこと自体も、相続時点でトラブルになる可能性が高くなります。
もし高齢の親が自分でお金を引き出そうとしても、認知症の影響によりATMで暗証番号を忘れてしまえば、キャッシュカードがロックされます。手続きの順番を忘れたりすることで、お金を引き出せなくなることもありえます。引き出せたとしても、現金をどこかにしまって忘れてしまい(通帳では引き出したことになっているので)、家族に盗まれたと言うかもしれません。実際に、高齢の方で自分が片づけたり、誤って捨ててしまったりした大切なものが見当たらず、家族や介助者を泥棒よばわりする人はいます。
もし、ひとり親、一人っ子の関係であれば、誰も文句を言いません。家族カードを使おうが、親のキャッシュカードを使おうが、日常生活で必要な資金の引き出しは問題ないでしょう。しかし、子の一人が同居して介護をしながら財産を管理するような場合は親が亡くなった後、財産管理で文句がでることもあるでしょう。正しくお金を管理していても、介護でお金が必要になっただけでも、他の親族からは不可解に見えるのです。
後見制度活用ならトラブル防げる可能性
通常は認知症になってしまえば、本人が財産を管理することが難しいため、同居の家族や近しい家族が介護と財産管理を行います。しかし、トラブルを防ぎたい場合や、物理的に親をサポートできない場合は、裁判所に成年後見を申し立て、親族ではない第三者が財産管理を行います。筆者が成年後見に詳しい法律家に聞いたところ、親族が財産を管理するか、第三者になるかは資産規模によると考えられ、裁判所ごとに判断が異なる模様です。法定後見がスタートすると毎月2万~3万円の費用がかかりますが、財産の管理は透明性が担保されるため、親族によるトラブルは防げる可能性が高まります。
ただ、弱点としては財産管理が他人の手によって行われるということ。自由が利きません。
本来は家族が財産管理した方が費用も掛からないのですが、一度法定後見が決まれば、覆すのは難しいでしょう。そうならないように、頭が元気なうちに、つまり認知症になる前に任意後見契約を準備しておくという方法もあります。
万が一、親が認知症になった場合に、事前に取り決めた任意後見契約に基づき、家族や親しい専門家などが後見人になるよう取り決めておくのです。筆者は法律の専門家ではありませんが、このような相談は、敷居の低い筆者のような専門家が初期対応するケースが多いので、司法書士、行政書士などの専門家と連携して対応を協議します。資産規模が大きかったり、お客様自身が弁護士を希望されたりする場合は、弁護士と共同で対応を協議します。
最近は家族信託を希望される方も増えてきましたが、信託組成するまでもない事例が多い印象です。一方で、法定後見など何も法的な対応をしないことによる恐怖感、法定後見による不自由感を理由に、任意後見契約を選択される方がいらっしゃいます。任意後見契約自体が、保険のような役割を果たし、何かあったら使えるし、何もなければ使わない。使うかどうかは家族が判断するということで使い勝手はいいようです。(後編は明日1月16日に掲載します)
【プロフィール】高橋成壽(たかはし・なるひさ)
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役
1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。
【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら
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